八千年後の覚醒者(やちとせのかくせいしゃ)

辰野 落子

プロローグ

世界崩壊《 メテオ・インパクト》

 約6,600万年前、惑星の衝突により、地球上で最も繁栄していた恐竜の時代は終わりを告げた。星同士の衝突は、天体衝突といわれ、その衝撃波、熱線は地球上のすべてを破壊する。近代文明が発達した現代では、宇宙ゴミや隕石、小惑星程であれば、地球上から核爆弾を打ち込む事で、破壊したり、軌道を逸らす事もできるが、大型の惑星が地球に迫り来れば打つ手がない。

 

 世界を恐怖に陥れ、一世を風靡した有名な予言書の一節に、『空から恐怖の大王が降りてくる』という言葉がある。当時、あまりにも有名になったその言葉は、2100年になった今では、恐怖の対象にも、話題になる事もなく、世の中から完全に忘れ去られていた。


 人々がいつの世も、世界滅亡説を口にする時、心の底では「本当に世界が滅びるなんてことは無い」と思っているのである。


 * * *


 日本、埼玉県に住む29歳の主婦、恭子が、自宅マンション近くの公園で、ベビーカーに赤ん坊を乗せ散歩に出かけていた。ベビーカーに乗っているのは恭子の息子、一樹だ。

 26歳で同じ会社に勤める男性と社内恋愛の末に結婚、その3年後、夫妻にとって待望の子供を授かり、恭子は幸せの絶頂にいた。

 つい先日、離乳食がスタートした一樹を、春の穏やかな空気に触れさせたいと、昼下がりに散歩に出かけていたのである。都心より少し離れたベッドタウン、程よく手入れが行き届いたその公園は、近隣住民の憩いの場であり、地元でも少し有名な花の名所となっている。

 半刻ほど公園を散歩すると、恭子は公園のベンチに座り、ベビーカーの中ですやすやと眠る一樹を見ながら、近いうちにこの公園で遊ぶ息子の姿を想像し微笑んでいた。


 そんな時、恭子はふと空を見上げ、空の異変に気が付いた。

「あれ、天気が悪くなるって言って無かったけど……」

 と、”スマートフォン”を片手に、家を出る前に見ていた天気予報の快晴マークを思い出し、一人呟いた。


 ――瞬間。


 空から赤や青、白などの閃光がパァァッと雲の切れ間から地上に伸び、上空に巨大な黒い浮遊物の様な物体が現れた。

「な、なに!!」

 手で目を覆った次の瞬間、地面が大きく揺れ動き、恭子はベンチから落ち、片手で持っていた”スマートフォン”を落とし、地に両手をついてしまう。

 瞬く間に、巨大な黒い浮遊物は上空、視界を覆いつくす程まで接近し、騒がしく鳴き続けるカラスの鳴き声と、赤ん坊の一樹の泣き声が辺りに響き渡った。

 恭子が上空に広がる光景にただ茫然とし、言い知れない恐怖を感じている中、一筋の光が一樹の乗っていたベビーカーに射した。


「――ッ!!」

 恭子は咄嗟に体を動かし飛びつこうとするが、揺れが続く巨大地震により恭子の手元から離れ、動いてしまったベビーカーには触れる事が出来ず、あと一歩の距離、恭子の目の前でベビーカーは空からの閃光を浴びてしまう。


「一樹ッ――!!」

 ベビーカーに手を伸ばす先、恭子の視界の隅には、空を覆いつくす程の巨大な惑星を捉えていた。

 突如として空から接近した謎の惑星は一瞬にして地球に衝突、凄まじい衝撃、爆音と共に地球上に存在するすべての建物、動物が姿を消した。




* * *



――こうして、世界を滅ぼす恐怖の大王は、何の予兆もなく突然降りかかり、地球の運命も、人知を超える規模の災害には成す術なく、突然に世界の終わりを告げたのである――

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