第29話おまえら最悪だよ!?
見舞いを装って、サナちゃん先輩とオギに、シューマとやらの病室へ来てもらった。
花を活けてくると言って、持参した花瓶に水をくみに行ったサナちゃん先輩のおかげで、ゆっくりと話が聞けた。
シューマは言った。
「オレが不注意で転びました」
横を向いてはいたけれど、ハッキリとした声で。
「転んだだけじゃないでしょ! 怪力で、その男の馬鹿力で足を……そうなんでしょ」
「……すまない。かあさん、病室から出て行ってくれ」
「んまあ! かわいそうに……かわいそうに、シュウマちゃん!」
「出てってくれ!」
防護服を脱いだシューマは、その横顔にシーツの照り返しを受けて、宇宙人みたいな顔色だった。
「かわいそうな、シューマちゃん」
オレが、彼女の後姿を眺めながらリピートすると、シューマは豹変した。
「オレは悪くないぜ。嘘もついてない」
「あー……そっか」
あのタイミングで否定されると、嘘じゃないかって疑うもんだよな。
わかんないけど。
「だいたい、こけたくらいで、骨なんて折れるの?」
「触るな!」
オレは、用心してシューマの顔色を目でさぐりつつ、吊ってある方の足に触れた。
「痛みますかね」
「シッシッ」
シューマは鼻であしらうようにする。
面白くない。
「怪しいな。骨なんて折れてないんじゃない?」
「あっちへいけ!」
おお、言うな。
オレは受付で名前を書いたサインペンを借りて、やつのギブスに豚の鼻を描いてやった。
せめてもの抵抗、いや明確な嫌がらせだ。
「もう帰れよ」
そうはいうが、こちらの用がすんでない。
「オギ」
こくっと頷いて、オギがギブスに触れた。
シューマはへらっと笑って、
「どうだ。冤罪くらった味は」
やっぱりか。
「やれ、オギ」
もう一度、オギは頷いた。
「オレが払ったのは反対の足だ」
そう言って、オギはシューマのギブスを引きぬいてしまった。
「アイテエ! イテテエ!」
とやつが足を庇っているところへ、メスゴリラが舞い戻ってきた。
「シュウマちゃん!」
「おかあさん、この通りですよ」
「なにをしたの? え? あんたたち、なにを、なにをしてくれたの!?」
シューマ母は早口で唱えると、やつの足をそうっとなでた。
「イテテエ! かあさん、痛いよ」
「そんなはずあるか! おかあさん、今こいつオギの事、冤罪だって言いました」
「言った言わないの問題ですか! これ以上この子を傷つけるなら、示談の話はなしにしてもいいのよ?」
「その前に、本当に骨折してるのか、確かめてくれ」
オギがさっきと反対の足をポンと叩くと、騒いでいたはずみか、シューマは余計に騒ぎ出した。
「イテテエ!」
「どっちなんだよ。骨折したってのは!」
「おかあさん、こちらは出るとこへ出たっていいんですよ?」
問いつめると、医者とグルになって偽の診断書を書かせたのが明らかになった。
つまり、シューマのやつは骨折してようがしてまいが、オレらを陥れるつもりでいたってことだ。
「おい、いい加減にしろよ?」
オギがすごく怒った。
シューマ母はヘルメットをとると、脅えた顔でやつにすりよろうとする。
「ち。おまえがへまやるからだ。どうして面会謝絶って言わないんだよ!」
「ごめんね、シュウマちゃん。ママどうしても相手の子にぎゃふんと言わせたかったの。謝るくらいじゃ、許せなかったの」
「け。金をむしりとるにはかっこうのネタだったのによ」
シューマの怪我はむこうずねを打っただけだった。
内またを払ったオギは無罪放免。
と、腹が立ったので、やつらの防護服の送風機をオギがぶっ壊した。
それくらいトーゼンだ。
……地味な嫌がらせはそれくらいにしてと。
タイミングを見計らって、廊下をうろうろしていたサナちゃん先輩の肩にオギとオレが手を置き、もう済んだから、と言って病院を出てきた。
学園大学病院も最悪さ。
金で適当なでっちあげの片棒担ぐんだものな。
まあ、二度と表に出てこられないように、一連の会話は録音済み。
セオリーだろ?
事情を知ったサナちゃん先輩が、とっかえして花瓶の水をやつらに浴びせてきたのは、ほんのオマケだ。
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