風吹けば

「石堂さんと言えば?」

「石堂さんと言えば!?」

「顔がいい!」

「顔がいい!」

「わかるー!」

「ヤバイー!」

「辛い!」

「しんどい!」

「優勝!」

「お前しか勝たん!」


 日曜の昼下がり。血潮を熱く燃やすオタクが二人。


「にゃー」


 私のベッドの上から、お前らうるさいと不満の声を上げる猫もいましたね。


「もーマジで好き!」

「はーほんと好き!」

「ねー!」

「ねー!」

「あーここ! このシーン!」

「来るよ来るよ来るよー!」


 溢れ出そうなよだれを飲み下して、42インチのテレビの中から私たちに流し目を寄越してくださっていらっしゃいまする長髪の男性に全神経を集中させる。さあ……!


『俺から離れるな』


 キター!


「ぎゃあああ!」

「ぎゃあああ!」


 机に足ぶつけたり床に頭を打ち付けたりしていてもお構いなく、テレビの中から容赦なく飛んでくるイケボと顔面の暴力に滅多打ちにされてはジタバタと身悶える奇怪な生物が二匹。奇声上げてますね、こいつら。規制もんですよこれは。


「やめて! 直視やめ! お、お戯れをー!」

「死んでしまいます! 推しの顔面の暴力で死んでしまいますー!」

「あーっべもうマジあかんてそれあかんて石堂さんそれはあきまへんてほんま優勝あんたがチャンピオン!」

「しんどいむりほんとむりだめやばいほんとむりむりカッコよすぎキレそうキレたわむりむりはーほんとあー!」


 二人して語彙力が死滅している。いやでも仕方ない。仕方ないんですよほんとに。わかります? いやわかれ。っていうかわからない? どうして? どうかしてますよ? だってこんなにカッコいんですよ? そりゃあこんな風にもなりますよ。ね? はいって言え。はい、よく言えました。合格。あなたも一緒に底無し沼に沈みましょう!


「小春ー! なんかあっ」

「ぎゃああああああ!」

「ぎゃああああああ!」

「たのがわああああ!」

「んにゃあああああ!」


 勢い良く開いた部屋の扉から、勢い良く侵入して来ようとする不審者を検知した私たちの動きは早かった。私は空のペットボトルを。もう一人は財布を、最大パワーでもって、不審者目掛けて投げ付けた。人間三人が騒ぐもので怯えてしまったらしく、我が家の番犬もとい番猫、ココアも飛び跳ねて叫んでいる。可愛い。


「いってぇ! 痛い! え、凄く痛い!」


 爆速で飛んで行った財布が顔面直撃したらしく、蹲る不審者。あなたが何処の誰だか知りませんけど、私たちの幸せなひとときを妨害するあなたが……って。


「ああ、なんだ」

「なんだじゃないよ小春! ご、ごめんなさいいきなり物投げつけてしまって! 急に扉が開いたもので驚いてしまって……」

「え、えっと……」

「はじめまして! 黒井優と言います! 小春の友達です! お邪魔しています!」


 ああ、そういえば、優ちゃんとこれ、初対面だったかあ。


「は、はあ……小春の兄の謙之介です…って、黒井優さん? その名前何処かで……」


 この男、優ちゃんの名前を知っているな? という事は、あの一件で名前を記憶した可能性が高い。優ちゃんと、あの先輩との一件で。


「いつもっ!」

「どわっ!?」

「いつも! 妹さんと仲良くさせてもらっています!」

「は、はいどうも……」


 なんてパワープレーなの優ちゃん。清楚な見た目からは想像も付かないゴリ押しムーブに小春ドキドキしちゃう。


「えと……えっと……」

「あーもういいから優ちゃん」

「いやいや良くなくなくない? 小春の悲鳴聞こえたから飛んで来たのに……」

「そ、そうだよ小春!」

「いいからいいから。っていうか今の、勝手に部屋を開けたそれの落ち度だから」

「いやそれって言い方よ」

「早く出てって。私たちはこの通りピンピンしてるから。それに今、ものすごーく取り込んで……」


 そう。取り込んでいる。何に? いわゆる、腐女子と呼ばれる皆様から圧倒的支持を集めている、主人公以外全ての登場人物が男性である、名作アニメに。


 って事はですよ? つまり。


「取り込んでるって……それアニメか? 小春、アニメなんて見るんだな」


 あ。ヤバ。ヤバい。これはよくない。とてもよくない。


 別に、必死に隠し通そうだなんてつもりはありません。しかし、しかしですよ。


「っていうかそれ、ツイッターで見た事あるな。なんでも……」


 この男には。私の兄だけには知られたくないんです、この趣味は。かくかくしかじかで! しかも! 腐女子に大人気なんだっけーくらいのにわか知識だけ身に付けていそうなこの男にバレるのは、ほんとに嫌だ!


「腐じょ」

「これはですねお兄さん!」

「うおっと!?」


 方策もなくテンパる私の前に、優ちゃんが立った。あ、パンツ見えた。何これ? なんか、エッチなの履いてる? この世界には本当にいるんですね、エッチなオタクって人種。優ちゃん……えっちだ……。


「その……お恥ずかしながら……私がアニメ好きでして……趣味の話が出来る友人が欲しくてですね、布教と言う名の押し売りを小春にしている真っ最中でして……」


 ゆ、優ちゃん……! 私が自分の趣味を家族に隠している事、覚えててくれたんだね……しかも体を張って、私の事……! ほ、惚れてまうやろー!


「そ、そうなんですか……じゃあ、さっきの悲鳴は」

「テンション上がりすぎて思わず叫んでしまった私に小春が便乗してくれたんです! だよね小春!?」

「う、うん! 私もテンション上がっちゃって!」

「という事です!」

「はあ……」

「その……小春の反応も上々な様子で……だから今日以降、小春がこういった作品を見ている事があるかもしれませんが、それはもうかんっぜんに! 私の影響ですので! 私がこの底無し沼に小春を引き摺り込んだので! あ! やらしい作品とかではないのでそこはご安心ください!」


 す、凄い……凄いよ優ちゃん……自らの身を犠牲にして、私がオタク趣味の持ち主である事ををさらりと匂わせ、これから動き辛くならないよう根回しまでしてくれるなんて……なんて頼もしいの優ちゃん! オタクの絆は黒曜石より硬いとはよく言ったものです。嘘です聞いた事ないですごめんなさい。


「で、ですので…………あの、お兄さん?」


 なんか難しい顔をして、優ちゃんと私の間を何か言いたげな視線が行ったり来たり。優ちゃんはどうやら、自分のでまかせが見破られているのではないかとテンパっているらしく、この場の中で一番落ち着きがない。私といえば、そうでもなかったりする。これは、アレだ。


「そうなのか! いやー嬉しいなあ! こんなにも友達思いな優しい子が小春の友達になってくれて! 本当に嬉しいよ!」


 バリッバリに信じているなーって、直ぐに理解出来たから。


「は、はあ……そんな大袈裟な……」

「いやいや! 大切な事だよ! 嬉しいなあ……良かったなあ……黒井優さん!」

「はいっ!?」


 ガッと、優ちゃんの手を握る不審者。おうこらそこの駄犬、誰の許しを得て優ちゃんの手を握っているんだこら。優ちゃん困ってるだろ離せこら。


「小春と仲良くしてくれてありがとう! 小春はちょっとクセのある子だけど、根は真面目で素直ないい子だから! これからも仲良くしてくれると嬉しい!」

「……へ? あ、あの! えっと! 私でよければ喜んで!」

「うんうん! ありがとう……本当にありがとう……!」

「はあ……」


 いや、何潤んでんの。優ちゃんマジで困惑してるからやめて。っていうか恥ずかしいからマジほんとやめて。


「そういう事だから早く出てって。っていうか今日出掛けるって言ってたじゃん。なんで家にいんの?」

「や、ダチが風邪引いちまって。今日はパスって事になったから昼だけくって帰ってきたんだわ」

「そ。ほら、早く」

「わかってるって。じゃあ黒井さん、ゆっくりしていって。小春の事、よろしくね」

「は、はいっ! これからよろしくお願いします!」

「ああ!」


 上下にブンブンと手を揺らしてから、一年屈指のモテ女ちゃんの手を離した兄は、なんかめっちゃニッコニコのままオタク臭を匂わせぬよう頑張っている私の部屋から出て行った。閉じられたドアの向こうから鼻歌なんて聞こえてきている。いや、引く。


「はぁ……」

「はぁ……」


 嵐の去った安堵からか、優ちゃんと全く同じタイミングでため息が出ちゃった。


「焦ったぁ……」

「だね……」

「にゃあ」

「あらいらっしゃい。ココちゃんかわわ」


 遠慮なく膝上へ飛び乗ってきたココアを撫でながら天を仰ぐ優ちゃん。気疲れさせてしまい申し訳無い限り。


 それにしても、無造作に投げ出されているすらっと伸びた足がエッチですね。今日の優ちゃん、短めの髪をひとまとめにしたチビチビポニーテールにしているんですけど、これがまあ非常に可愛くて似合っていて、うなじの辺りとか超エッチ。いい匂いしそう。くんかくんかしたい。冬を先取りしたようなニットを着てるんですけど、ボディラインくっきり出てるのエッロイエッロイ。胸も大きい。強い。夜道とか心配になっちゃう。


 なんですこの、エッチ尽くしな高校一年生。浅葱先輩の後を継ぐのは君だ!


「なんか……色々ごめん……」

「いいのいいの。っていうか、どう? 咄嗟にしては上手く誤魔化せたんじゃない?」

「いやもう完璧でしょ。お陰様でオタバレした時のダメージデバフ掛かりまくったよ」

「私のアドリブ力もなかなかでしょ?」

「将来女優になろ?」

「やですー。ずーっとゆるゆるオタクしてたいんですー」

「私もー」

「いぇーい」

「いぇーい」


 なんとなくハイタッチ。根っこが陰キャなオタク二人の謎テンションが為せる技だ。


「お兄さん隣にいるならボリューム抑えないとだね。っていうか少し休憩しよっか」

「うん……ごめんね」

「謝る事じゃないでしょ。楽しいのは何も変わらないんだし、それでいいでしょ」

「やだ優ちゃんイケメン……」

「そうだろそうだろーっ」


 あ、優ちゃんのドヤ顔かわ。おかわわわわ。そりゃあ学校中の男子生徒が放っておかないはずですわ。


 相変わらずイケメンパラダイスなテレビの音量を落として、少し散らかった机上を片付けるとようやく落ち着いてきた。鼻血出そうなくらい興奮したり冷や汗ダラダラなくらい焦ったり、体内寒暖差がヤバすぎた。少し休憩しましょうそうしましょう。ココアも落ち着いたのか、ココア専用ベッドの上で丸くなってすやぁ。ココたん可愛いよココたん。


「っていうか小春のお兄さんと小春ってそっくりだね」

「は? キレそう」

「目元の感じとかそっくりだなーって」

「キレたわ。一番くじでダブったフィギュアあげようと思ったけどやっぱり」

「あ!? あー! あーあー! あーっ!」

「語彙力消失のまま抗議するのもマジ泣き寸前になるのもやめよ?」


 目をウルウルさせながら吠える優ちゃんのお可愛いことお可愛いこと。そんな顔しなくてもお持ち帰りしていただきますとも。推しのグッズは多ければ多いほどいいんです。


「いやでもさ、お兄さん整った顔立ちしてるよね。カッコいいなあって思ったもん」

「そーお?」

「ファンも多いの知ってるんだから。顔面偏差値高い川高のミスコンにランクインしてるのは伊達じゃない!」

「大尉がアレをべた褒めするなんて聞きとうない。赤い彗星じゃなくてもコロニー落としたくなるわ」


 言われて思い出した。ギリギリもギリギリだけど、アレも入選してたんだっけ。


「赤嶺兄妹は顔が良いっ」

「推しへの定型文に当て嵌めないで欲しいのだけれど」

「小春は私の推しだからおけ」

「推しっておい」

「ほんとだよ? 可愛いもんなあ小春ー。最近急に色気付いちゃって可愛さマシマシだし胸大きいし。あと胸大きいし」

「何故二回言ったし」

「こんなに可愛いのにオタクとかマ?」

「マなんだよなあ」

「三次元にもいるんだね。可愛いオタク」

「優ちゃんがそれ言うかね」

「てへぺろ」

「あざとい強い可愛い好き」


 やっべ。ムービー撮り逃したやっべ。今のほんとなんかもうほんとアレでほんとかわわでほんとエロかわでほんとにほんとにライオンじゃないけどもうほんと好き。優ちゃんガチ勢男子たちが見たら卒倒ものだったでしょうねー今のは。


「はあ……楽しいなあ」

「うん?」

「こうやって小春とオタ活出来てる事」


 そう言って、クラスの男子を虜にしている笑顔を私だけに向ける優ちゃん。いや、可愛過ぎる好き過ぎる。控え目に言って一緒になりたい。変な意味ではなく。変な意味ではない一緒になりたいってなんだ? 私にもわかりませんごめんなさい。


「私も私も。こんな風に誰かと面と向かってオタ話出来る日が来るなんて思いもしなかったなあ……」


 そういう会話が出来るのは、あの団地の方々だけかと思っていました。厳密には私が一方的に喋ってばかりになるので会話とは言えないかもしれませんが。


「私もー」


 それが、こんなにも早く、オタクの友達が出来るだなんて。


「カミングアウトしてよかったあ」


 うん。同じ気持ち。


 っていうか、ですよ?


「ね、一つ質問」

「なあに?」

「どうして自分がオタクだって、私に教えてくれたの?」


 実は私、オタクなの。


 上記はつい先日、優ちゃんから飛んできたラインの一文。以降は通話に切り替えて、中学時代の優ちゃんのエピソードや、高校入学に際して積み重ねた努力等々を、たくさんたくさん話してくれた。どれも濃いし重いし、あまりに予想外だし唐突過ぎたしで、酷く混乱させられた。


 正直に言うと、なんかちょっと病み期入っちゃったのかなとか思ってしまった。だってその話を聞いたの、文化祭二日目の直ぐ後だったから。


 その辺りの話は優ちゃんからも私からも、今日まで触れていない。自分がオタクであり、高校デビュー勢であった事を明かしてくれた理由さえも、今日までは。


「東雲先輩の影響かなあ」

「東雲先輩の?」


 ドタドターっと元気良く脳裏に登場したのは、世界一可愛い女の子。そういえば最近の優ちゃん、東雲先輩と仲良しさんだよね。


「えーっと……ああこれだ。くろちゃんはもっとこはるんといろんな話してみるべき! 趣味の話とかも含めて! 別に変な意味はないよ!? ないんだけど、なんかこはるんとなら話が合うというかそんな感じがするから! って、雑談の流れで言われたの。私が高校デビュー頑張っちゃったオタクだって東雲先輩には話したし、多分そういう事なんだろうなーって」

「あー」


 東雲先輩、匂わせヘタか。それ、赤嶺小春にはオタ属性ある説を大声で叫んでいるようなものでしょう。これで優ちゃんの読みが外れていたら優ちゃん大火傷しちゃうし、私にも飛び火しかねないし。まあそれはさておき。


「東雲先輩なりに優ちゃんと私の事を気遣ってくれた?」

「だと思う。お互い、オタクである事は隠してたんだし」

「かなあ……」


 話の最中、体育祭を終えて間もなくのある日、東雲先輩が私に言った事を思い出した。


 折角仲良くなった人ならさ、どうせなら全部知りたいじゃん? 良い所も悪い所も面倒臭い所も全部ぜーんぶ!


 とか言ってましたっけ。話の流れでリアルオタ友がいない事、いつかそういう友達が欲しい事、そこまで打ち明けたような記憶があります。


 正直、どこまでが計算なのかわかりません。勢い任せの気まぐれかもしれない。それでも、覚えてくれていた。これだけは間違いがない。だって、東雲先輩ですもん。


 本当、頼りになるお姉さんだ。


「ま、いい機会だったかな。もっと小春の事知りたかったし。だって言うのに自分の事を伝えないのはフェアじゃないし」

「真面目だなあ」

「小春には言われたくないですー」

「今度東雲先輩にお礼しなきゃだね」

「じゃあ二人でアニメの布教しよ!? 刀魂にする!? うたプルとか!? テニヌもワンチャン!?」

「優ちゃんステイ。そのノリで食い付かれたらオタクアレルギー発症しかねないでしょ」

「む、むむぅ……」


 唸る優ちゃん。反省して? オタクくんさあ、そういう所だよ? そういう話じゃなくてさあ?


「その辺は沼深過ぎるから、もっとソフトな所から慣らしていこうよ。小さい頃はスタキュア好きだったーとか言ってたし、全シリーズ見せるとかどう?」

「それ! それにしよう小春!」

「決まりーっ」


 にっこり笑い合うオタク二人。なんかこう、論点がズレているとかそういう次元じゃない何かを感じますが、細かい事を気にしてはいけません。


「っていうか、東雲先輩スタキュア視聴勢なんだー。なら昔のニチアサとかならイケる人って認識でおけ?」

「スタキュア以外は全然じゃないかなー。スタキュア視てたのだって多分、何気に特撮スキーだったりする山吹先輩の影きょ……」

「小春?」

「え? あ、や……」


 言葉に詰まってしまった私を見て首を傾げる優ちゃん。いや、可愛いなおい。


「……あ、そゆことか」


 私が黙ってしまった理由に自分なりの解を出せたのか、キレカワ笑顔に早変わり。


「気使わなくていいのに」

「こ、こういうの初めてで……どうするのが正解かわかんない……」

「私もわかんないや。なにせ、生まれて初めての告白劇だったからねー」


 昨日までの私の耳に入ってきたのは、あくまでも噂。出所も不明。信憑性なんて皆無。しかし、文化祭以降の優ちゃんの態度がその噂、山吹先輩に告白したものの玉砕したという噂の信憑性を爆上げした。だって優ちゃん、とてもとても明るく振舞ってたから。無理しないでって、気に障ってしまいそうな一言を投げ掛けたくなるくらいに。


 そして今、噂が真実であったと証明された。


「噂になってるんでしょ?」

「うん……」

「山吹先輩が言い触らすとか絶対ないだろうし、どっかの誰かが覗き見てたのかなー。引くわー」


 そうだね。山吹先輩、そういうの嫌がりそうだし。言うのはもちろん、聞くのも。


「っていうかちゃんと言ってなかったね。文化祭の後、告白しました。マッハでフラれました。以上っ」

「……あぅ」

「あぅって何あぅって」

「だって……ほんとになんて言っていいかわかんなくて……」

「お疲れ様ーとかドンマイーとかそんな感じでいいんじゃないかなあ」

「いやでも……」

「ほんとに真面目だねー小春はー」


 や、わかる。わかりますよ。優ちゃんが軽いノリで来てくれてるんだから、私はそれに合わせなくちゃいけないくらい。けれど、事が事だけにどうにも……。


「結果は玉砕どころかオーバーキルまであるけど……楽しかった。本当に。それに、ド陰キャな私も少しは前に進めたんだなあって、そう思えたの。ちゃんと言いたい事を言えて、根性出してアタック出来たんだから。いい思い出だよ」

「そっかあ……」

「なんちゃって」

「へ?」

「……悔しい!」

「く、くや?」

「悔しい! 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいくーやーしーいーっ!」


 急にフルスロットル入ったらしく、オラオララッシュばりの悔しいラッシュを披露し始める優ちゃん。顔、真っ赤ですわよ?


「付き合いたかったなー山吹先輩とー! イケると思ったんだけどなー! リア充街道爆進したかったんだけどなー! あーあー! 悔しいなあーっ!」


 二つの握り拳をブンブンと上下に振りながらプンプンと怒る優ちゃんの姿は、なんというか、怒り慣れていない感全開で、怖いというよりひたすらに可愛かった。


「ゆ、優ちゃん声っ。大きい大きいっ」

「だって悔しいんだもん! こんな私でもワンチャンあるって思ったのに! このクソみたいな十数年でこんなに仲良くなった男の子、山吹先輩が初めてだったのに! ドチャクソ好きだったのにーっ!」

「ドチャクソて」

「あーもう! ほんと! ほんと…………悔しいなあ……」

「優ちゃん……」


 ガス欠なのかブレーキを踏んだのかわからないけど、優ちゃんすとーんとトーンダウン。さっきまで百面相かくらい賑やかだった表情は曇ってしまった。それこそ、今にも泣き出すんじゃないかくらいに。


「って、ごめんね。小春の前でこんな話しちゃって」

「私の事気にしなくていいから」

「いやいや気にするって。これから山吹先輩に凸ろうとしてる子の前でする話じゃなかったよね。ごめん」

「だからそんな…………ううーん?」


 思わず首傾げちゃった。いやだって、優ちゃんおかしい事言うんだもん。言ってますよね? いや言ってるよ。


「何そのあざと可愛いううーんは。もしかして小春ってば、山吹先輩が好きなんだって、隠せてると思ってた?」


 ほら。ほらほらぁ! なんですのそれ!? なんかこう、ほら! 色々アレじゃないですか!? アレ!


「や! ややや! ぬっ、ぬぁーにを言ってるのかなこの子はまったくぅ! そもっ! そもそもですね!? 隠すとか隠さないとかそういう話の前に」

「そういうテンプレめいたの要らないから。こーんなにわかりやすいってのに、今更何を取り繕おうとしてるのって話」

「だから何を」

「っていうか」

「わ」


 薄いピンクがきらりと光る右手の人差し指が伸びてきて、私の口元で止まった。


「小春、隠してないよね。ずっと前から」


 笑っているんだけど、笑えてない。そう表現するのがきっと一番近しいんじゃないかと思える、ちょっと刺々しさのある微笑みを浮かべながら、優ちゃんは言う。


「小さい頃から好きだったんでしょ?」

「あのね」

「ってなると人生の半分近く山吹先輩に片思いしてるって事になるのかな? 根性あるなあ。諦めが悪いとも言うけど」

「ちょっと聞いてってば! 山吹先輩はアレ! なんていうか……そう! 頼りになりお兄さんみたいな! 今もそうだし、昔からずっと」

「ずっとそこ止まり?」

「そういう事じゃなくて!」

「私にとって頼りになるお兄さんだからーって誤魔化し続けてるの?」

「だから」

「それでいいの?」

「……それは」

「本当に?」

「…………優ちゃんの意地悪」


 我が事ながら、情けなくなるほど弱々しい声での反撃を試みるも、優雅な笑み一つでするりと躱されてしまった。なんでしょう、この余裕。本当に私と同じ高校デビュー勢なんですか? 強くてニューゲームの間違いとかじゃないですか?


「小春が意地っ張りなだけ。っていうか、今日までの態度で本気で隠してるつもりだって言うならそれはそれで問題アリだからね。あんな露骨な態度見せておいて」

「ろ、露骨?」

「例えるなら……そう! 山吹先輩の周りに私や他の誰かがいる時の小春、自分の縄張りによそ者が入り込んでキレ散らかしてる猫感あるんだよね。ほら、ふしゃーっ! ってやる猫的なさ」

「わかんないわかんない全然わかんない」

「つまり」

「つまりでまとめようとしないでマジで全然伝わって来きてないから」

「山吹先輩が好きだって事を全然隠してないよね小春は、って事」

「だからぁ」

「どうなの? ん?」

「…………す……きで……す……」


 ああもうダメ。無理。敵う気がしない。


「はいよく言えましたー。おーよしよーしいい子いい子ー」


 私の顎を撫でながら微笑む優ちゃんから、ドSの波動的な何かを感じる。ひえっ。なんか怖いひえっ。


「ねえ、実は気が気じゃなかったんじゃない? 私が山吹先輩とデートするってなった時。正直に言ってみよ?」

「…………テンパりました」

「うんうん、素直でよろしい。小春はほんと可愛いなあ……」


 いやもう間違いない。この女、ウルトラスーパーハードSだ。こういう所にも浅葱先輩みを感じるのですよこの子には。


「その節はごめんね。けど何もなかったんだから許してちょーだいな」

「……別に私は」

「素直じゃないなあもうっ」

「うべっ」


 バンバンと肩を叩かれた拍子に汚い声が出てしまった。こいつは失敬。


「今のは怒るとこだぞー」

「や、違くない?」

「うん。違うかも」

「どっちやねん」

「だって小春、まだ彼女じゃないもんね」

「ま、まだって……」

「なりたいんでしょ?」

「私は」

「彼女。山吹先輩の彼女に、小春はなりたいんでしょ?」

「…………うん」


 え? あ、あれ? 言えた。言っちゃったよ私。


 好き以上の何かを用意する事の出来なかった私が、好きのその先を、言葉に出来た。


「よろしい。だけど、私に素直になってどうするの」

「だって……」

「はいそこ、ふにゃふにゃしない。あんまりふにゃふにゃしてると私が横取りしちゃうぞー? あごめん今のやっぱなし」

「撤回早くない?」

「小春のそんな顔見ちゃったらそんな気失せちゃうよ。そんな怖い顔向けないの。ワタシ、トモダチ。ライバルチガウ」

「怖い顔て。しかも何故カタコト」

「してるの。してるし……不安そうな顔もしてる。怯えた小動物みたいで可愛いなあ小春は……弄り回したくなるなあ……」


 弄るって、イジメるの略語でしょ? 小春、わかるんだから。浅葱美優様に鍛えられたんですもの。それくらいわかりますとも。弄りとやらへの対策はわかりませんけど。


「あのね、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だから。悔しかったし、ヘコんでるし、辛かったけど、山吹先輩とは終わりだから。だからそんなに警戒しないの」

「警戒なんて」

「大丈夫だって。小春の大好きな山吹先輩の事、横取りしたりしないから」

「だ、大好きって……」

「ほらテンパってる」

「ち、違うから!」

「あ、でもあんまりふらふらしてたり脇の甘さ見せるようなら無理矢理強奪しちゃおっかなー。って、また怖い顔してる!」

「そ、そんな顔してないっ」

「まあ嘘なんだけど」

「嘘かーい」

「あーあ! 小春は可愛いなあ! ほんと……可愛いなあ……」


 ポンポンって二回、頭を撫でられた。え、なんなの私たちの今の距離感。


「私も可愛くなりたいなあ……小春みたいにさあ……」

「いやいや優ちゃんが可愛くないとか」

「可愛くないよー私。性格ちょーブスだもん」


 いや、めっちゃいい子でしょ優ちゃん。誰もがそう思ってるよ。優ちゃんの事をブスだって思ってるの、優ちゃん以外にいないよ? 絶対そうだよ。


「中学時代の自分がどんだけブスだったか、ちゃんとわかってる。今は頑張って背伸びしてるから多少マシに見えてるかもだけど、本質はクソブスのまんま、何も変わってない」

「そんな事」

「いいのいいの。フォローとかいいから。別に悲観してるわけじゃないから」

「そ、そうなの?」

「そうだよ。だって、やってくしかないじゃん? ブスでもさ。やりたい事、いっぱいあるんだもん」


 座布団の上で胡座を組んで、上半身を左右に揺らし始める優ちゃん。悲観してるわけじゃないって言葉に嘘も裏もないんだよと言わんばかりの、いい笑顔だ。


「いつかの私が忌み嫌ってたリア充ってヤツにさ、なってみたいんだよね。もう古いか、リア充なんて言葉」


 シンプルな目標だ。しかし、定義が曖昧な目標だけに、ゴールも見えない。リア充って一口に言ったって、人それぞれリア充の定義は違いますから。


「山吹先輩には一刀両断されちゃったけど、私は大丈夫。けどあんまりふらふらしてると小春に心配かけちゃうから、新しい何か、見つけるから。オタクに恋は難しいかもだけど、オタクでも恋がしたい! からね」

「……そっか」

「うん。そうなの」


 ニッと、小さな子供みたいな笑顔。優ちゃんのこんな笑顔、初めて見た。


 ねえ? やっぱり嘘だよ。ブスなんて。


 こんなに頑張って、歳上のお兄さんに全力で飛び込んでいった女の子が。


 こんなに可愛い笑顔が出来る女の子が。


 ブスなわけ、ないでしょう。


「……そういえば、まだ言ってなかった」

「どしたの小春」

「優ちゃん」

「ほいほい」

「頑張ったね」

「ほい?」

「優ちゃん、頑張った。山吹先輩に、頑張って凸った。同じ陰キャとして。オタクとして。女の子として。カッコいいって思う。うん……ちょっと尊敬しちゃうくらい」

「小春……」

「結果は……その……アレだけど……優ちゃんは…………優ちゃん?」

「え?」


 変なタイミングで言葉を切った私を、優ちゃんの瞳が見つめている。ほんの少しだけ潤んだ瞳で、真っ直ぐに。


「あ、や……ああ…………ずっと……我慢してたんだけどな……小春……なんでも話せるから……気が緩んじゃったかな……」


 それは止まらず、座布団を濡らしていくばかりだ。


「……ねえ小春」

「うん」

「小春は、さ……山吹先輩を逃さないでね」

「……頑張ってみる」

「私みたいに……ならないでね」


 それには答えられなかった。だって、優ちゃんを困らせる答えしか、私の中にないんだもの。


 優ちゃんの言いたい所は見えている。けれども、優ちゃんみたいになりたいよと、答えたかった。


「あーも……悔し…………あーあ!」


 だって、可愛くて、カッコいいじゃないですか。私の友達は。


「絶対……このまま終わらないんだから……!」


 うん。頑張れ、女の子。


* * *

「わ、さっむーい」

「朝とは大違いだね」


 今朝には持っていなかったビニール袋を手から下げている優ちゃんを伴い玄関を開けて表通りに出ると、冷たい北風がぴゅーっと走り抜けた。もうすっかり日も傾いてしまって。結構話し込んでいたらしい。もうすぐ両親も帰ってきてしまうので、ここらで本日のオタ活は終わっておかないとだ。


「駅まで送るよ」

「ここでいいよ。っていうか小春は早く部屋に戻ってオタ活の証拠隠滅。なるべくバレたくないんでしょ?」

「でしたね……」

「結局刀魂2クール見ちゃったからね、私たちの発狂の痕跡がね、あるからね」

「だねえ……しかし、あれは正しい決断だったと自負している」

「右に同じ。小春と二人で見る刀魂がこんなに面白いだなんて……」

「また遊びに来て? というか来い。オタ活付き合って」

「やったぜ。何度でも来ちゃうからね」

「うん。待ってる」


 未来のオタ活の約束をし、笑い合うオタク二人。


「あれ、黒井さん、帰るんだね」


 それを邪魔するように、閉じたばかりの玄関の扉を開いたのは、私の兄だった。さては、挨拶しようとタイミング見計らっていたな? 優ちゃんの好感度を稼ぐつもりかあ?


「はい。長々とお邪魔してしまって申し訳ありませんでした」

「いえいえそんなそんな! 黒井さんさえよければいつでも遊びに来て!」

「じゃあ、お言葉に甘えまして、また近いうちに」

「そうして! 小春、友達少ないからさ、黒井さんみたいな子が」

「余計な事言うな駄犬」

「駄犬って! あいつら以外に駄犬って言われるの初めて! うわ、結構傷付く!」

「うるさいし……」

「あはは……ほんとに仲がいいんだね、小春とお兄さんは」


 何処がじゃ。っていうか、そういうの言われると素直に喜んじゃうの、そこの駄犬は。まあ、わかっててわざと言ってるんだろうけど。いい性格してますよ、私の友達は。


「じゃあ、お邪魔しました」

「うん。また明日ね、優ちゃん」

「こちらこそ来てくれてありがとう!」

「はいっ。ではま……わっ!?」

「きゃっ!」

「おわ!?」


 突然、強い風が吹き抜けた。表通りを沿うように駆け抜けたその風は非常に強くて、バランスを保つのがやっとだった。


「あ、ヤバ!」

「ゆ、優ちゃん!?」


 両目を見開く事が難しい風の暴力の中、慌てる優ちゃんの姿が確認出来た。どうやら、優ちゃんへのお土産として用意したタペストリー等々を詰め込んだビニールが風に煽られて、手から離れてしまったらしい。


「く! ぅ……おりゃっ!」


 JK的にどうなの感ある気合の一言と共に、今にも路上から巻き上げられてしまいそうなビニールに飛び付く優ちゃん。それ、中身軽い物ばっかりだからね。危ない危ない。


「危ない!」

「へ?」

「え?」


 間抜けな声を上げる女の子二人と、平常運転なボリューム調整ヘタクソボイスを発する兄。まーたなんか騒いでる。なんて、思う間もなかった。それくらい兄の行動と、予想外の展開がやって来るのは早かった。


「わっ!?」


 ビニールを拾い上げたばかりの優ちゃんを、兄が抱き締めた。単なるセクハラとかではない。優ちゃんを守ろうとしての行動だと、すぐにわかった。


「っ……!」


 荒れ狂う風の波に乗って、何か青色の大きな物が飛んできて、兄の背中に直撃した。


「お、お兄さん!?」

「だ、だいじょぶだいじょぶ……いてて……なんだあ……?」


 兄の背中を強襲したのは、学校なんかによくあるプラスチック製のゴミ箱。兄の背中を叩いたそれは、尚も強く吹き抜ける風に乗り、何処かへと旅立ってしまった。


「黒井さん、怪我ない?」

「…………え」

「何処か痛い所とかない? 大丈夫?」

「……は、はい……大丈夫……私は大丈夫……です……」

「よかったあ……あービビった……ってなんだ、ゴミ箱だったのか。軽い物でよかった」

「は、はい…………あの……」

「うん?」

「え、えっと…………その……」

「……あ! ご、ごめんごめん! さっさと手を離せって話だよね! 嫌な思いさせちゃって本当にごめん!」

「い、いえ…………全然……嫌とか……そういう事は……」


 う、うん? 慌てて手を離し距離を取る兄はいい。私の優ちゃんの体に触れるなんて的な厄介勢めいた思考があるのは否定出来ないけど今はいい。問題は、優ちゃんだ。


「う、わ……び、びっくり……」


 なんだろ……変わった? 風向き。色んな意味で。


「無事なら何より。つーかもう風弱くなってんじゃん。突風こわ……」

「そ、そうですね! びっくり……です……」


 いやいや待って待って黒井優ちゃんちょい待って。私がびっくりしてる。マジでびっくりしてるからお願い待って。お願いだから、暗がりの中にやたらと映える頬の紅潮具合が何処からやってきたものなのか説明して欲しいのだけれど?


「なーんかおっかないなあ……駅まで俺が送って行こうか?」


 まだ確定じゃない。まだわからない。そんなベタベタなヤツ、流石にないと思う。そ、そうだよ。優ちゃんだよ? うちのクラスのマドンナであり、学校でも屈指のモテ女、優ちゃんなんですよ? そんな優ちゃんがこんなベタベタなヤツでとか……。


「ご、ご迷惑でなければ……」


 あかーん! いや! 優ちゃん! それはあかーん!


「迷惑なもんか。じゃあ」

「ちょっと待ってうるさいうざい鬱陶しいハウス駄犬ハウスハウスっ」

「いやいや小春ちゃん! それは流石に言い過ぎだと」

「いいからハウス! 優ちゃんは私が送って行くから!」

「でも夜道危ないし」

「ごちゃごちゃ言わない! それ以上うだうだ言うならあんたが最後にお漏らしした時のエピソードをしら」

「よーし気を付けて行けよー小春ー! 黒井さんも! また来てねー!」

「え!?」

「それじゃ!」


 にこーっと笑いながら玄関の向こうへマッハで消えていく駄犬。それでよし。


「……ねえ優ちゃん」

「な、何?」

「吊り橋効果って、信じる?」

「…………ノーコメント」

「嘘でしょ……」

「ち、違う! 違うよ!? あいやでも違うかわかんなくて! 別にね!? 今の一瞬でどうこうとかそういうのはない! ないの! ないよ! 絶対にない! 気がする! わ、わかんない! でもなんか違う! かも! えちょま私えちょこれマジえほんとなんでこんな事が起きて」

「それは私のセリフ……」

「と、とにかく違う! 違うのーっ! そ、そんなにチョロくないよ私! 多分!」


 あーも、ヤダヤダ困る困る。顔真っ赤にして暴れ回る私の友達ったら、本当に本当に本当にっ! どうしちゃったっていうの……。


「いやほんと! なんかもう! えーっと! う、うう……! ううーっ!」

「え!? ちょ、ちょっと優ちゃん!?」


 優ちゃんってば、風向きも強弱も変わった表通りを駅の方目掛けて走り出しちゃった。お外走ってくるーじゃん。


「ちーがーうーのーっ!」

「いや違っていてよそこは……」


 断末魔めいた叫びを発する背中に、祈るように言葉のパスを出す。ちゃんとトラップしてくれると嬉しいけど、はてさて。


 いやまあ、気の迷いです。間違いないです。それでいいですそうしてくださいお願いします。私の親友が、私の兄とだなんてダメですごめんなさい本当に勘弁してください許してください後生ですから頼みますからほんと。


「はあ……」


 優ちゃんの明日は一体どっちだ。わからないけれど……まあ、とりあえず。エールの一つでも送っておきましょうか。別に、あの犬とどうこうなって欲しいとかそういう事ではないので。本気でないので。


 この先、優ちゃんが何処へ向かう事へなろうとも。誰を追い掛ける事になろうとも。掛ける言葉は、これだけなのかもしれない。


「頑張れ。女の子」


 特定の誰かに向けたつもりで、実は他の誰かさんに向いていそうな言葉は、風に消えるより先に、誰かさんの内側へと、馴染んでいった。

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