第106話

 てしてしてし。とネコパンチを繰り返し、お尻をフリフリさせて鉱物へと飛び掛かる。その姿に中枢神経を貫かれた。ヤダ、可愛過ぎるっ!


 やがてソレに飽きた様で、今度は部屋の中を駆け出した。行動を見ている限りではネコなんだけど、異世界にも居るのかな……? 少なくとも今まで見た事は無いんだけど。『ワルドキャット』という『虎』以外は……


 と、ドアをノックする音が聞こえた。


『お姉様。リリーカですわ』

「あ、はーい……ちょ、ちょっと待ってて」


 テーブル上に置かれた鉱物を枕の下へと慌てて隠してドアへと向かう。そしてまた室内に引き返す。シャツにパンツ一丁だって事を忘れてた。




 身なりを整えてドアを開けると、リリーカさんが申し訳なさそうな表情で立っていた。


「あのお姉様、少しお話が……」

「え? 話……?」

「はい。そうです」

「てへっ、来ちゃった」


 ひょっこり。と顔を覗かせた、一人暮らしの彼氏の部屋に連絡も無しに突然やって来た彼女。直後に彼の浮気現場を目の当たりにし、寝取られた事を知るであろう台詞を吐いた人物に、両の目が大きく見開かれる。


「おおお、王女殿下!?」

「しーっ、声が大きい」


 言われて慌てて口を塞ぐ。


「上がらせて貰っても良いかしら?」

「え……あ。どどどどうぞっ」


 右手の平を室内に向けて王女に道をあける。慌てていた所為で、背中をモロに打ち付けた。こ、個室のドアノブが腰に……


「へぇぇぇ、これが庶民の部屋なのねぇ……」


 庶民の中でも底辺の部屋ですがね。なにせ、月千五百ドロップな部屋ですから。


「汚い所ですみません」

「んーん、そんな事無いよ。キレイに整理整頓されてるし、馬小屋よりは全然」


 最後の一言が余計だなこの王女様は。


「王女殿下、お話を」

「分かっているわ。そう急かさないで」


 急かすリリーカさんをよそに、マリエッタ王女は部屋の中に置いてある置物等を手に取ってしげしげと眺めていた――




「ん。変わった味ね」


 出したお茶を一口飲んで出た最初の一言がソレ。そりゃまあ、一缶二百ドロップのお茶ですから。でも、言う程変な味じゃないと思うけど。


「そそそれで、お話しとは……?」


 先日の一件が何か気に触ったとか……? あ。もしかして、テーブルマナーが悪かったから?! フォーク落としちゃったしっ。


「そんなに畏まらなくても良いよお姉ちゃん。お姉ちゃんにはねぇ…………」


 言い掛けてその言葉を中断する。クイズ番組の様なタメは要りませんて。


「決闘をして貰いますっ!」


 ビシッと指差すマリエッタ王女。その先端の先には紛う事無く私が居た。


「…………え? け、決闘……?」


 ニコリ。と微笑み、コクリ。と頷く王女様。な、なぁんだってぇぇっ!

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