図書館暮らし。
柚緒駆
図書館暮らし。
人類は驕った。
神は怒った。そして決めた。
ある日、月の軌道に巨大なモノリスが浮かんだ。高さ1190キロメートル、幅840キロメートル、厚さ100キロメートルの直方体が、一つ、二つと現われた。それが十を超えたところで人類は数えるのをやめ、ただ天を仰いで
超大国は核ミサイルを撃ち込んだ。しかし傷一つつけることができない。人類の叡智など、無に等しいことをモノリスは知らしめた。
モノリスは日に日に数を増やし、列をなし、天空を覆う。それは太陽を隠し、月を隠し、星を隠し、地上を闇が覆った
そして。
七日七晩続いた暗闇の世界の空に、どこからともなくラッパの音が鳴り響いたと思うと、一切の警告もなく、その巨大質量たちは地表へと降り注いだ。
破滅の轟音とともに山は消え、海はえぐれ、大地が裂けた。世界から、国という国が滅んだ。ありとあらゆる命が泥流に飲まれ、地上から消え去った。地球は死の星となった。……かに見えた。
しかし人類は滅びなかった。地面に並ぶ巨大な直方体の列の隙間に、ごく僅かの人影が蠢いていたのだ。
生き残った人々は誰が言い出すでもなく地面に膝をつき、手を合わせて天を振り仰いだ。そして自らの信ずる神の名を口々に叫ぶ。下された天罰を受け入れること、もうそれしか人間の生き残る道などなかったのだ。彼らは決めた。このモノリスの林の中で暮らして行くことを。それこそが神の示したもうた正義なのだと。
人々の声はモノリスの谷間に反響し、やがて天に届いたのだろうか。
そのとき、人々は聞いた。世界をあまねく包み込む、聖なる神よりの御声を。
「天立太陽系図書館にようこそ! はーい、こちらの地球に並んでいるのが新規購入図書となっておりまーす。貸し出しご希望の方はカウンターにどうぞ!」
こうして人類の図書館暮らしは始まったのである。
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