第131話

 冒険者ギルドの受付嬢がサラリサラリ。と十分弱程で書いた絵は、『リンクス』の特徴を見事に捉えて描かれていた。その出来栄えに、小さいながらも思わず拍手する。


「すごい。ソックリ……」

「こちらを一緒に貼り出しますね。では、報奨金の項目に――」

「ああ、それなんですが。こういった依頼の相場ってどれくらいなんでしょう?」


 こういう掲示板は初めて利用するのだ。相場が全然分からない。先程見た『筋肉質の猪マッスルボア』は素材込みで五千ドロップだったし、『マンドラゴラ草』の採集は七千ドロップもする。流石に落とし物系は百とか百二十位だったが。


「うーん、こういうのはお気持ちの問題ですから……」


 そうは言っても、安過ぎれば誰にも見向きもされないだろうし、難しい所ではある。でもまあ、飼い主が見つかればソイツに払わせれば良いか。そう思い、報酬項目に千五百と書いて提出した。


「はい。確かに承りました。依頼書は明朝七時に掲示板に貼り出されます。早ければ、お昼くらいには飼い主さんが現れると思いますよ」


 残念ながら明日は決戦が控えている。飼い主が現れたどうか確認するには午後になってしまうだろう。私は会釈をしてお願いをし、家路についた。




 翌朝。昇った陽の光が室内を照らし出す。その光から逃れる様に個室に籠もって目を瞑り、今日行われる決闘のイメージトレーニングをしていた。ピクリ。眉が僅かに動く。と同時に、アイツがゆっくりと姿を見せ始める。色々なモノを押し退けて姿を現したアイツは、重力に引かれてゆっくりと、しかし確実に、独特な香りを撒き散らしながら降りてゆく。


「よし!」


 内包していたモノを全て出し切り、開放感に浸る事もなく気合を入れて立ち上がる。流水レバーを引いてやると、生まれ出たばかりのアイツは、狭い世界から大海へと旅立って行った。


 別れを惜しむ事も無く黙ったままでアイツを見送り、準備を整え始める。シャワーを浴びてサッパリした後、膨らむ胸にさらしを巻く。そして、オジサマからお借りしている貴族の服を、クローゼットから取り出して身に纏い最後に髪を整えれば、エセ貴族カーン=アシュフォードの出来上がりである。


「それじゃ、行ってくるからお留守番お願いね」


 着替えの間、その様子をジッと見つめていた『リンクス』に声を掛けて玄関へと向かい、慌てて引き返す。危ない危ない、アレを忘れちゃお話にならない所だった。

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