k-150
幸せな二人と一匹の食事の後、俺は一人暖炉の前でテーブルに頬杖をつき物思いに耽る。
ユリナさんとアッシュはお腹がいっぱいになったのか既にベッドで夢の中だ。
ところでみなさんは、ハネムーンという言葉の意味や由来をご存知だろうか。
直訳すれば『蜜月』だが、結婚してからの一ヶ月間を意味している。
新婚の甘美に満ちた生活と、甘美な生活も満月のようにすぐに欠けてしまう、というのがその言葉の由来だそうだ。
幸せすぎて俺は今、淡い夢の中にいるかのごとき存在なのではないかと思えてくる。
ユリナさんと過ごす蜜のように甘い日々。
この月の蒼い美しい世界も、全て俺の妄想なのではないか、と。
俺が見ている蒼い満月は、日本で見てきた月とは全く異なる。
満月が欠けてしまうどころか、かき消えて俺の見上げる月だけが日本の見慣れたものにならないとどうして言い切れる?
俺はこの世界においてイレギュラー因子だ。
根本的に俺は、この世界の住人ではないのだ。
俺は、この世界ではパラパラ漫画にある余計な絵。押しては返す波のように。
メトロノームが、右でとまったままにならないように。
本来あるべき場所に戻るというのが物理原則なのではないか。
ある日突然目が覚め、俺だけが日本に戻っていたとしたら。
ある日突然、ユリナさんやアッシュと離れ離れになってしまったら。
きっと俺の心は壊れてしまうに違いない。
ベッドで先に眠る彼女には不安を与えるだけなので、俺のこの仮説は黙っておこう。
まあ、死亡フラグとも言うしな。
俺は、ベットで寝息を立てる彼女の可愛い寝顔を見て、不安に駆られていた自分を何とか立て直した。
そんな心配はないさと思い直す。
そうさ。俺たちはきっと大丈夫。この甘美な生活が俺と彼女にとってのリアルなのだから。
眠らなくては。彼女と一緒なら、きっと眠れるはず。
俺は、テーブル上にあるランタンの明かりを静かに消す。
それから、彼女が寝息を立てるベットに潜り込む。彼女のふわふわの柔らかな髪を撫でる。
彼女の微かに甘く香る匂いに安心した俺は、いつしか夢の世界に誘われていた。
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あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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シャーデンフロイデ 〜神様の前でボケた俺は、真に受けた神様にパンツ(魔道具)に転生させられる〜
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なども執筆しておりますので、そちらも応援頂けると幸いです。
〜あらすじ〜
自虐ネタでピエロを演じることでクラスメイトの「シャーデンフロイデ」(他人の不幸を蜜の味と感じる気持ち)を喚起して学生生活を乗り切るスクールカースト底辺の男子高校生・馬場巨人(ばば つよし)は、ある日交通事故に遭う。神様の勘違いもあって魔道具(パンツ)として廃墟で眠る美少女アルシアの枕元に異世界転生してしまう。神様からもう一度人間に戻るには、魔道具として徳を積む必要があると告げられる。目覚めたアルシアに勘違いされあわや大惨事になるところだった馬場は、どうにかアルシアの腕にシュシュ(魔道具)として装備されることに成功。馬場は魔道具としてアルシアを助けることを決意する。
アルシアは王族に保護され目をかけられていることで「シャーデンフロイデ」とは真逆の感情である「嫉妬」(=シャーデンフロイデ・インバース)の対象となり、冒険者としてパーティも組めず極貧生活を余儀なくされていた。その結果、現在野盗に襲われても文句の言えないような廃墟で野宿するハメになっていた。
とりあえずお腹を空かせたアルシアのために、食料でもとってきます。
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