k-149

 パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く、夕暮れ時。


 俺は自分の思考言語である日本語でしたためた文章を鑑定し、ランカスタ語で書き直す。


 まるでミミズがのたくったような、アラビア文字かと突っ込みたくなる難解さだ。もっとも、最近では書き写すことには慣れてきた。


 手紙を書き終えた俺は、ユリナさんを見る。


 彼女は静かに椅子に座り、編みものをしている。


 縦長に編んでいるので、マフラーか何かだろうか。


 先ほどそれは何かと聞いてみたが、唇に人差し指をやり、秘密のジェスチャーをされた。


 正直に言おう。可愛い。


 俺はユリナさんに、声をかける。


 そして、まるでラブレターを手渡すように書き終えた手紙を渡す。


 いや、まさしくラブレターそのものだと渡してから気が付いた。


 こんなに近くにいるのに、まるで遠く離れた異国の恋人と文通している気分だ。


 俺とユリナさんは思考言語が違うので、口頭やジェスチャーでのコミュニケーションには限界がある。


 ただし、唯一齟齬なく意思を伝達できる手段があった。それは、文字を鑑定によって翻訳し、文章にすることである。


 きちんと伝えたいことは文章にする。これが、俺たち二人の間の決めごとだ。


 文章に、何度も何度も目を通すユリナさん。彼女の目に涙がにじんできて、やがて雫となって落ちる。


 いかん。笑顔にするつもりだったのに、泣かせてどうする。


 彼女は手紙を大事そうにポケットにしまうと、俺に抱きついてきた。


 俺も彼女の肩に手を回す。彼女が潤んだ瞳で俺を見上げる。


 そして、何度目になるだろう。俺はそっと、彼女の唇に自分の唇を重ねた。


 

 ◇◇◇



 その後、彼女とは何度もラブレターを交換した。


 彼女が俺を好きになった理由もそこには書いていた。


 俺は嬉しかった。


 俺は、ラブレターに書いた約束を守ることにした。


 ラブレターには、彼女の笑顔が見たいから美味しい料理を作ると書いた。



 今日の献立は、ブルーウルフたちからの頂き物であるシカ肉を使った料理を作ることにした。


 彼女は当たり前かのように、俺の隣に並んで一緒に料理を手伝ってくれた。



 シカ刺しとステーキを作ったけど、もう何品か欲しいところだな。



 チーズ明太卵焼きと腸詰肉ソーセージのボイルでも作ろう。


 ちなみに俺とアッシュの間では、腸詰肉のボイルを適当に甘辛くしたソースで食べる料理のことを “シャウエッセン” と呼んでいる。


 料理の合間、足元で可愛いギャングと化したアッシュがウロチョロしている。


 俺とユリナさんは、アッシュを踏まないように歩くのが大変だ。



 早めにできたシャウエッセンをテーブルに置いていたら、うっかり椅子を引いてアッシュが上がれるようになっていたのが悪かった。


 アッシュが皿の上のシャウエッセンをペロリと全部食べてしまったのだ。 


 アッシュを見ると、ベッドの上で「なんにも食べてないからお腹ぺこぺこです! マンマまだですか?」という顔をしていた。


 可愛いすぎて怒るに怒れず、ユリナさんもアッシュがお腹壊さないか心配していたよ。


 後で獣医さんに診てもらわないと。でもこの世界に獣医さんなんていたっけ。



 そんな心配をよそに、アッシュはまだまだ食欲旺盛で元気いっぱいだった。




 さて、気を取り直して料理を再開しよう。


 今日は肉料理だから、ミランの果実酒でも飲もうかな。



 俺とユリナさんはミランの果実酒をチビチビとやりながら料理をした。


 我慢できずにお互い肉料理をアーンと食べさせ笑いあった。


 なぜか、いつもの料理より4倍は美味く感じられた。




 こんな日常が世捨て人の俺に突然舞い込む日が来るとは思わなかった。


 幸せで、甘美な日々だった。


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 みなさんこんにちは! ここまでお読み頂きありがとうございます🐔


 口から砂糖がザラザラ……。

 友人からはラブラブな描写控えめで子供に見せるのも助かると言われました。漫画は一応青年誌ということなので、どうなるんかなあって思ってます。


 アッシュがシャウエッセン食べちゃったシーンは我が家の愛犬ポメラニアンが起こした「マルちゃんシャウエッセン事件」という実話をモチーフにした描写となっております。書籍版を書いた後にWEB版限定で書きおろしました。


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

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