第94話
係員に案内された席は、一番前の中央席三つ。周囲の人達からの視線を気にしつつも席に座る。
後ろを振り返れば、あのテントで何処にそれだけのスペースが?! と思える程の座席が用意されていた。これがリリーカさんが言う所の『拡張の魔術』の効果なのだろう。
「始まるまでまだ少し時間あるね」
座席は埋まり始めているものの、まだまだ空席が目立つ。
「マリーちゃん。何か飲み物でも買って来ようか?」
「んーっとねぇ……マリー、しゅわしゅわしたの飲みたいー」
しゅわしゅわ……? ああ、炭酸飲料か。
「リリーカは何が良い?」
「
「ん。分かった」
しゅわしゅわとアイスティー。その二つを頭に書き留めて席を立った――
席に戻って程なく。マリーちゃんが大人顔負けのゲップを披露する最中、突然会場の明かりが落とされた。
会場内が騒めく中、幾筋ものスポットライトがステージ上に注がれる。サーカス団の団長といえば背が低くて眼鏡を掛け、髭を生やした樽の様な体型の男。と勝手な想像をしていたが、ステージ上に立っている男はその想像から逸脱する事は無かった。
「レディース・アンッ・ジェントゥルミィェェンッ!」
何故そこだけ発音が違うっ!?
「紳士淑女の皆様方。ようこそおいで下さいました。当サーカスを立ち上げて早二十年。当時は――」
まさかの展開が目の前で繰り広げられていた。普通こういったショーは挨拶もそこそこに演目が始まるのだけれど、樽団長の話が矢鱈に長い。
サーカス結成五年目の話に差し掛かると同時に、何処からともなく現れた球体に弾かれた樽団長は、転がりながら退場して行った。ここまで見るとアレも一つのパフォーマンスなのだろうが、そんなの要らない。と思ったのは私だけでは無いだろう。苦笑さえ起こらない会場内がそう語っている。
最初の演目は道化師三人によるジャグリング。それぞれの背丈ほどもある大玉に乗り、前後左右にせわしなく動きながら、一人はフェンシングで使う細身の剣を幾つも飛ばし、二人目は短剣を飛ばしている。そして三人目は……アレ、メロン?
三人目がメロンを放り投げると、一人目が剣にソレを突き刺して再び回し始める。ソレ、テレビで芸人さんがやっているのを見た事ある様な……
観客からの拍手喝采の最中そんなデジャヴを感じつつ、演目は次へと進んだのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます