第31話いじけるしかないだろー!?

「ありがとうな、クズキ」

「いいってことよお! 今日は合コンでいい線いってたし、オレ自信がついちゃったなあ」

「なんに使うかわかんねえ筋肉、鍛えててよかったな」

「オレは健康のために体を鍛えてんだ。余計なこと言うな。傷つくだろ」

「へいへい」

 んなこと言って、にやついてやがる。

「今度、ワカコちゃんと富士登山に行くんだ~~」

 登山かよ。

「汗くせえ、青春だな……」

「そして二人で、頂上から雲海の朝日を観る! 絶景かな!」

「ふっ。おまえは単純で良いよな。よ! スポーツマン!」

「むん! むん!」

 クズキは上腕筋を強調したポージング。

 大自然に帰れ、おまえは。

 いつ見ても笑っちゃうやつだ。

「え、ちょっとまて。朝日? って泊りがけか~~?」

「ん? だって富士登山だぞ? 女の子と一緒なら三日か四日はかかるだろ」

「それまでずっと一緒か~~。いいな~~、かわいかったなあ、ワカコちゃん」

「むっふっふ。わかるか。ケイ、おまえにはわたさないぞ……」

「いるかよ」

「ま、そうだな。山男にはほれるなよ~~ワカコちゃんん~~」

「ほれさせるために行くんだろ」

「むひっ。そだよん。飛び散る汗と、血豆の旅なんだよん」

「どこがいいのか、さっぱりわからん」

「こう、じゃりじゃりとした岩肌を登っていくとだな、空気が薄くなる。荒くなる吐息。近づく二人の距離。生まれる絆。これぞ青春だよ!」

 そういってクズキは豪放磊落に笑った。

「ま、とりあえずオレはボッチ決定済みか。オギもサナちゃん先輩とデートって言ってたし……これ、ひょっとして地獄? 明日のパレードはキャンセルしようかな。このまま一人で行っても、面白くなさそう……。しまったな」

 よりにもよって「介護」なんちゃらなんてテーマ掲げて、ロボット部が参加するからって、行くことにしたけども。

 必ずしも、真希奈さんと趣味が合うかどうか、わからないし。

「ん――」

 結構、真面目に考えてたんだけどな。

 どうしてこう、すれ違いが多いんだ。

「こうなるともう、そもそも、彼女とオレと、縁がないのかもしれないな」

「近江先輩か?」

「うん」

「なあに、弱気になってんだ」

「だってさあ……」

 同じ屋根の下にいても! 同じ場の空気を吸っていても! なにかが根本的に違う。

 たぶん、働く意味も違う。

 真希奈さんはお嬢様なんだ。

 たとえるなら、昭和のバブル期みたいな。(まあ、いわゆるファッションとしてしか理解してないけど)

 だから、あんまり感性が合ってないと思う。

 でも、そんな危うい魅力にさえもはまってしまうのだな。

 ……と、夕べ泣きはらしたオレはぼんやり思うのであった。

 さてと、今日もアルバイトに励みますか! このちっちゃい手じゃ、皿洗いもできないけどね~~。ぐすん。

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