サ~クラ~~サ~クルクラッシャ~はいらんかね~~♪

ちびまるフォイ

破壊したくなるグループ

「僕もいつかお父さんみたいな先生になるよ!」

「ハハハ。そうかそうか、楽しみだなぁ」


小さい頃の夢は身近な肉親の影響で教師だった。

かくして教育実習までこぎつけはしたが、すでにこの道を後悔している。


「あのゴミ箱なかなか入んねーーな!」

「てかさ、この授業とか意味なくね?」

「数学とか生きてるうえに必要ないっしょ~~」


生徒は教師をなめまくって、授業の真っ最中でもいじめが行われている。

実習着任当初はすぐに報告したものだが……。


「今、保護者はそういうのに敏感なんだよ。

 下手な口出しをして悪化させないでくれるかな。

 君は教育実習。どうせ数週間でまた大学に戻るんだしさ」


と、担任からは釘を刺されてしまった。

目の前で悪事を働いているのも黙殺するストレスで死にそうだ。


俺がなりたかった教師ってなんだったろう。


「はぁ……疲れた……」


教育実習中も、大学の講義には参加しなければならない。

大学に戻ると教育課程に進まなかった人たちが騒いでいる。


「今日も飲みいくか」

「テニサーと合同飲み行こうぜ」

「可愛い子めっちゃ紹介するよ」


「あいつら死ねばいいのに……」


俺は学級崩壊に心痛めているのに、

かたやリア充大学生共は合コンだなんだと遊びまくっている。


なんだこの差は。

どうして真面目に生きている俺のほうが損をするんだ。

納得行かない。


「サークラ~~♪ サークラはいらんかね~~♪」


リヤカーを引いて販売員が横切った。


「サクラ? サクラを売ってるんですか?」


「ちがうよ、兄ちゃん。うちはサークルクラッシャー売り。

 略して"サークラ"じゃて」


「その荷台のが?」

「そうそう。買っていくかい?」


値段は割高ではあったが、買えなくはない。


「サークルクラッシャーを1つください」


「まいど。ここで装備していくかい?」

「できねぇよ」


サークラを手に入れると、さっそく腹立たしいサークルへと加入させた。


「これって、どれくらい待てば効果出るんですか?」


「うちのサークラは特注じゃよ。まぁ明日を待つことじゃ」


翌日、大学構内は昨日とはまったく別種の騒がしさで包まれていた。


「てめぇ!! ふざけんじゃねぇぞ!!」

「お前こそ、どういうつもりだ!!」

「お前は彼女いるくせに、浮気なんかしてんじゃねぇ!!!」


昨日は飲み会だなんだと肩を組んで歩いていた男たちが

今日になってとっくみあいのケンカをしていた。


その様子を泣きそうな目でサークラが見守る。


「だって……だって、寂しかったんだもん……」


「サクラちゃんを悲しませんじゃねぇよ!!」

「うっせぇ! この浮気野郎!!」

「サクラちゃんは俺を好きだって言ってくれてんだ!!」


先生が止めに入る頃にはすでにみんなぼろぼろになっていた。

後日、これが原因でサークルは空中分解して消えた。


「あはははは!! ざまあみろ、リア充どもめ! サークラ最高だ!!」


これでちっとは性教育以外の勉学にはげむだろう。

そう思うと罪悪感はなく、むしろ正義感すら溢れてくる。


「サークラ~~♪ サークラはいらんかね~~♪」


「あ、おじさん!」


「おお、兄ちゃん。サークラはどうじゃった?」


「もう最高だよ! あんなに早く効果が出るなんて思わなかった!

 それにアイツらが分裂していくなんて、最高に気分いいよ」


「ま、用法用量を守ることじゃて」


「おじさん、サークラ1つください!」

「言ってるそばから!?」


おじさんからサークラを1つ手に入れた。


「また何か壊したいサークルでもあるのかい?」


「今はないけど、キープしておきたいんだ。

 次におじさんがいつ来てくれるかわからないしね」


「それはいいけどよぉ……」


懲りずにリア充どもがサークルを作ろうものなら、

ゴキブリを駆除するよりも早くサークラでぶっ壊してやる。


サークラを家に置くと、いつでも対応できるようにサークル掲示板を監視していた。


「……ないなぁ」


が、以前のサークラでよほどショックだったのか、

新規出会い厨サークルが登場することはなかった。


「あのサークルの幹事、PTSDになったらしいぜ」

「まじで!?」


思っていた以上にサークラの破壊力は大きかったらしい。

これでは早々にまたサークルを作る発想にはならないだろう。


「どうしよっかなぁ……このサークラ」


家には使いみちを失ったサークラが立っていた。

見れば見るほど、童顔で油断すれば好きになってしまいそうになる。


「なーーに?」


サークラは目が合うとニコリといたずらっぽく笑った。


「い、いや別に……」


慌てて目をそらした。


「私のこと見てたでしょ」

「見てないって」


「私は見る人によって、好みの姿形になるの。

 年齢も体型もその人の好みになるの。だから好きになるのも当然だよ」


「だから、見てないって!」


振り返るとすでにサークラは鼻の先まで顔を寄せていた。

唇をすぼめればすぐにキスすらできる距離。


「私の出番が来るまで、一緒に生活してもいいでしょ?」


「サークラと生活なんて……」

「私のことはサクラって呼んで」


「良いだろ別に」

「サ、ク、ラ」


サクラはまた顔を寄せる。

目線をそらそうとすると胸の谷間に視線が吸引される。恐ろしい。


それから数日もすると、俺は壊れ始めた。


「あああああ!! ダメだダメだダメだ~~~~!!」


「何がダメなの?」


サクラはあざとく俺の背中に抱きつく。

こいついちいちボディタッチが多い。しかし悪い気はしない。


「まずい!! これ完全に俺が落とされてる!!」


「サクラは、自分の気持ちに素直なほうが、いいけどなぁ?」


誘うように体をよじってスキを作るサクラ。

こいつがサークラだとわかっていても、ずるずると沼にハマっていきそうだ。


正気が保てなくなり、家を飛び出しておじさんを探した。


「おじさーーん!! サークルクラッシャーおじさーーん!!」


「なんじゃいな、兄ちゃん。それじゃまるでわしが主犯みたいじゃろ」


「あのサークラ、引き取ってください!

 使い道ないまま家においておいたら、こっちが壊される!!」


「一度買ったものはこっちの意思で戻せないんじゃ。

 中古のサークラなど売り物にならないし」


「で、でも……」


「テキトーなサークルにでも解き放てばいいじゃろ。

 サークルを壊せば、サークラはおとなしくなるんじゃから」


以前は八つ当たりのようにサークルを破壊したが、

残っているのはなんの罪もない、真面目で健全なサークルばかり。


みんな楽しくやっているのを、自分が助かりたいばかりに居場所を奪って良いのか。


「そんなこと……できない……」


俺はひざをついて諦めた。



 ・

 ・

 ・



それから数日後。


「兄ちゃん! 兄ちゃん、いるかい!?」


サークルクラッシャーおじさん、略しておサルさんが大学にやってきた。

今度はおじさんが俺を探すパターン。


「どうしたんですか? おじさん」


「前に、いらないサークラを返品しようとしたじゃろ。

 あれの引き取り手がいたんじゃよ」


「え?」


「個人の恋愛目的でサークラがほしいって人がいてのぅ。

 売り物だと金がかかるが、お前さんの中古なら無料じゃろ。

 よかったじゃないか、引き取り手が見つかって」


「ああ、それなんですが……」


俺はおじさんにサークラを使ったことを話した。


「なんじゃ、もうサークラを使ったのかい。残念じゃ。

 それで、どこのグループをぶっ壊したんじゃ?」


「いえ、大学じゃないです」

「なに?」


俺はおじさんを連れて、教育実習先の学校を見に行った。




「ほら、おじさんのサークラを使ったおかげで

 いじめのグループもぶっ壊されて、今じゃみんないい子です!!」

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