ワガママニ! ~転生者は好き勝手して生きていく~

ダシマキ

第1話 きっと人事はB専

 太陽が高く昇り、光と熱で激しく自己顕示してメンヘラさんもびっくりな承認欲求を満たす頃。ようやく起床した俺は軽く身なりを整え、とある場所へ向かっていた。

 テンプレのような中世ヨーロッパ風の町並みを眺めながら歩くこと数分。

 このアインフォーレンの町、その中央にそれはある。


 ワーカーズギルドと呼ばれるそれは、言わば一つの町のようなものである。

 町の中に町があるというのもおかしな話かもしれないが、ひと目見てみれば納得する。


 ワーカーズギルドとは、おおまかに傭兵部門、採集部門、製作部門の3つに別れており、それらの集合体としての総称だ。


 傭兵部門は戦闘に長けた者が荷馬車の護衛や魔物の討伐等を請け負う部門。当たり前だが命かかってるから報酬は高い。登録する時に試験がある。弱い魔物が出現する場所を探索するというのっけから命がけな試験だ。試験代わりに歴戦の傭兵が腕試し?ないない。彼らを試験のたびに雇うとか一体いくらかかると思ってるんだ。お金が勿体ない。


 採集部門は薬草の知識や採掘の技能を持った者が指定された品物を取得し納める部門。これも登録時に筆記で試験がある。アホに毒草大量に持ち込まれてもそいつの口の中に放り込む以外使い道無いからな。


 製作部門は傭兵部門と採集部門で取得した動物や植物、鉱物等を使用し日用品をはじめ武具や嗜好品等を加工する部門となる。ここで依頼を受けて加工された物にはギルドの印が入った証明書が発行されるため、通常の店で買うよりも安定して良品質の物が得られる。こちらはどうせ加工された一品ごとに鑑定を行うことになるので、試験は無し。


 効率その他諸々を考えた結果すべてがひと纏まりになったワーカーズギルドという存在は、常に新鮮な情報、人材、物品が行き交うのだ。確かに町の中の町と言っても過言ではないほどに賑わっていた。




 前の世界で言う市役所程度の大きさの建物の中に入ると大きなカウンターが3つ見える。おそらくカウンターごとに部門が違うのだろうがカウンターの上を見ると、剣と盾のマーク、花のマーク、トンカチのマークがそれはもうでかでかと描いてあった。非常に分かりやすくてサルでも安心だ。

 迷わず剣と盾のマークのカウンター、傭兵部門へと歩いていく。


 あいにく受付は混雑しており、少し待つことになった。


 前に並んでいる人達を見るとどうみても一度も使っておらず新品ピカピカな剣が納められた鞘、質は悪いがこちらもノリ付けされていると言われて信じるほどピカピカな皮鎧が目に入る。値札はがし忘れて付いてそうなレベル。新人と一目で分かった。


 そんないかにもな新人君達を眺めながら待っているとようやく自分の番が回ってきた。受付嬢は自分を見て、一瞬驚いた顔をしながらも話しかけてくる。


「本日の御用はなんでしょうか?」


「ギルドの傭兵部門に新規の登録をしたい」


「あ、はい、新規登録ですね。それではこちらの記入をお願いします。代筆は希望されますか?」


 そうして渡されたのは非常に質の悪い紙だ。この世界で紙が貴重なのはわかるがこんな尻を軽く拭くだけでどこかの配管工の主人公くらい飛び上がって痛がりそうな紙はごめんだ。尻は拭かないにしても素直に書きにくいので思わず顔をしかめる。


「ご、ごめんね?やっぱりこれ書きにくいよね?でも質のいい紙って貴重だから……」


 受付嬢が急にため口になりつつも僅かに距離を詰めてくる。紙質の話をしながらもこちらの顔ばかり見ている。


 自分の容姿がそこそこ整っているのは自覚している。というか惚れられてる事にも自分がかっこいいことにも気づけない超鈍感主人公がもし存在したとして、そいつやばくないか?脳内のどこかに悪性の腫瘍ができてると思うから今すぐ検査にいくのをオススメしたい。


 ちなみに受付嬢と聞いて綺麗な外見と若さを想像した方は回れ右だ。

 この受付嬢は若さはあるが見た目は……うん、まあ。

 なんとも言えない絶妙さだ。こうギリギリ……、うーん、やっぱ……、無理かも、みたいな。自分は無理派。というか周りを見ると同じレベルの受付嬢多いな?


 きっとこのギルドの人事は、あのパソコン・家電チェーン店グラビア採用担当からの回し者に違いない。それかB専。


 距離を詰められた分しっかり距離を稼ぎ、拒絶を示すと受付嬢は残念そうな顔をした後、最後に笑顔でウインクを飛ばしてきた。ふむ……イルカは溺れないために片目を閉じて脳の半分を交互に眠らせる半球睡眠を行うらしいが彼女はこの一瞬で半球睡眠を行ったのだろうか。生命の神秘ってすごい。というか、今のをウインクと思いたくないからそういうことにしておきたい。そうに違いない。


 その後は人類未踏の奥義を突如体得した受付嬢に心の中で賞賛を送りながら、なるべく目を合わさないように必要項目を書き上げる。


 名前、年齢、主に使う武器、魔法が使えるかどうか等。このへん自己申告でいいとか結構適当だな。


 簡単なことだけ書いて提出した。


「えっと……、名前はリベルさんですね。年齢は16、武器は剣、魔法は簡単なものが使用可能……と。はい、大丈夫です。では、ギルドの事とギルドの規約を説明しますね」


 説明されたことは基本的にこんな感じだ。


 ギルドのランク付けとしてブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナが存在しており、最初はブロンズスタート。依頼は自分と同じランクかそれより下のランクしか受けられない。受けられる依頼は一日に3つが上限。依頼を一定数達成するなどして信用を得ていけばシルバー、ゴ-ルド、プラチナと上がっていく。このランクが適用されるのはこの国だけで、戦争等が起きた時は例えブロンズでもランクを持っている者は戦争中に国を出ることができない。戦争の参加は強要されたりしないが参加しないと立場が悪くなることがあるとか……自由参加(出ないと干される)や服装自由(スーツじゃないとか常識がないなあ)みたいなアレだな。日本帝国万歳だ。


 あとはまあギルドメンバー同士の争いはしないとか依頼は受けたらなるべく破棄しないとかの道徳レベルの問題である。


「では、レベルの測定を行って、あ…………、そして試験用の依頼を受けてもらいます。その試験用依頼を達成した時点でリベル様は正式にギルド員として認められます。……れ、レベル測定器具、とってきますね」


 おいなんだ今の間は。というかその試験依頼とかいうの最初に言うべきだろ絶対言い忘れたよな?登録用紙持ってかれたからもうどうしようもないし……新手の美人局か?いや、美人じゃなかったわ……なんかすまん。


「お待たせしました、では測定しますね」


 待ってはいない、待ってはほしかったが。

 受付嬢は手に竿を持った竿役……じゃない槍を持った屈強な男性警備員2名を同伴し、何かを手に持ちながらこちらに歩いてきた。もうどう見ても美人……局にしか見えない。レベル測定器具ってのが貴重で万が一を防ぐためなのはわかるけどさぁ。


 受付嬢は野球のボール程度の大きさの青い水晶のような玉をこちらに向けた。よかった。もしこれが金色の玉だったらとある場面でこの顔を思い出してしまうことがあっただろうな。この物体を構成する色素に感謝を捧げたい。


 青い水晶はこちらに向けて一瞬輝きを放つと小さく15という数字が浮かび上がった。これが今の自分のレベルらしい。便利だなこれ。どうにかしてかっぱらえないかな。


「おお、レベル15ですか!その年齢の新人でこのレベルは将来有望ですよ!」


 自分はレベル15とのこと。レベルいくつからが強者の域とかそういう区切りはわからないが16歳の新人としては有望らしい。さいですか。


「では、最後に試験用依頼を受けてもらいますね。この町の南方にある試験用の洞窟に魔物がいますので、それを討伐しながら奥にある証を取ってきてもらうというものです」


 忘れておきながら、さも当たり前のように言う受付嬢に少しイラっとしたが一応知ってはいたし元よりそのつもりだったので何も言わず依頼を受ける。顔パン一発かましてやりたかったが相手は実質殴られたあとみたいな顔してたし辞めておいてやった。


あとは内容を書いた紙を受け取って、ギルド側はその証明書のようなものを作って終わりだ。


「では、試験は明日の朝から昼までに行います。詳細は紙に書いてありますのでしっかりと準備して挑んでくださいね!応援してます!」


正直いらない声援を受け取りながら、リベルはワーカーズギルドを後にした。

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