第9話 ブーゲンビリア

9 ブーゲンビリア


ことしの夏

ブーゲンビリアは

咲かなかった

南国の真紅の花

文学作品でしかしらなかった

情熱の血ふぶきの花


ヨーカ堂のフロントの花屋で

鉢植えの花を妻と選んでいた

ときだね きみとあったのは

来春の市長選にでるから 

よろしく

とあいさつされた


そのきみが 当選の報をきいたのは

臨死の床

そして息をひきとるまでの

百五十秒

にっこり と 笑って 死んだ

と 新聞は報じていた

きみはなにを考えていたのだろう


花を思え 咲かなかった真紅の

ブーゲンビリアを追慕せよ

一秒に一ひら花弁を造形せよ

ヒャクトゴジュウの花弁を

友の墓前に捧げよ


はじめて 友の死にあった

詩人は 死人のように

青い夏を生きています

ことしは冷夏

さむざむとした夏だ

ブーゲンビリアは 咲きません

きみのところでは

どうなんだい……


注 市長当選後、数秒で他界した稲川武君へ。



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