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2019/10/12 01:50
エスメラルダにとって病院の中は、見たことの無い世界だった。
彼女の知っている医者のいる診療所は煉瓦作りで、暖炉があり
窓際にはベッドが2つ。(単位調べる)
黄土色の木製の机に椅子、医者の背後に大きな薬棚。
ベッドが足りなくなったときは修道院が使用された。
エスメラルダは診療所が嫌いだった。
そこは人が死んでいく場所で、元気な姿で診療所を出たものはいない。
病院は白が基調とされていて、天井で発光している棒が全体を輝かせ、眩しいほどだ。輪っか状のものもあり、彼女はそれを天使の輪だと言ったら笑われた。廊下は長く、部屋がたくさんあって、大広間もあり、とにかく広い。好奇心の赴くままに散策していると、ある部屋の中がガラス越しに見えた。ベッドを囲んだ人達が沈痛な面もちで、中には泣いている人もいた。神の国でお別れをした人はどこへ行くのだろう? 明日、ジェイコブに聞いてみようと思った。
自室へ戻ると、ベッドに潜り込み、リモコン操作で床を上げて半身を起こす。テレビとDVDデッキにスイッチを入れた。
最初は戸惑ったものの、今は慣れたものだった。
側に山積みになっているディスクの中から一枚抜き取る。銀色の薄い皿のようなディスクは光にかざすと虹色に光って見えた。エスメラルダは再生する前にそれをするのが好きだった。
これはどんな物語なのだろう、昨日は鮫が空を飛ぶ物語を見た。
映画というそれは、ウッドロッドにいた物語の語り部が生むイメージに似ていると思った。
金色の髪に、透き通るような赤い眼をした車椅子に乗った少女。
修道院に子供はもちろん、大人も彼女の話を聴きに訪れる。
高い天井に、語り部の声が反響するのを利用し、強弱をつけられた声は聞き手の頭の中に入り込み、登場人物を描き出す。
彼女の側にはいつも、ネイサンがいた。
エスメラルダは自分も語り部になれないか、と考え本を読んでいた。
雪原で男女が再会する、彼女は自分の境遇と物語を同化させる。
遠く戦地に離れた男が愛する女性に会うために、軍法を犯して戦場を抜け出す冒険譚だ。エスメラルダは最後までそれを見なかった。
彼女の望む展開ではなかったからだ。
映画を観ると、彼女の中で、気持ちが形を変えて、胸の中で暴れ回った。それは悲しかったり、楽しかったり、怖いものだったりしたが、言葉にするのは難しいが、何かを言わずにはいられないものだ。だが、今日観た映画は最悪だった。事前に、そういうものだと知る手だてはないか、と思う。明日、ジェイコブに聞いてみよう。
彼はこの世界の、あらゆる出来事を熟知している。
銃は神の槍では無い事を知った。自分と他人を守る道具で、それを持ち歩くには資格がいるのだと言った。神の石版はスマートフォンというらしい。なんとなく、ネイサンは本当の事を知っていたのだと思う。
彼と会いたいと考えると、さっき観た映画のあるシーンが頭に浮かんだ。恋人を守るために悪漢と戦い、最後は天を仰いで雪原へ倒れる。
エスメラルダは毛布を頭から被って強引に眠りに入った。
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