第127話

「全く、油断も隙もないわね……」


 渋るルリさんから『リンクス』を奪い返し、暮れゆく陽の光を浴びながら、足は一路サーカス一座の公演地へと向いていた。


 十五日間続いた豊穣祭も残り二日。それだけの間、よくもまあ騒ぎ通したものだ。コッチの世界の人達のタフさに驚きを隠せない。私なら三日目でダウンしているだろうな……




 サーカス一座がある広場は閑散としていた。歓声が時折聞こえてくる事から、本日最後の公演があの天幕の中で行われているらしい。


「いらっしゃいませ。本日の公演は、現在行われているもので最後となります。明日最終日は、朝九時より行いますので、またのお越しをお待ち申し上げております」


 良く通る温もりのある声で、チケット売り場の受付嬢が言う。


「あ、いえ。チケットを買いに来たんじゃなくて、ちょっとお聞きしたい事があるのですが……」

「あ、はい。どの様なご用件でしょう?」

「こちらの団員さんで――」


 カゴの中でウトウトしている『リンクス』を、ごめんね。と呟いてカウンターの上に乗せる。


「このコを飼っている方っていらっしゃいませんか?」

「こちらの獣さんですか……? 少々お待ち下さい」


 そう言い残し、受付嬢は奥へと引っ込んで行った――




 公演を見ていた観客達が、天幕から吐き出され始めた頃、ようやく戻って来た受付嬢に、団員達が寝泊まりしている馬車の一つへと案内された。


「団長が参りますのでもう少々お待ち下さい」


 ペコリ。とお辞儀をして、受付嬢はドアを閉める。サーカス団の、それも団長の部屋に入るのはもちろん初めてだ。


 ほんの少し視線を動かすだけでも、様々なモノが視界に入る。色々な表情をした『ピエロの仮面』。マジックショーでよく見る、『箱に剣を刺すヤツ』のミニチュア。『ステッキの柄から先に花が咲いているモノ』。そして、何故か半裸の団長像。


「なんか、サーカスというよりマジックショーの楽屋だよね……これなんかモロそうだし……」


 樽の上に置かれた『箱に剣を刺すヤツ』をヒョイ。と持ち上げる。


「勝手な事をされても困りますな」

「え? うわっ!」


 間近で聞こえた声。落とした視線と見上げる視線とがかち合い、驚いて思わず後退った。


 床に置いてあった樽がゆっくりと持ち上がり、そしてその両脇からは腕が生えてゆく。ジャキン、ジャキン。とした音が聞こえてきそうな勢いで手足が生えると、最後に頭が樽から飛び出して、正に樽団長の完成である。超合金のオモチャみたいだ……


「何て所から現れるんですかっ!?」

「サーカス団の団長たる者、普通に登場しては沽券に関わりますからな」


 心臓に悪いからソコは普通に登場しようよ!

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