ギャル最大の危機

 何が起こっているんだ?

 至る所に魔方陣が張り巡らされていた。

 まるで、ウィートの街を取り囲むように。


「おお、雷帝じゃねえか! いいところに来た、な!」

 フィンが、オークを真っ二つに両断する。

 かなりの使い手だったようだ。が、疲労の色は隠せない。


「大盛況だな、フィン」

「ああ。こいつはシャレにならん!」


 一人だけで街の守護なんて無茶だ。遙香たちも加勢する。


「フィンは街に戻って、みんなを守って! ここは、私たちが食い止める!」

「分かった。頼むぞ!」


 フィンは、ウィートの街へと引いていく。


 剣に力を込めて、衝撃波を放つ。

 できるだけ街へ向かおうとする一段相手に。


 しかし、数が多すぎる。


「群れに、あの爆弾を投げて!」

 チョ子に指示を出して、遙香は剣を振った。

 衝撃波を辺り一帯にまき散らす。


 衝撃波により、怪物の団体が灰と化した。


「えええい!」

 チョ子が、手に焦熱の塊を形成し、化け物の団体に投げつける。


 火柱が上がって、魔方陣がかき消えた。

 だが、魔物たちは一向に進撃をやめない。

 魔方陣は消したはずなのに、復活していた。


「あれは、ラッシュの魔方陣だ!」

 エクレールが、魔物たちの発生源を指さす。


 一際巨大な魔方陣が、門の役割を果たしていた。


「ラッシュってなに?」

「敵が無限に湧いてくる状態らしいわ」

 ダイフグを操作して、用語を確認したら出てきた。


「ゲームだと、数を減らしたら収まるの。だけど、メイプリアスじゃ収束する方法が分からない!」


 遙香は知識は豊富でも、解決策までは解明できない。


「トラップだからな。魔方陣を破壊して閉じるんだ」

「爆弾で壊したことならあるけど?」

「それではダメだ。ラッシュの魔方陣は、パズルを解かないと」

 魔方陣の横に、コンソールのような仕掛けが取り付けられている。

 あれを解除できれば、門が閉じるらしい。


「分かった。チョ子、あんたを魔方陣まで誘導する。だから、あんたは全力で、トラップを壊して!」


「がってん! でも絶対に援護をお願いね!」


 真正面から、チョ子が魔方陣へと突進していく。

 エクレールと手分けして、チョ子を狙うモンスターを片っ端から切り刻む。


「チョ子、スピードを落として!」

 遙香が先行し、チョ子の盾に。


 同時に、魔法の矢が盾をめがけて飛来してきた。


「うわあ!」

 爆風で、チョ子と一緒に吹き飛ばされそうになる。

 だが、遙香は踏ん張り、魔方陣へと進む。


「はあ、はあ!」

 魔法攻撃が止む気配がない。シールドもどこまで持つか。


 遙香とチョ子の左後ろから、オレンジ色の光芒が駆け抜けた。

 光の矢が、その場にいた怪物たちを消し飛ばしたのである。


「道を作りました! お二人は早く魔方陣へ!」


 振り返ると、ステッキを前へ突き出したマイの姿があった。

 しかし、脂汗を掻いている。おそらく、全力攻撃だったのだろう。


 マイの開けてくれた道を抜け、ようやく魔方陣へと到達した。

 チョ子に解読をしてもらっている間に、遙香はチョ子の背中を守る。

 

 コンソールを操作されまいと、大量の魔物が、遙香たちに襲いかかってきた。


 エクレールとマイが奮闘し、モンスターを二人に近づけさせない。


 マイは自分の荷物から回復剤を取り出して、がぶ飲みした。

 省エネタイプらしき魔法を次々と繰り出す。


 エクレールは、戦線を縫って虚を突こうとする相手すら見逃さず、蹴散らしていった。


「チョ子、解けそう?」

 盾を構えながら、遙香は後ろに声をかける。

 

 時々、魔法や鉄の矢が飛び交い、盾に突き刺さる。


 チョ子は、コンソールのパズルに奮闘していた。

「もうちょい……よし!」

 鍵が開放された。魔方陣がバランスを失い崩れていく。


 ラッシュの魔方陣が消えた。

 門を閉じることに成功したらしい。


「魔方陣が、もう一つある」

 モンスターたちが、一カ所に集まってきた。

 集団で攻撃が来ると思って、遙香は身構えた。


 が、違うらしい。


 中央に、黒い影が立っている。トプン、と音を立てて、モンスターは次々と、影の体内へ飛び込んでいった。怪物を取り込む度、影は少しずつ大きくなる。


 全てのモンスターを飲み込んだ黒影は、一つ目のデーモンへと姿を変えた。全身には、魔方陣が入れ墨のように描かれている。


 彼らは密集しているのではない。


 合体していたのだ。


「魔方陣が、モンスターと同化した。奴を倒さぬ限り、魔物が生まれ続ける!」

 飛び出すと同時に、エクレールが鞘から刀を抜いた。


 エクレールに狙いを定めたデーモンは、黒い爪を振り下ろす。


 カウンターで、エクレールは爪を容易く弾き飛ばした。

 相手は、彼女が小さいと侮っていたようだ。


 デーモンの身体から、モンスターが湧く。

 マイや他の冒険者たちが蹴散らしてくれている。


 だが、大本をエクレールが倒さない限り、魔物たちの進軍は止められない。


 これが、トップクラス同士による戦いか。


 遙香は、目の前の光景を見て足がすくんだ。


 エクレールにも、疲労の色が見え始める。

 いくら英雄とは言え、力は有限なのだ。


 ここまでなのか……絶望的な状況に、遙香は思わず俯いてしまう。


 そのとき、妙な気配を感じた。

 足下に異様な魔力の塊を察知する。


「チョ子、ドーラのサングラスを!」


「え? この状況でオシャレする気なん?」

 チョ子が、自分の胸元に手を伸ばす。


「いいから!」

 待ちきれずに、チョ子の胸の間から、ドーラのサングラスをひったくった。

 すかさず目に当てた。



 やはりだ。エクレールが戦っているのは、単なる影だ。

 本命は……。


「あそこね!」

 遙香は駆けだした。エクレールの足下に向けて。


「エクレール、後ろに飛んで!」

 遙香の声に呼応して、エクレールがその場から飛び退く。


 同時に、遙香も飛び上がる。剣を逆手に持って。

 

 標的は、モンスターの影だ。


「ええええい!」

 柄を握りこみ、遙香は剣を魔物の影に突き刺した。


 火山の噴火を思わせるほどの激しい断末魔を、デーモンが上げた。

 ドロリと身体が崩れ去る。


 魔力の供給が断たれ、魔物たちがうめき声を出して苦しみだす。


 やがて、全ての魔物が等しく灰になった。


 身体が鉛のように重くなる。

 パラメータを確認すると、膨大な量の経験値が、遙香の身体に流れ込んでいた。


 チョ子にも、同様のレベル上昇が見受けられる。


 死闘を乗り越えたことで、二人のレベルは五〇、もはや、達人冒険者の域だ。


「終わったの?」

「ああ。街は救われた。ありがとうな」

 一瞬、安堵した表情を浮かべたフィン。だが、すぐに口を真一文字に結ぶ。


「フィン?」



「今日より我々は、この街を放棄する」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る