詩の部屋

麻屋与志夫

第1話 いまは亡きリリに捧げる

リリよ


冷凍室をあけると薄緑のアイスノンがある

リリは一晩この人工の氷にひやされていた

リリの硬直したからだ

腐臭がもれないように

ほんとうは

人肌であたためていたかったのだが

かなしくてそれができなかった

週刊誌大の氷のうえで

ひと晩独りぼっちだったのだね

リリ

つめたかったろう

リリ

さびしかったろう


こころぼそかったろう

くやしかったろう

病気にさえならなければ

まだまだ生きていられたのに

たった1年8カ月のいのちだったね


腐敗したっていい

腐臭を部屋に充満させたっていい

氷で冷やしておくなんてこと

しなければよかった

腐って

臭くて

リリのことがイヤニなっていれば

リリの

みにくい容姿をみていたならば――

こんなにかなしまなくてすんだ


リリ リリ リリ

おまえはさいごまで

かわいいかった


あまりにあいらしいので

「リリ カワイイ」

ワタシタチノ言葉に応えて

目を細めて

よく――

くるりとよこになったね


あの

あいらしいすがた

いまでも目にうかぶよ


どうして人間のかんがえから

ぼくらはぬけだせないのだろう

かなしいよ

かなしいよ

氷のうえに置き去りにして

ゴメンよ

ほんとうは

庭の隅に埋めたかった

土葬にして

毎日涙をながして

おまえの上にそそいだら

猫の木の芽が

でたかもしれない

大木になったら

ぼくは

おまえに寄りかかって

まいにち、嘆きの詩を

きかせてやれたのに

おまえは

一握りの

骨と灰になってしまった


2016,5

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る