+ 基本編 +

【大陸記】

[1]世界観概要


 エレナーゼ大陸は、その昔一人の竜族によって造られた世界である。


 光を統べるかの竜は、一つの世界に二つの大陸と無数の島を置き、あまたに散らばる諸要素を六つの属性に分けた。

 そしてそれぞれの元素から六つの種族を造り出したのである。


 炎の力を受けた炎の民・人間族フェルヴァー

 風の力を受けた風の民・翼族ザナリール

 水の力を受けた水の民・鱗族シェルク

 土の力を受けた土の民・獣人族ナーウェア

 光の力を受けた光の民・妖精族セイエス

 闇の力を受けた闇の民・魔族ジェマ



 彼はそれぞれの種族におさを立て、それぞれの種族と属性をつかさどる務めを与えた。

 それがすなわち六種族の王達である。


 炎をつかさどる人間族フェルヴァーの王・ザレンシオ。

 風をつかさどる翼族ザナリールの女王・ウィリルソフィア。

 水をつかさどる鱗族シェルクの女王・ディアレーン。

 土をつかさどる獣人族ナーウェアの王・リーズラジェス。

 光をつかさどる妖精族セイエスの王・ラヴァトゥーン。

 闇をつかさどる魔族ジェマの王・セルシフォード。


 六人の王達はお互いに協約を交わした。

 すなわち共に手を取り合い、協調し、互いの権利を決して侵すことはしないと。

 そうしていつまでも、平和を保って生きていく事を定めた。


 しかし。

 創竜世紀860のその日。

 突然魔族ジェマの王・セルシフォードが独立を宣言した。


 もとより魔族ジェマは、他種族を喰らって力を得ることのできる民である。

 といっても、かの光の竜がそのように造ったわけではない。それは彼らの持つ、闇の力の一端なのだ。


 そのように造られたわけではないから、彼らは別に他種族のものを喰らわなくても生きてゆける。

 しかし彼らには、欲求があった。

 ちょうど肉食動物が、飢えてはいなくても狩りを行なう本能があるのと同じく。


 魔族ジェマの王セルシフォードは、他の王達の同意を得られないとしても、自分たちは協調の盟約から離反し、独立すると宣言した。

 それは宣言であって、すでに彼の中で決定されているものだった。

 無論ほかの王達は反対したが、五人の説得がセルシフォードの決意を動かすことはなかったのである。

 かくして、その日から平和は失われ、殺戮さつりくと戦乱の時代が幕を開けることになる。


 闇の王の真意はいまだに、明らかにはなっていない。

 彼は、魔族ジェマの者たちに、一つの呪いを与えた。


『汝の喰らった命の重さに等しき価を、汝の運命をもって清算せよ』


 よって魔族ジェマの者は、咎められることなく他種族を『狩る』事が許された代わりに、それを行なえば自らの運命の糸――寿命を半分に断ち切られるという呪いを身に負うことになったのである。


 セルシフォードは言う。


『わたしが独立を決定しなかったとしても、いずれ世界の平和は失われただろう。

 ならば、普通に生きて抑え切れぬ欲求を、せめて呪いへの恐れによって耐えることができれば。

 我々魔族ジェマが、他の種族のものとともに生きていく事は、果たして可能なのだろうか……?

 それはわたしは、見届けようと思っている―――』


 かくして物語は始まる。


 幾千もの星たちのうた、それが織りなす歴史という名の流れ。

 願わくばこれらの小さな物語の上に、六王たちの導きがあらんことを―――。




 +++



 シリーズ通しての共通プロローグです。(この頃、戦記モノにしようと話を練ってた名残ですね。)

 この概略された歴史が、エレナーゼ大陸世界に住む者であれば誰でも知っている、共通認識になります。

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