『幸せの嵐があなたを襲う』

やましん(テンパー)

 『幸せの嵐があなたを襲う!』

 エンジェル星人は、母星崩壊後、約70億年にわたって、この宇宙を彷徨ってきたのです。


 新しい住処を求めて。


 そうして、ついに、この『地球』を見出したのでした。


 彼らの科学技術は、ものすごく優れているわけでもありませんでした。


 特に、軍事面はひん弱で、もし、まともに地球人と闘ったら、まず勝てる見込みはなかったでしょう。


 彼らの、唯一、目新しい武器は、『幸せ銃』でした。


 これは、攻撃相手の脳に直接作用し、相手の意識を『幸福』で満たしてしまうのです。


 すると、幸せいっぱいになった相手側は、抗戦意識などは失い、幸福の絶頂の中で、エンジェル星人が望むものすべてを与えたくなるのです。


 しかし、まずもっての問題は、これが得体の知れない、この地球人にも効果があるのかどうか、なのでした。


 *****   *****   *****


 地球側は、それなりに大きな物体が、多数、地球に向かってきているということに気が付くのに、ちょっと手間取りました。


 木星付近を通過する時点くらいで、ようやくおかしいと思い、小惑星帯を抜けたあたりで、やっぱり変だと確信し、火星の近傍で、ようやくただ者ではないと、確信したのです。


 しかし、その多数の物体は、火星の公転軌道上くらいで進行を止めました。


 そもそも、いったい何ものなのか、火星の周囲にいた人工衛星は、観測対象を緊急に変更して、その正体を確かめようとしたのです。


 でも、地球の宇宙科学力も、まだまだ貧弱でした。



  *****   *****   *****


 司令船からは、小型の探索艇が発進しました。


 現在の地球の観測レベルでは、地球の周辺域まで来ないと、発見できないようなくらいの大きさ(小ささ)です。


 彼らは、用心ぶかく地球の軌道に達し、秘かに大気圏内に降りて行きました。



  *****   *****   *****


 エンジェル星人は、長い長い時間の中で、形体的進化を遂げておりました。


 そのスタイルは、まさに日本の仏教画に描かれた、『天女』や笛を吹く『天使』というべきものでした。


 まあ、ありていに言えば、だんだんと、地球人に似て来ていたのであります。


 彼ら、個々の周囲には、いつもあわい光の『光背』が輝いておりました。


 これは、彼らの物理的特徴であったのです。


 彼らは、光の輪でつながった、連続生命体で、『個』は『すべて』であり、『すべて』は、また『個』でもありました。


 『個々』の間隔は、数光年にまで及ぶことも可能で、あいだに何があっても分断はされません。


 ただし、ブラックホールだけは、例外です。


 彼らの連続は、壊れてしまいます。


 この光の連続が及ぶ限り、彼らには、通信機のようなものは必要がありませんでした。


 『個』は、破壊が可能ですが、意味はあまりありません。


 先遣隊として地球に潜入した『個』は5つでした。


  *****   *****   *****



 彼らは、宇宙艇を湖に隠し、それから、ある大都会に潜入しました。


 彼らの目的は一つだけで、『幸せ銃』が効くかどうか、その効果を見る、という事でした。


 そこで、適当な『実験集団』を確保するために、ある『ファミレス』に入りました。


 『個々』は怪しまれないように、地球人の可視領域外の姿になっていました。


『ここは、なんらかの対価を払って、食料を調達している場所と見た。』


『対価とは、なにか?』


『価値があると、彼らが決めた物体である。』


『ほう・・・しかし、こうして見ていると、物質のやり取りがないこともあるようだ。』


『電子のやり取りが行われている。あれが対価につながっているのであろう。』


『われわれにはない概念である。』


『うん。まあ、そうだが。さて、ではここで、まず一回目の放射を行い、その成果を見る。』


『よかろう。』


 彼ら5つの『個』は、銃を取り出した。


 残念ながら、これは地球の人間にも、見えてしまう。


「あれ~~~~、あれなんだろう、浮いてるよ!」


 目ざとい子供が、空間に浮かぶ長方形の小さな箱を見つけた。


「はあ~~~~??」


 と、母親が言った瞬間に、その銃は発射された。



  *****   *****   *****



「ああ、なんという幸せでしょうか!」


 誰かが叫びました。


「あああああ。信じられない。幸せすぎるわ。」


 先ほどの母親が堪えきれずに言いました。


「うん。すごく幸せ!」


 子供も言いました。


「うわお~~~~! もう、料金すべて無料にします!!」


 お店のオーナーが、叫びました。


「ぎょわ~~~! 何でも食べます。何でもします!」


「ありったけ、すべて、調理しよう。町の人に皆で配ろう!!」


「うわ~~~。幸せだ~~~~~!!!」


 お店の中は、もう大事になりました。


 そこで、空間についに、エンジェル星人の姿が浮かび上がりました。


 それから、こう、声がしたのです。


『我がエンジェル星人は、この地球が、ちょっとだけ欲しいのです。くださいますか?』


「うひゃ~~~。あげます。あげます。ちょっとなんて言わないで、もう、すべて差し上げます。全部、持ってってください!!幸せです!!幸せ過ぎで~す~~~!!!すべて、もう、エンジェル星人様のものですう。」



  *****   *****   *****


 同様の事件が、その後、すぐに世界の多くの都市で起こりました。


 地球のそれぞれの国の政府は、どこも、原因が特定できずに混乱しました。


 各国政府抜きで、その人びとは、幸せになっていたのです。  

 


*****   *****   *****


『効果はありましたね。』


『個』の中央部が言いました。


『はい。てきめんでした。いささか、効きすぎのような気がしますが。』


 この時、彼らの宇宙船は、すでに地球の周囲を取り囲んでいたのです。 


『では、『拡散幸せ砲』を、周囲から全地球に向けて発射しましょう。』


『はい。エネルギー充填、150%。いつでもいけます。』


『はいはい。では、発射あ!』



 *****   *****   *****



 こうして、全地球人は、『幸福の嵐』に巻き込まれたのであります。


 幸せでない地球人は、もういません。


 すべての地球人類は、激しい幸福に襲われ、そのとりこと、なったのでした。


 エンジェル星人は、それでも、優しい性格でした。


 地球人を、一気に皆殺しにするなんて発想は、元からありませんでした。

 

 また、そんな武器も持ち合わせては、いませんでした。


 地球人類が、どこかの大陸をひとつ空けてくれれば、それで良かったのです。 


 しかし、国連は、全会一致で、『地球はエンジェル星人のものである。我々は、すべて、すでに、幸福の絶頂である。』と宣言したのです。



  *****   *****   *****


 そうして、核爆弾を持つ国家のリーダーたちは、みなで、決意したのです。


『我々地球人は、最高の幸せの内に、こう、言わせてもらう。時は来た。消え失せよ。地球人類。人類は、幸福の絶頂の中で、この地球をエンジェル星人に、明け渡そう!!』


 地球人類は、エンジェル星人が予想もしていなかった行動に出たのです。


 地球人類には、いざとなると、固く団結するという、すぐれた能力が隠されていたのですから。


 また、彼らは、エンジェル星人が持たない、強力な武器を、すでに多数、持っていたのです。




  *****   *****   *****



 手持ちの使用可能な核弾頭、全てが、地球上で同時に爆発しました。


 地球人は、幸福の絶頂に内に、この宇宙から消え去りました。



  *****   *****   *****


 さらに、ついでに言えば、エンジェル星人も、ふたたび、新しい住処を求めて、この宇宙を彷徨うことと、なりましたそうな。

 

 地球は、当分、住めそうではなくなったから、なのでした。 


 エンジェル星人の地球制服は、こうして、あえなく、失敗したのです。


 その先のことは、なにも伝わっておりません。



                ・・・・・・・・・・・ おわり





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