続き
2019/08/24 17:34
(このシーンは15歳までのエメルとそれからのエメルを
分け隔てるシーン)
精神科医の許可と、マークへの従順さがエメルへの信頼を生んだ。
彼女はこの世界の仕組みを学んでいる最中。
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(怪しい医者だ。精神科医? 聞いた事もない。私は何の怪我もしてないもん)→ルーパートとの関係で印象悪いきっかけになる。
エメルは街の人達はどこへ連れ去られたのだろう、と考えていた。
私があの人達を救い出す。それがエメルが人攫い達と仲良くしている理由だった。マークは優しくしてくれるが、油断はならない。エメルは知っている、彼が街を襲撃した一味の仲間であることを。
まずは、
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エメルは書類に目を通した後、呆然と立ち尽くしていた。
やがて彼女の全身の筋肉がゆるみきったように、だらんとその両手がささがり、手に持っていた資料の束が床に散乱した
膝からゆっくりとくずおれ、力のない目で天井を眺めていた。
エメルの頭の中で、生きてきた15年が何度も何度も繰り返され、それらを否定する資料の詳細なデータが思い出を暗い色で幾重にも塗りたくっていった。だが、それでも思い出は消えずに彼女の中で鮮やかな色を蘇らせていく。
マークが所有している行方不明者のリストに掲載されていた写真に全て見覚えがあった。街の中で確かに交流したはずの人達。名前だってわかる。何のやりとりをしたかも。中央噴水広場を軸に、東にのびる通路の突き当たりにあるパン屋のおばさん。噴水の西側、石畳の通路を挟んだ向かいにある本屋のお姉さん。他にも、他にも、他にも・・・・・・。
心の中で街の存在を正当化するも、それの全てに反論をつきつけられる。15年間過ごした生まれ故郷の正体を知った時、エメルは新しく根をおろしたサンエスペランサの住民が自分に向けていた表情や視線、態度、言葉の裏っかわの意味を理解したのだった。
玄関のドアが開いて誰かがやってくる気配を感じたが
頭の中と心の中にある現実同士がぶつかりあい、反応するどころではなかった。養父のマークがリビングに入ってくる様が目の端に映ったような気がする。エメルの目に映っている思い出の遠くで、すぐ横にいるマークがどこか遠くで叫んでいる。体を暖かいものが力強くつつんだ。
エメルは頭上で輝く陽の光が強いせいだと、手をかざして遮ろうとしたが、何故か体が動かなかった。
鳥の鳴き声で意識が戻り、目がさめた時、サンエスペランサの自室のベッドの上にいた。窓から差し込む光の帯が朝を告げている。
目は覚めたはずなのに、自分がここにいる気がしなかった。
目に入る情報全て、全てがどこか浮ついていて
「果たして自分は一体どこにいるのだろう?」と思っていた。
正体不明の感情が不安に焦燥だと気づくのはもう少し後の事で
しばらくは消えてしまったものを必死に探しては掴んでその実体を感じとろうとする毎日だったが、やがてそれもしなくなった。
今でも故郷は幻影となってエメルの中に存在している。
そこに人とのつながりが確かにあったからだ。
繋がりが断ち切れてしまった親友の憎悪の顔が克明に浮かぶ。
21歳になったエメルはサンエスペランサの住人になっていた。
街は驚くほど静かだった。
ここ最近、連れ去り事件が多発しており、警察の見回りをよく見ていた。マークも私用で出かけるとよく口にする。エメルにはそれがFBIの仕事であることが分かっていた。22時に家を出て、明け方に帰ってくる。
いつも、どこで何をしているのと聞いた事がある。
「女に決まってるだろ? 新しい母さんを近いうちに紹介してやる」
エメルは苦笑いを浮かべて無言で自室にひっこんだ。
女と会っているのは知っているが、エメルもよく知っている彼女は
「母さん」にはなれない。
2019/08/21 01:11
警察がサンエスペランサの22番通りから31番の繁華街へ続く通りを見回っているのは知っている。それが当たり前の風景で、
今日は一人もいないし、パトカーも見あたらない。
予定ではここが一番の鬼門であるはずが、
(何かあったのかな? 好機と見るか、先の心配をすべきか・・・・・・)
目指している 地区はサンエスペランサの中でも最も治安が悪く、地元の警察も滅多に手が出せない場所だ。件の事件で犯人がそこにいるという情報があり、最悪、地域ぐるみの組織犯罪の可能性もあるとのことだ。不法入国者のコミュニティがあり、彼らを相手に引き入れの商売をしている組織も存在する。マークが持っている資料に目を通したことがあり、その内容を思い出しながら慎重に歩を進めた。
溺愛された娘が相手でもFBIに関する情報には警戒を怠らない。
そんな彼から情報を盗み見るのは苦労した。
まだエメルが知らない情報もたくさんある。
2019/08/21 01:25
安全区域から 地区へと真っ直ぐ伸びる二車線の通りがある。
遙か頭上でまぶしいほど、飴色に輝く街灯が、ある地点で突然とぎれており、そこから先は真っ暗で広大な闇の地平線が彼方まで続くように見えたが、目が慣れてくると左右に手入れのされていない の木々が密集した一本の道路の存在が確認できた。昼間の印象もさほど変わらず、陽の光で入り口ははっきり見えるものの、奥は薄いカーテンのような闇がかかりかろうじてうらびれた煉瓦作りの家々が微かに窺えるだけだった。
2019/08/21 01:37
エメルの背後から靴音が鳴った。わざとらしい音で、そこに自分がいるぞ、と知らせているのだった。スニーカーがアスファルトを踏みつける音が近寄るにつれて、イラだちの感情が籠もった大きな音になる。
銃を持っているのに違いない。わざわざ存在を知らせるからには、それなりの用意はしているはず。もしくはエメルが女、それも小柄なカジュアルな格好の女だと怖がらせようとしているのかもしれない。彼女は街灯の明かりに照らされてその姿は遠目にもわかる位置にいた。
(舐めてくれるなら歓迎だが)
エメルは振り返った。鞄のベレッタには手をかけない。
闇の中から真っ直ぐに怒りの沓音を不規則にならして歩いてくる誰かを待った。黒塗りの壁のような影からまずは足、腰が出てきた。
女だった。膝の破れたスキニージーンズと、服の上からもわかるくびれた腰が女であることを告げていた。そして、全身を露わにした彼女は怒りの表情でエメルを睨んでいた。
小さく膨らんだ白いTシャツの上に茶色のジャケットを羽織っていた彼女の顔には見覚えがあった。腕部にFBIの文字。エメルが知っている
彼女は今頃、洒落たニューヨーカーになっていて、舞台の上でピアノを弾いているはずだった。
「FBIでピアノを演奏していたのか? シルヴィア」
「・・・・・・エメル」
2019/08/21 01:58
「メール読んでたよ。嘘で一杯のメールを。返信しただろ?
「何でここにいるわけ?
「二人ともSNSは嫌いだったよな。理由は、それが理由だ」
シルヴィアの表情が一瞬、
「酷い事件だった。その時も、その後も。私が忘れてきたものはあそこに置いたままだ。だからここまで来たんだ」
エメルはシルヴィアに反論の隙を与えないよう、素早く息をつぎ、たたみかけた。
「お前は忘れたいものがあそこにあるから、私に嘘をついてここにいるんだろう? 知ってるよ。
「ピアニストになりたい事に嘘偽りはないわ。ただ、憧れを話してただけ。現実は別。鍵盤の前に座る事が難しいから別の道を探したらこうなってただけ」
「私も現実に沿ったらこうなっただけだ」
「それはルール違反よ。一人で立ち入っていい場所じゃないでしょ」
2019/08/21 02:47
「ああ、妄想の街」
シルヴィアの表情と一言はエメルを可哀想な子へと変貌させた。
エメルの胸の中から胃に嫌な
誰も信用しない、エメルの記憶にある街。
本当の名前で呼んでくれる
シルヴィアの何気ない一言、表情は
「お前に本当の事を言わなくて良かった。
2019/08/21 02:45
2019/08/21 02:35
2019/08/24 16
「手紙だすね」
「メールでいいよ」
エメルは素っ気なく答えた。
「
「私は一生、サンエスペランサにいるんだろうなぁ。
「エメルは強いね」
「なんで?」
シルヴィアが沈黙していた数秒の間、彼女の表情は固定していた。時間が停止し、美しい蝋人形のように見えた。
「ああ、私は大丈夫。マークさんに鍛えられたからね」
シルヴィアとは傷の舐めあいをした事はないが、お互いの過去の事情は間接的に周囲の人間を通して知っている。ただ、シルヴィアは嘘吐きだとエメルは考えている。
シルヴィアはピアニストになるのだと故郷を立った。
まるで戦場に臨む兵士のような面もちで。
だが、ピアニストになるというのは嘘に違いないであろう事をエメルは何となく見抜いていた。エメルもまた、誰にも言えない別の将来設計がある。シルヴィアとは今日で最後の交流になる。
エメルは家路につく途中、シルヴィアとの
例え嘘吐きであれ、彼女のおかげでサンエスペランサが新しい故郷になりえたのだと思う。信頼できる人間の営みのない街など、いくら町並みがうつくしく、国際的な大都市であれどそれは、単なる観光地にすぎない。
家の敷地を縦横無尽に伸びていく舗装路の先に小さな女の子が立っていた。エメルはため息をついた。
(特徴)
かつての自分が、恨めしい目でエメルを見ている。
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