第95話

 次のショーが始まった。スポットライトの注ぐ先には二人の美女が佇んでいる。その内の一人に幕が降りてそのナイスバディを全て覆い隠すと、もう一人が手に持った杖に炎の球体を生み出して幕へと点火する。幕は瞬時に燃え尽き、中から姿を現したのは一匹のトラらしき動物。外見はトラに酷似しているが、上顎から伸びる二本の牙がただのトラでは無い事を物語っていた。観客から届く声は驚きのモノか、はたまた美女が獣に変わった事への落胆の声かは知らない。


「アレ、サーベルタイガーですわね……」

「サーベルタイガー?」


 マリーちゃんはしきりにネコ、ネコと叫んでいるが、大陸南部の亜熱帯地方に棲む立派な魔獣。俊敏なフットワークで獲物を追い詰め、鋼の様に硬い二本の牙を武器に狩りをする。中級冒険者でも一人では危ういとされる部類に入るのだそうだ。そんな猛獣に何をさせているのかというと、火の輪を潜らせたり綱渡りをさせたりと、なかなかポピュラーな事ばかりなのだが、獣から美女へ美女から獣へと時折変わる姿は、まるで本当に変身している様で楽しめた。最後はずっと人の姿だったもう一人の美女が、ボフン。と煙を立ててもう一匹のサーベルタイガーへと変わり、二匹揃ってお辞儀をしてショーが終わった。


「マリー、アレかうー。ほしー」


 小さな掌を一生懸命に叩きながらマリーちゃんは言っていた。食されるから止めなさい。




 休憩を挟んで始まった演目は、サーカスの定番中の定番である空中ブランコ。しかし、私の知っている空中ブランコとは大幅に違っていた。ブランコを吊る為のロープが何処にも見当たらない。にもかかわらず、ぶらぶらと揺れているのだから不思議でならない。揺れるブランコから団員達が次々と宙を舞い反対側のブランコへと移ってゆく。


 と、そこで事件が起きた。勇んで飛び出した団員は、対面のブランコとのタイミングが合わずに地面へと落下を始めたのだ。地面への激突は避けられない。誰しもがそう思っていた最中、落下中の団員がポンッと破裂して紙吹雪を撒き散らし、当の本人は対面のブランコの上で手を振って応えていた。それはもう、サーカスじゃなくね? と思った瞬間だった。


 続いては、再び姿を見せた道化師三人による綱渡り。ステージの端から端へと繋いだロープの上を、長い棒を真横にしてバランスを取りながらゆっくりと進んでゆく。道化師の一人が中央に差し掛かった頃、またしても事件が勃発する。順調に進んでいた道化師が突如バランスを大きく崩し始めた。最早修正不可能と誰しもが思っていたその時、棒を持ったままロープを一周りして元の位置に戻り、観客から驚嘆の声が上がったのだった。


 だからぁ、もうソレはサーカスじゃないじゃん。驚きはしたけどサ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る