k-127
ユリナさんの店を後にした俺は、さっそくマルゴに居間兼寝所への暖炉の設置を依頼した。
ユリナさんから聞いた情報によると、この辺り一帯は、どうやらダイヤモンドダストが見られるくらいに寒くなるそうだ。
北海道レベルの寒さを覚悟しておくべきだろう。北海道並に冷え込むとなると、暖炉なしの生活は厳しそうだ。
マルゴへ金貨を支払い、依頼を済ませた俺は、ユリナさんとの約束を果たすために、サラサからプレゼントの材料を仕入れ帰路についた。
マルゴとサラサの間は、本当にもう大丈夫のようだ。よかった。
マルゴは引きこもりがちな俺に、「少しは外を見てみろよ」とあの店に連れて行ってくれたのだ。
そして、事実俺はユリナさんを通して、外の世界に興味を持つことができた。
サラサも特段俺がユリナさんに会いに行くのをとがめる様子もない。
むしろ、生暖かい目で見てくれている気もする。
エルザとジュノの関係も、何とか一件落着したらしい。
二人とも、俺のために計画してくれたことには間違いない。
きっとそれを、サラサとエルザは理解してくれたのだろう。
23:00
家に着いた俺は、鶏小屋の中、木の板に紙を広げ、カンテラの明かりで書き物をすることにした。
テーブルの左側には、日頃書き綴った手記。植物やモンスターの鑑定結果や特徴を記した絵。
この世界で収集した様々な情報。伝承記録。星の配置観察。料理について。貴族から目をつけられそうなレシピの類は除外。
それらをランカスタ語の部分だけ抜粋し、スラスラと紙に模写していった。
彼女にプレゼントする、俺の一番好きなものは『本』だった。
女性に対するプレゼントが、自作の本なんてセンスがないと思われるかもしれないが、これが俺の一番好きなものなんだ。
お互いに自分の好きなものをプレゼントするということなのだから、これ以外には考えられない。
そういえば、前に自分の一番好きなものをプレゼントした彼女から「安すぎる」と文句を言われ、一気に冷めたことがあったなと苦笑する。
相手が選んでくれたものに興味があるわけじゃなくて、プレゼントの値段を気にする。
それはつまり、「ああ。この女は俺に興味があるわけじゃないんだな」と思ってしまったのだ。
まあ、こちらの世界では日本のように本が廉価ということはないだろうから、「安すぎる」と文句を言われることもあるまい。
本をサラサの店で見たことがあるが、全て手書きの文字だったし、値段も高かったからな。
ユリナさんがどういう反応を示すか、少しだけ心配だが、女性受けしそうな高価なプレゼントで機嫌をとってまで仲良くなろうとは思わない。
それはプレゼントに興味があるのであって、俺に興味があるわけではないからだ。女性へのプレゼントは、中々に奥が深い。
最後に「ユリナさんへ。ケイゴより」と前書きを書き、紙を皮紐で綴じ本は完成した。
先ほどユリナさんが俺の飲みかけた蒸留酒のボトルをお土産に渡してくれていたので、冷たい水で割って飲む。
冷え込んできているので焚き火にあたりながら、俺は蒼い月をボンヤリと見上げた。
――なぜか夜空が、いつもとは違って見えた。
ユリナさんはどのようなものが一番好きなのだろうか。俺は彼女のことをもっと知りたいと思った。
俺は蒸留酒をもう少しだけチビりとやってから、既に布団で丸くなっているアッシュの頭を撫でた後、布団にもぐりこんで眠りについたのだった。
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