私のアレに値が付いた!?
ネコヅキ
驚きの価格。
「一万ドロップの鑑定結果が出ました」
「い、いちまん!?」
換金ギルド、『ポーン』の受付嬢から告げられた価格に、目を大きく見開いて驚いた。
「ほ、ホントに?!」
「はい。魔導鑑定機による査定の結果ですから間違いはありません」
魔導鑑定機とは、この世界に於ける万能鑑定士と云った所で、大抵のモノならばボタン一つで物の価値を正確に金額化してくれるらしい。一体どんな仕組みになっているのかは知らない。
「それにしても、これ程質の良い鉱物を一体何処で手にお入れなさったのですか?」
「え……。ま、街の外を散歩してたら拾ったのよ。誰かが落とした物かもしれないけど、街道からは随分離れてた所に落ちてたから売っちゃっても問題無いかなぁ、と。買い取りはダメですか……?」
実はコレ、出たてホヤホヤのアレなんです。とは流石に言えない……
「いえ、そういう事でしたら問題は無いと思います。ただ一応、身分は確認させて頂きます。ギルドカードはお持ちですか?」
「ギルドカード?」
「あ、お持ちでは無いのでしたら──」
受付嬢はカウンターの引き出しから一枚の用紙を取り出して私の前に置いた。
「こちらの用紙に、お名前とお住まいをご記入下さい」
「ああ、はい」
一緒に差し出されたカラスの羽の様なペンを取り、出された用紙に記入する。ええっと、鮎沢加奈……いや、『カナ=アユザワ』っと。住んでいる場所は……『キュアノス下層、トレントハウス二百五号室』っと。
「これで良いですか……?」
書いた紙を受付嬢に渡す。受け取った受付嬢は、眼球を左から右へと動かしてゆく。始めはそれなりの鼓動を打っていた心臓が、不安で少しづつ早くなっていった。
「はい、問題ありません」
はーっ、良かったぁ……
「ただ、お一つお伝えする事が御座います」
「ふぇぃっ!? ななな何でしょうかっ?」
不意打ち気味の受付嬢からの言葉に、思わず妙な声を上げてしまった。
「ギルドカードをお作りになられては如何ですか?」
「……え」
ギルドカード。この街にある各『ギルド』が発行する言わば身分証明書。これがあれば、今回の様にいちいち用紙に記入をしなくても、スムーズに買取が出来るのだそうだ。
「んー……今は要らないかな」
「そうですか、分かりました。では、お金をお持ちしますので少々お待ち下さい」
受付嬢はそう言って奥へと引っ込み、戻って来た時にはその手に封筒が握られていた。
「こちらが鑑定結果の料金となります。金額をお確かめ下さい」
手渡された封筒を開け、中身を確認する。千と書かれたお札が十枚。確かに一万ある様だ。
「はい。確かに」
「それでは手続きは以上となります。ご利用有難う御座いました」
「うん、有難う」
軽く会釈をしている受付嬢に背を向けて、そそくさと換金所を後にする。
「ハァ……バレるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ。心臓が早打ちしっぱなしだったから妙に疲れた。喉も乾いたし、何処かに寄って一杯飲みたいなぁ……」
夏が近付き厳しくなり始めた日差しの中を、近場の飲食店を目指して力無く歩き出した。
所謂、異世界と呼ばれるこっちの世界に転生をした私は、不慣れながらも日々の生活を満喫していた。小説やアニメの様に強い武器が有る訳でもなく、常軌を逸した身体能力が有る訳でもない。そんな私は今現在はただの一般市民。花屋やら飲食店やらでバイトをしてお金を稼ぎ、休みの日には散歩したり部屋でダラダラと過ごす、日本と大して変わらない平和な毎日を送っていた。しかし、コッチでの生活も徐々に慣れてきた頃、奇っ怪な事件に遭遇した。
「え……?」
眼下に在るのは良く手入れがされている白磁の器。その中の中央よりやや奥側に、矢鱈と輝く物体がこんもり。と盛られていた。
「な、ナニコレ……?」
色からしても通常のアレとは異なる。通常は茶色で独特の香りを放つが、コレは無臭。しかも、
立て掛けてある棒を掴んでその物体を突いてみる。確かな感触が棒を伝わって感じられた。柔らかく……ない!? 通常は棒なんかで突けば崩れてしまう様な粘土質だが、コレはどう見ても固形物だ。恐る恐る手を伸ばす。そして思い留まってその手を止める。それを何度か繰り返し、指先がソレに触れる。か、硬い。
思い切って指でつまんで持ち上げる。が、ソレは私が思っていた以上の重量を有していた様で、つまんだ指から離れたソレが白磁の器にゴトリ。と落ちた。
「な、何なのよコレっ!」
驚愕の声を上げると同時に、履き掛けの下着が足元にストン。と落ちた。
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