レジスタンス③

 バイエルンがジュノたちによって解放された翌日の夜、レスタの町では中央広場にある天幕で町議会が開催されていた。


 ハインリッヒはジュノたちの偽装工作によって、バイエルンが解放されていることを知らないままだった。


 ずらりと席に並ぶ議員たち。最後に貴族であるハインリッヒが入室。



 通常一番くらいの高いハインリッヒが最後に入室するのが習わしなのだが、この日はハインリッヒが最後ではなかった。


 冒険者ギルドマスターのシュラクとエルザの父親がまだだった。そのことに、欠席か? と眉を顰めるハインリッヒ。


 と次の瞬間。



「どれ、我輩もこちらに入らせてもらうぞ」



 そう言って会議場に入ってきたのは、ハインリッヒによって軟禁されているはずのバイエルンだった。


 シュラクとエルザの父親を従え、護衛役のマルゴとジュノも控えている。 


「な……、父上……」



 ハインリッヒはありえないという表情。



「息子よ。我ら貴族に求められるのは賢しさではなく、モラルである。我輩の恩人であるケイゴを利用し私腹を肥やそうなど、恥を知るが良い」



 バイエルンはハインリッヒに向け指を突きつけそう言い放った。


 ここは議会の場。武力ではなく言論による戦いがなされる。相手がとち狂って武力行使に出た場合はその限りではないが、お互いに護衛は二人しか連れていないため、そうはならない。



「何を仰るか! そのような証拠は何もありませんではないか! それにあなたは一度政治の場から身を引かれた身。でしゃばるのは止めていただきたい!!」



 すぐに立ち直ったハインリッヒが白々しくもそう述べる。



「息子よ、そう急くな。ここはどちらが我らが愛する町の政治を行うにふさわしいか、町の代表である皆に決めてもらおうではないか。それでもお前がふさわしいということなのであれば、我輩はすぐにでもここから立ち去るつもりであえる」



 堂々と述べるバイエルン。



「ふふ……。かまいませぬ。あなたは一度敗北された。何度同じことを繰り返せば気が済むのやら」



 ハインリッヒは余裕の表情。



「では皆の者。ただ今貴族のお二方より、貴族としてレスタの町を治めるに相応しい方がどちらなのかを決めよとの命があった。これより決をとりたいと思う。ハインリッヒ様が相応しいと思われる方は左手を。バイエルン様が相応しいと思われる方は右手を上げられよ」



 そうエルザの父親が述べると、その場にいる殆どの者が右手を上げた。



「馬鹿な」



 絶句するハインリッヒ。



「結論は出たようだな。我が息子よ。貴様はしばらく自宅で謹慎しておれ。追って沙汰は下す」



 後ろに控えていたジュノとマルゴがハインリッヒを捉えようとする。



「何をしている! 我が身を守れ!」


「「……」」



 ハインリッヒが後ろの護衛に半狂乱になって叫ぶが、新しい領主に返り咲いたバイエルンの顔を見た護衛二人は剣を握る手を放したのだった。


 それでも何かを喚き続けるハインリッヒをジュノとマルゴが拘束し、天幕の外にいた団員に引き渡した。



 そしてハインリッヒは自宅へと連行されたのだった。




「マルゴとジュノ。お前たちの働きには感謝してもしきれない。本当にありがとう」



 そう言うと、後ろに控えたマルゴとジュノにバイエルンは頭を下げる。



「いや、バイエルン様。頭上げてください。俺たちはケイゴを助けたかっただけだ。復権してくれてありがとうと言いたいのはこちらです」



 慌てるマルゴ。



「皆の者。この者たちが、吾輩の復権を助けてくれた『蒼の団』団長のマルゴ、副団長のジュノである。我輩は彼らの友人への想いに深く感動した。『蒼の団』は町の自警団として、我輩が私財を投げ打ってでも維持したいと思っている」



 そこで一度区切り。



「そしてマルゴとジュノには町議会議員の地位とを与え、レスタの発展にこれからも力を貸してもらう所存である!」



 こうして一連のハインリッヒによるクーデターは終焉を迎えた。


 思わぬ展開に目を白黒させるマルゴとジュノ。


 そして同時刻、レスタから遠い北東の国境付近には、今日の晩飯は何にしようかと呑気に考える何も知らないケイゴたちの姿があった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「一方その頃レスタでは」編、解決エピソードでした。ここの記述も書籍版とは相当内容変えてます。


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る