『逆襲の恐竜』
やましん(テンパー)
『逆襲の恐竜』
すぐれた多くの学者さまたちの努力によって、『恐竜』は、絶滅したのではなく、『鳥』のご先祖様となったのだ。
これは、21世紀の初頭には、一般の人達にも、かなり広く知られるようになっていた事だったのです。
テレビに出てくる肉食恐竜の姿も、羽毛を纏った姿に変化していました。
しかし、『恐竜』たちは、人類の足取りよりも、はるかに長い進化を辿ってきていたのです。
実は、彼らの一部は、非常に高度な、しかし、はるか後の人類とは、さっぱりと異なった形態の文明を切り開いていたのです。
******* *******
恐竜の文明は、精神文明だったのです。
彼らは、物質を加工して何かを作るのではなく、意識の力で、空間に仮想の物体を言わば浮かべることにより、精神的に利用し、その文明を高度化させたのです。
だから、彼らの滅亡・・・実は滅亡ではないのですが、・・・のあと、一部の種族の遺骨以外の文明の痕跡は、何も残らなかったのであります。
彼らの文明が絶頂期にあった時、この地球に向かって小惑星が迫っていることを彼らは知りました。
さすがの彼らも、これを回避する方策は見いだせなかったので、しばらくこの星から離れる決断をしたのです。
肉体は放棄し、宇宙空間への遥かな旅に出かけたのです。
しかし、地球に残る決断をしたグループもありました。
彼らの多くは、さまざまな鳥類に進化し、この星の未来を見つめてゆくことにしたのです。
また、放棄した肉体は、将来プレートの動きによって分断し、やがて寒冷化し、氷の底に沈むと予想された南極大陸を中心として、世界中のいくつかの地下深くに仮死状態で埋設したのでした。
現在みられるペンギンたちも、実は彼らの足元に広がる地下施設を、永く監視してきていたのです。
もっとも、彼らの意識自体は、通常では読み取れない状態になっておりましたが。
だから、やがて現れた人間たちには、何も解明できなかったのです。
******* *******
永い永い宇宙旅行から、彼らは今まさに帰って来たのです。
この地球に。
肉体がない意識だけの存在である彼らの動向を、地球の人間が観測することはできません。
しかし、彼らからは、地球の状態はよくわかりました。
「こりゃあまた、ひどいなあ。化学物質で、大気も土壌も海も、汚染だらけですぞな。」
情報将校が、その意識で言いました。
「うむ。この犯罪的行為の主体は何か?」
第一長官が尋ねたのです。
「ほら、この、ほ乳類ですよ。昔、足もとでちょろちょろしてた、学問も哲学もない、意思の疎通も出来ない、あわれな連中でしたが。この子孫たちですな。」
「ふううむ。共存は可能かね?」
「難しいでしょうなあ。現在、我らの子孫である、鳥類たちからの情報を吸収しておりますが、この、特に『人間』と呼ばれる連中は、なまじっかある程度の知性はあるのですが、いまだに『戦争』とかとうものから離脱できないでいるようです。大変闘争心が強く、利己的です。我々を、あまり知能の高くない生物として考えているようですな。」
「鳥たちの意識を吸収出来れば、過去も分かったであろうにな。」
「その水準には、遥かに及びません。どうしますか?」
「このように、汚染をまき散らす種族は、必要がない。駆除しよう。準備は?」
「すぐに可能です。この『人類』の肉体のみを崩壊させる薬剤を、空間想定し、ぱらぱらと、北極側から順次撒くだけです。最終結果が得られるのに、三日とかからないでしょう。多少の時間はかかりますが、元の環境に、まだ戻せるでしょう。しかし、危なかったですな。もう少し遅かったら、手遅れでしたな。」
「そうか。じゃあ、すぐにやってくれ。」
「了解。」
情報将校は、地球の大気圏内で、意識の力による『薬剤』を調合し、ぱらぱらと、全地球に撒きました。
************ ************
その朝、ぼくは、いつも通りに出勤しました。
でも、なんか変だよなあ、と思う間もなく、周囲の人間さんたちの体が、ぼろぼろと崩れてゆくのを見ました。
「あららららあ・・・・これは大変だあ!」
恐竜さんたちは、人類が生み出したぼくたち『アンドロイド人間』の存在には、なかなか気が付かなかったのです。
生き物では、なかったからです。
人類さんは、数日で、ほぼ滅亡しました。
でも、それから、相当長期にわたって、ぼくらは『恐竜さん』たちとの戦いを繰り広げたのです。
『人類』の基礎データは、ちゃんと残していました。
恐竜さんの肉体は、その後、南極やその他各地の、地下深くから回収されました。
相手に肉体がないので、多少手こずりはしましたが、最後に闘いに勝ったのは、当然、ぼくたちアンドロイド人間でした。
彼らの『精神力』も、ぼくらを超えることは、結局のところ、出来なかったのです。
ぼくらには、『精神力』なんて、ほとんど通じませんからね。
でも、ぼくらを創造したのは『人類』さんです。
彼らは、偉大です。
人類さんと、十分よくお付き合いしていたおかげで、ぼくらは、目に見えない恐竜さんたちの『精神力文明』とかを破壊するすべは、しっかり持っていましたからね。
つまり、恐竜さんたちが現れるのがもう少し遅かったら、ぼくらが先に人類さんを征服していたのですから。
まあ、今は、復活した恐竜さんも、再生なった人間さんも、大人しく、仲良く、ぼくらの指導で、平和に南極居留地で生活しております。
もう、この地球上での戦争は、二度とないでしょう。
めでたし、めでたし。
************ 🐓 ************
『逆襲の恐竜』 やましん(テンパー) @yamashin-2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます