第7話:マルートのギルド異動から1年 仲間が出来ました

「おはようユクト」

「ああ、おはようミラン」


 あれから1年の月日が流れた。

 マルートのギルドは案外素直に、ユクトを受けて入れてくれた。

 どういった内容の紹介状だったのかは教えて貰えなかったが、良いように書かれていたことは明白だ。

 ポーターとしの実績もしっかりと告げられていて、ランクはメントルのギルドに所属していた時と同じFランク。

 見習いのGランクの1つ上だ。

 その後さまざまな依頼をこなしたが、ランクの昇格はまだ行われていない。

 もう少しでEランクにあがれそうなところまでは来ているのだが、決め手にかけているといった状態。

 レベルは3にまで上がったが、まだ魔法の発現もないため未だに自分の職業の特性が分かっていないが、剣の腕は上がっている。


「あー、そろそろアベルを起こしてもらっていい?」

「うん、分かったよ」


 ミランに言われたユクトは、宿の部屋にアベルを起こしに行く。

 マルートのギルドの入り口で再会を果たしたユクトとミランは、ミランがユクトを受付まで案内したり、その後も色々とギルド内のことを教えて貰っているうちに仲良くなっていった。


 ミランと行動を共にするアベルとも、次第に打ち解けた。

 そして2ヶ月の間、臨時でパーティを組んだりもしたのだが。


「なあ、そろそろ本気でパーティの話を考えてくれないか?」

「いや、僕が一緒だと迷惑を掛けることになるし」

「その話は、コーアさんから聞いたよ。結局、ブルートって人が嘘を吐いていたんでしょ?」


 一ヶ月後にこりもせずに、ポーターに手を出したブルートとレートはメントルのギルドにバレて謹慎処分を下されていた。

 細かいトラブルは多かったものの特にギルドは気にしていなかったのだが、品行方正で定評のあるユクトと揉めたことで疑念を抱いたらしい。

 ユクトが日頃の行いって大事だなと、感じた瞬間でもある。

 ギルドで用意した囮のポーターを陥れようとしたところを、尾行していたギルド職員によって取り押さえられたらしい。

 ただランザ殺害の疑いについては、証拠不十分だったため罪に問われないと。

 実際に死体は獣に食い散らかされた状態で発見され、人に殺されたのか獣に殺されたのかの判断も付かない状態だったとか。

 まあ、ブルートたちが手を下した訳じゃないので、これで彼等が処罰されたら冤罪になってしまうわけなのだが。

 

 そんな奴等でも日頃からそれなりの実績があってギルドに貢献していたことで、降格と3ヶ月の奉仕作業、そして3ヶ月の依頼受注禁止の謹慎処分で除名の執行猶予となるらしい。

 無期限執行猶予なので、次に問題を起こしたら、問答無用で除名と冒険者資格永久剥奪の処分が下されるらしいが。


 このことによって、ユクトは元居たメントルのギルドに戻るという選択肢も出て来たのだが、逆恨みをされて手を出される可能性もあるためそのままマルートのギルドに所属することになった。

 職員の対応も悪くなく、他の冒険者も特にユクトを馬鹿にすることも無かったため居心地が良いという理由もあったが。


「それでも、もし街で彼等にあったら……」

「だったら余計に1人で行動するべきじゃないよ。相手は2人でしょ? 3人居たら手も出しづらいんじゃないかな?」

「そうだ、俺達と一緒なら大丈夫だろう」


 冒険者としても真面目に勉強していたため、それなりの知識もあるユクトはアベルとミランに大分頼りにされていた。

 彼等としても、知ってしまったからには知人としてなんとかしてあげたいという思いもあったのだろう。

 結局、熱心な2人の勧誘にほだされてパーティを組むことにしたユクトだった。


 それから、3人で行動を共にするようになって、色々な依頼を受ける事もできた。

 ポーターではなく冒険者として、活動出来る事も嬉しかった。


 いま3人は同じ宿を拠点としている。

 そして、パーティを組んでいるのは3人だけではない。


「ん」

「おはよう、ユクト! アベル! ミラン!」


 遅れてやってきたのは、狼の顔をした全身毛に覆われた獣人族。

 そしてその獣人族に手を引かれている、幼いエルフの子供。


「おはようウル、エルナ」

「おはよう、2人とも」

「おはよう」


 ファイターで狼人族のウルと、精霊魔導士のエルナだ。

 ウルは29歳と、このパーティでは断トツで歳がいっている。

 エルナは見た目は5歳くらいだけど、実年齢は14歳とユクト達と大差ない。

 いま現在、この5人でパーティを組んでいる。

 ウルとエルナがパーティに加わったのは半年前。

 たまたま同じ護衛依頼を受けた時に、エルナがミランに懐いたのがきっかけだ。


 エルナは何故か森に一人でポツンと居るところを、ウルに拾われたらしい。

 すでに冒険者として活動していたウルが、保護を目的にエルナをギルドに連れ帰ったらしいが。

 ギルドに戻ってもウルと離れたがらなかったため、そのまま引き取ることになったと。


「パパ、ちゃんとあいさつしないとめっ!」

「ん……はよ」


 ウルはあまりしゃべらない。

 だから、いつもエルナがそんなウルを注意している。


 宿で朝食を取った5人は、軽く今後の打ち合わせを始める。


「そろそろランクを上げたいから、何か大きな依頼を受けたいと思う」

「ん」

「良いと思うよ」


 一応、リーダーはアベルが務めている。

 年長のウルをという話が出たが、本人が口下手なのと柄じゃないと断って来たので多数決でアベルになった。


 半年の間、ゴブリンを狩ったり、薬草の採取などで生計を立てていたが、宿で寝泊まりするだけで精一杯。

 たまに外食が出来る程度の収入しか得ることが出来ていない。

 その間も装備品などは消耗していくわけで。

 流石にそろそろ、パーティのランクを上げて上の依頼を受けられるようにならないとという危機感も出て来たからだ。


「なので今回は依頼じゃなくて、クエストを受けようと思う」


 クエストというのは、不明確な依頼やダンジョン探索などがそれにあたる。

 ダンジョン踏破や、トラブルの解決などだ。

 トラブルの解決は依頼にあたるのではという見解もある。

 ただ、冒険者ギルドでの依頼というのは、素材の採取や、荷運びなど目的が明確なものをさす。


 クエストとは少しだけ意味合いが変わってくる。

 どちらも成功報酬には変わりないが、成果によって最低保証額から加算されていくこともあるため収入は依頼よりも良いのが普通だ。


「で、候補が3つあるんだけど」


 そういってアベルがテーブルに広げたクエストの写しは3つ。


・ベベルの村で、謎の作物被害。原因の追究と、対処を望む。

 成功報酬:45000エンラ

 

・マシューの村で、神隠し発生。1ヶ月で4人の子供が行方不明。

 原因の解明を。

 生存しているならば子供達の救出。

 そうでなければ、遺品の回収。

 成功報酬:38000エンラ


・ガルフォードの洞窟奥にあるとされる、黒結晶の採取。

 必要量400g

 成功報酬:80000エンラ


「どれが良いと思う?」

「えっ? 私は……」


 取りあえずアベルが、ミランに意見を求める。

 いきなり振られて悩み始めるミラン。

 その間にユクトもクエストに目を通す。


 エルナは訳も分からず、ニコニコと紙を眺めているだけだが。

 そしてテーブルに広げられた紙に、影がさす。


「ん!」


 見るとウルが2枚目の神隠しのクエストを、力強く指さしていた。

 その表情はどこか暗い。

 どうやら、子供達が攫われたかもしれないということで、心を痛めているらしい。

 

「あー……私もそれかな?」

「僕も、それが良いと思う」


 ウルの悲しそうな表情を見たユクトとミランが、慌てて同意する。

 アベルも普段はあまり自己主張しないウルが、珍しく率先して意見を出した事に驚いた様子は見せたものの反対する気はないらしい。


「じゃあ、それにしよう」


 アベルが大きく頷いて、皆を見渡す。

 全員が頷きを返す。

 エルナも意味が分からず皆の真似をして、頷いている。

 そんなエルナの頭をウルが嬉しそうに優しく撫でてやる。


 こうして、5人の初めてのお使いじゃない冒険が始まる。


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