ギャルがヘンピな街で店を開いた結果

 遙香たちが異世界に来て、もう二週間になる。


「なに、これ……」


 街が豹変していた。

 空き家だらけだった街に、店がひしめいていたのである。


 冒険者を対象にした食堂は、相変わらず賑わっていた。

 その隣に、牛丼屋がオープンしているではないか。

「アリアトアシターッ!」

 店員の元気なかけ声に見送られ、冒険者が腹をさすりながら店を出て行く。

 店の中を覗くと、男性客が木製のカウンターにズラリと座って、丼をかき込んでいた。


「牛丼のレシピは、冒険者の酒場に提供したはずなんだけど?」

「大好評で独立させたのよ。もうお客さんが食堂に入りきらなくなっちゃって」


 他の店も回ることに。牛丼屋の隣はうどん屋だ。

 この店も切り離したとか。すぐ食べられる仕組み上、客のサイクルが早すぎるせいだという。


「まいどぉ」

 中年女性の経営するうどん屋は、カウンター席のみの立ち食い形式だ。

 そのためか、異様なサイクルを見せていた。

 元の世界でもここまで繁盛する店があるだろうか。


 店に入ると、エクレールが店主の顔を覗き込む。

「おお、お主は」

「ああ、エクレールさん」

 どうやら、エクレールと知り合いのようだ。


 何者なのかと、エクレールに尋ねる。


「物資採集の遠征中に知り合った。妊娠して引退した冒険者だ。さて、子どもは元気か?」

「はい。おかげさまで。エクレールさんが街まで護衛してくれなかったら、子どもも産めなかったよ」


 注文をして、うどんをいただく。

 麺がやや柔らかい。雑味もある。だが、そこがいい。

 庶民的でむしろ好きな味だ。

 この風味はチェーン店だとお目にかかれない。

 片田舎の知る人ぞ知るうどんを醸し出していた。


 店を出て、別の場所を視察に向かう。


 ロゼットの宿屋では、もはや簡単な食事しか提供していない。

 その代わり、両隣の空き家が料理屋に変貌を遂げていた。

 片方は女性も気軽に入れるカフェに。ここは若い女性や子連れの主婦が利用している。

 もう片方は、大衆食堂と化していた。大工や、近くの鉱山などで働く労働者などが食事をかき込む。弁当も提供しているらしい。


「しゃっしゃっせー!」


 宿の向かいには行列ができている。何かと思ってみてみれば、かき氷屋ではないか。自分たちが発案した、フルーツかき氷のお店である。


 細かく刻まれた氷が、薄い木製のお椀に入っていた。

 使い捨ての器らしい。


「あんたら、見習い魔導師さんたちじゃん?」

 接客を受け持つ子どもたちには見覚えがあった。チョ子の魔法で笑っていた若い魔術師である。


「チョ子師匠、覚えてくれたんスね。感謝ッス」

 彼らは、今まで小バカにしていたチョ子を、師匠呼ばわりした。


「どういう風の吹き回しよ?」


「オレら、もう冒険者やめたんスよ。魔王が怖くて。職に困っていたら、チョ子師匠の考案したデザート屋を建てるって話を聞いて。お菓子って難しいッスねぇ。いかに氷の中に埃やゴミが混ざらないようにするかって細かい調節で、神経使いまくる。でも、チョ子師匠は簡単にやっちまうんだから」


「いやいや、あれは自分が美味しく食べたいからであって」

「それでも凄いッスよ。はいこれ」 


 お詫びと感謝の印として、無料でイチゴ味を振る舞ってくれた。

 氷の上にスライスしたイチゴを載せて、ハチミツをかけたものだ。濃い甘酸っぱさが、ほどよく氷で中和され、スッキリした味わいに変わる。


「めちゃうま! キンキン!」


「ありがとうござッス、師匠!」

 早口で、店員がチョ子に頭を下げる。


「ありがとう。おいしいわ」

「うれしいっス。ハッカ師匠!」

 遙香も師匠なのか。


 宿に戻って、ロゼットから話を聞く。

 ビジネスチャンスを掴もうと、各地から商人がウィートを訪れているという。

 おかげで、空き家だらけだった街並みはすっかり様変わりしていた。


「でもね、一番人気なのは、チョ子ちゃんが作った制服なの!」


 チョ子は、「疲れない制服」を、各店舗に卸している。

 チョ子自身の魔力ステータスを上昇させる訓練が目的だった。

 これが思わぬ反響を呼び、今では着ていない店はない。


「みんな二人のおかげよ。ありがとう」


 これは遙香たちの功績ではない。

 

 これからこの街が成功するかどうかは、商人たちの手に掛かっている。

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