第66話 スライム君と仲良し過ぎて精神力を消費する

「ぷる!」

「はい! スライム隊長! ついて行きます!」


 相変わらず、ジャングルの悪路あくろは続く。


 しかしながら、足取あしどりはかろやかさ!


 だって、あのスライム君と一緒だもん!


 口先くちさきだけのクリスティーナとは違うし。


『こやつは、分裂体ぶんれつたいじゃろ?』


 このジャングル地帯に足を踏み入れる事を心配して。


 秘密裏ひみつりに潜り込んで来た。


 そうなると。屋敷に残ってるカナさんを一人にしてしまう。それも、心配。


 なので。スライムの特性。分裂さ! これなら、どちらもサポート出来るぞ!


 こんな感じで、現在にいたるとの事。


 なお、スライム君の色が迷彩色めいさいしょくに変化しております。


 この土地に合わせているのかな?


流石さすが、スライム君だぜ! 丸っこいメイドさんも満面の笑みさ!」

「ぷる!」


 今頃、本体のスライム君もメイドさん達を補佐ほさしているだろう。


 ふふふふ。屋敷は安泰あんたい


 何も問題無しさ。


 ちょっと、リナさんがね。情緒不安定にならなければ。うん。


「あれ? リナさんにもげずに来ちゃったの?」

「……ぷる」


 うーん? まあ、大丈夫だよね。いた訳でも。


『……黒メイドの嫉妬しっとかろんじておると。これ以上にスライムが分裂ぶんれつしてしまうかも?』

「ひえっ!? 残虐ざんぎゃくリナさんなの!? スライム君をどうするつもりなの!?」

「ぶるぶる!?」


 その包丁ほうちょうでスライム君を!? それとも、手づかみでハンバーグをこねるみたいに!?


 落ち着け。スライム君にも、嫌なイメージが伝わってしまったじゃないか。


「へ、平気さ。リナさんのご機嫌きげんが悪くても。スライム君の為なら!」

「ぷぎゅー!」


 飛びねながら、むぎゅーをしに来る。


 よしよし。ぽよん具合ぐあい良好りょうこうです。えへへへ!


「カナさんの気分を味わって――ふげえええ!?」

「にゃろう! メジストねえ! ソージ? 何してんの?」


 スライム君を抱えながら。地面にひれ伏す形に。


『この場合は、しりかれるじゃな。文字通り』

「スライム君!? つぶれてないかい!?」

「ぷ、ぷる!」


 自分はアイさんのお尻に背中をやられてるけどね。てへっ!


「……メジスト姉さんにやられっぱなしですか?」

「は? やられてないし! ちゃんと、受け流したぞ!」


 へえ。どこからともなく、ぶっ飛ばされて来たのは事実誤認だと?


「反抗的な目つきだぞ! それに、スライムばっかりに気を取られてさ!」

「リナさんみたいな事を言わないでよ。しょうがないじゃん。スライム君とは、親しい関係だもん」


 友人関係。遊び友達。真っ黒いリナさんに立ち向かう同志どうし


 女性陣とは、扱い方が異なる事が不満なのかな?


「スライムと関わってるソージは、生き生きしてるし。楽しそうな所が、もやっとするぞ!」


 自分の知り合いが、他の人と談笑。


 それも、自分が見たことない姿だったら。


 それは、嫌かな。うん。悪気は無いけどね。


「言いたい事は分かる。でもね、アイさん? こうして、貴方のお尻にやられちゃってる姿に同じく——」

「へえ? 挑発ちょうはつする腕前うでまえだけは、成長したじゃないか? うふふふ! アイ!」


 アイさんとも、それなりに親しい事をさとそうと思ったけれども。


 メジスト姉さんとの訓練中だと言う事を。忘れちゃダメだぞ! あはっ!


「ちょ!? ソージが邪魔をしたんだぞ!?」

「むしろ、アイさんのしりに邪魔されてるんだけど」


 こうして、背中に乗ってる訳だし。


 ほふく前進すら出来ないよ。


「ソー坊ばっかりに気を取られて。やる気あんのかい!」


 バトルアックスの風切り音と同時に。背後の圧迫感が無くなった。


 野良娘とはカナさんが命名したんだよな。納得。


 メジスト姉さんの攻撃を避ける為に。


 身軽に宙返りする様を目撃した感想だ。


「あはっ! 見ただろソージ! 華麗に回避してやったぞ!」


 にししと八重歯やえばを見せながら笑う。得意顔って奴か。


「……一撃目はでしょ?」

「およよ? ぐあっ!?」


 指摘した通り。メジスト姉さんの追撃。強烈な飛び蹴りが顔面に。


「少しは目が覚めたかい? どうにも集中出来てないねえ。らしくないよ、アイ」

「ふぉんなこと、ないひ!」


 鼻を手で押さえながら、抗議している。鼻血かな?


「スライム君、真水まみずアタック!」

「ぷる!」

「ふあ!? あばあばば!?」


 スライム君による水洗浄が。アイさんの鼻をめがけて直撃。


 水圧が強かったかな? 首から上がびしょ濡れに。


「こ、こんにゃろー! あたひがたじろいでる隙に! 日頃のうらみかあ!」

「はいはい。止血しますからね」


【スキル発動 止血 出血を止める。】


 地団駄じたんだむ彼女の鼻頭はながしらに触れる。


 途端に沈黙してしまったぞ?


「良かったじゃないか、アイ? ほら、ソー坊に言う事があるだろ?」

「……ありがとうございます」


 急に、しおらしい態度。カナさんみたいだ。本調子じゃないのかな?


「ウキィー!」

「そうそう、アイさんはこんな感じ!」

「ソージ? 誰がさるみたいだって! ウキャー!」


 さる? モンスター? 思ってた以上に数がいる?



    


  


 


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