不生不死奇譚-フショウフシキタン-

ジュウジロウ

おまえたちに、話しておきたいことがある。

 ドアと窓があって壁がない。

 壁があって入口がない。

 壁と入口があって屋根と床がない。

 そんな建物ばかりの町を一人さまようところを想像してほしい。


 そんな町があるのかって?

 もちろん、この世には存在しない町だ。

 かといって空想の話をしてるわけじゃない。


 これは、俺が、いわゆる生と死の狭間の世界をさまよったときの話なんだ。



 その世界では、あらゆるものが曖昧で、混ざり合ってて、どっちつかずで、意味をなさなかった。


 その世界は――……


 えっ、ああ、そうだよ。箱の話だ。

 うん、わかってるけど、まあひとまずそれは置いといて――おいっ、さわるな、そんな乱暴に!……ちょっと待てって、おい!


 わかってるってば。別に話をそらしたわけじゃない。ちゃんとその箱に関係する話なんだよ。

 ……ああ、いいよ、開けても。

 ただし、話を聞き終わってからな。一応だ。

 大事なことだからさ。

 話し終わったら鍵を渡すから。


 その箱のことは、おまえたちが箱を見つけたらいつでも……いや、たとえおまえたちが見つけなくても、いつかは話そうと思ってたことなんだ。


 え? ……ハハ、なるほど。

 棺、か。

 見えなくもない……かな?

 いや、これは「長持」っていうんだけどね。服とかを入れる家具だよ。

 ……ん?……んん。

 そう。普通は、服をね……。


 これの中身は、まあ……。

 いいから、とにかく話を聞けよ。

 棺、ねえ。

 当たってるような、そうでないような……。


 ああ、はいはい。話の続きね。

 生と死の狭間の世界の――……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る