フィジカルとメンタル
莉菜
第1話 はじまる
昼下がりの午後、読んでいる本からふと目をあげると休み時間の教室には僕しかいなかった。こんなことは珍しい。いつもは何人かは教室にいるのに。運動場からは種々多様な声が聞こえてくる。総じて小学生の高い声であるから、とても楽しそうだ。
教室の黒板はきれいにふかれていて、チョークも整頓されている。その上の級訓はすっかり日に焼けて、みすぼらしい肌色になっている。黒板の横に貼ってあった掲示物もほとんどが剥がされ、その日焼けの跡がうっすらと残っている。
今日は3月9日。僕たちの卒業式まであと3日だ。かといってなんの感慨もない。
僕の通う若葉小は割と街中にある。駅まで徒歩5分という好立地だが、ほとんどの人は、登下校で踏切を渡らないといけない。僕はそれが非常に面倒であった。駅に近いせいもあって、ほんのわずかな時間しか踏切が開かないのだ。しかも、最近はやっとましになったものの、やんちゃな低学年の子供を電車や車に轢かれないようにするのはかなり骨が折れた。そのほかにも不満はある。でも僕はそんな毎日でもそれなりに満足していた。
僕はこうして、さざなみの中で何事もなく平穏に、普通に過ごせればそれでいい、そう思っていた。
「梅小花くん!」
どっ…堂守さん…!が、気品のある足音を立てて、教室に駆け込んできた。堂守さんと、僕は、ただの、クラスメイトで、ある。別に、特別な感情を持っているはずもない。いゃ、これについては疑いの余地がある。
「校庭で写真撮ってるからさ、梅小花くんもおいでよ、じゃあね!」
そう言って彼女は颯爽と去って行った。
僕はその後ろ姿を眺めながら、気がつくと、席を立って足は下駄箱の方に進んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます