〈アンブレイカブル〉 - 9P 〈好う候〉

 もう間も無くという時間になり、ぼくが右往左往しているとまたもや見覚えのある人物がスターバックスに入るのが見えた。先ほどの券売機で出会った学生だった。この時間に待ち合わせ場所に来たということは、彼は集会の参加メンバーだったのか。


「厭になるな……」

 ぼくは舌打ちした。さっき顔を見られている。あの大学生はぼくと再会した瞬間に恐らく、さっきの券売機で会ったことを口にする。ぼくとしては彼らの議論の内容がわかればよいだけなので、へんに歓迎されるようなことになっては困る。一度顔を合わせている手前、初対面よりも気軽に話しかけられるだろうし、ほかの仲間に「見どころがある」などと紹介されるのも避けたい。


 どうする。よしとくか。そう自問したあたりで、ぼくは意外な光景を目にした。パフォーマーにインストールした望遠アプリで店内を探ると、あの大学生の座るテーブル席に、なんと安藤さんが合流したではないか。これは一体どういうことだ。その後も次々に二十代そこらの男女がテーブル席につく。事前に情報を掴んでいるぼくからすれば、あれこそ〈好う候〉の集会である。それは明らかだ。しかしそのなかに安藤さんの姿があるのはどうしてだろう。彼女は反アバター主義なのか。テクノスポーツの才能に導かれた安藤さんが、情報集合体の社会に不満を感じているとは考えにくい。


 ぼくは意を決してスターバックスの店内に向かった。ぼくの背中を押すのは好奇心だ。興味はふたつ。〈好う候〉の議題であるアバター自殺の方法。もうひとつは同級生が怪しい宗教団体の集まりに参加する理由だ。


「遅れてすみません。黒御影さんの紹介でこちらを教えていただいた、帯刀田一麻です。伊ヶ出高校の一年生です」

 店内に入りテーブルに近づくと、ぼくに気づいた安藤さんが「げっ」という顔をした。ぼくが頭を下げてから自己紹介をすると、さっきの大学生が予想通りのリアクションを見せた。

「きみさ、精算機のトコで会ったよね」

 彼は眞甲斐さんというらしく、岐阜から伊ヶ出大学に通っているという。

「まあ、普段は映画サークルの部室に寝泊まりしてるんだけどね。週末だけだよ、家に帰るのは。よろしく」ぼくらは握手した。


 それからしばらく、眞甲斐さんは好きな映画について語った。ほかの参加者も彼の雑談じみた話に付き合って、にこにこ頷いたり相槌を打ったりしている。それが小一時間ほど続いて、今度は別の参加者が茶道を習っていることを話し、それが終わるとまた別の参加者が付き合っている女性との恋愛について語り始めた。ぼくはきっとへたくそな作り笑いで応じていただろう。みんなにあわせてころころ笑う安藤さんが、時おり生暖かい目でぼくを見ていた。

「さて、それじゃあ今日の議題といくか」眞甲斐さんが云った。

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