第65.6話 リナさんは、取り込み中ですね!?

「カナちゃんは、魂の抜け殻状態。お姉さんのリナさんは?」

「ぷるぷる?」


 いつもどーり、メイドの仕事をこなしています?


 スライムさん、それは表向おもてむきでは?


 ソージ君も無茶をするなあ。


 あの『未開の森』に行くなんて。


 ま、まさか、何も知らずに同行してないよね!? うわわわ!?


 私の精神状態もこんな感じなのだから。


 リナさんも大いに取り乱しているだろう。


 なので、ちょっと様子を確認する為に。


 屋敷内をスライムさんと捜索しています。


「一階には、リナさんは見当たらないですね。……となると」

「ぷるぷる!」


 二階の自室か、ソージ君の部屋? さっそく、確認しに行きましょう!





 よくよく考えてみると。カナちゃんとは、良好な関係にあるけど。


 ……お姉さんとは。うーん、普通ですかね?


 あくまで、ソージ君のメイドなのだから。


 旦那様に尽くす以外、興味が無いのかも。


 カナちゃんとは、正反対。


 一度、ソージ君に聞いた事がある。リナさんとの付き合い方を。


『確かに、カナさんと全く違うイメージかもしれない。でも、姉妹だからさ。似ている部分もあるんだ。最近、それを見つけるのが楽しい。えへへへ!』


 いやいや。上級者の言い分です。


 最後の笑い方は、カナちゃんにそっくりですし。


 むしろ、ソージ君の方がカナちゃんに似てきましたよ!?


「ぷるぷる?」

「……お休みの所を邪魔してしまうかも」


 リナさんの部屋の前に到着。


 ためらっている私に、スライムさんが疑問をていした。


【ぷるぷる!】

「わ!? な、何ですか!? リナさんの部屋の中が、のぞけますよ!?」


 私の頭の上にスライムさんが乗った。同時に、呪文を唱えたらしい。


 効果は――探索系魔法ですか? 透視とうしが出来てます!


「ダンジョンで使えそうな魔法! これなら、宝箱の中身、扉の先の空間まで把握できそうですね!」


 でも、私生活に使用するのは。何となく、犯罪かも。


「どうやら、リナさん自身の部屋にはいないですね。ソージ君の部屋の方向は――」


 部屋の配置をイメージしつつ。意識を集中させる。


「居ました! リナさんです! クモリーと話していますね?」


 クモリーは、蜘蛛くものモンスター。


 今となっては、可愛らしい蜘蛛くもの人形に擬態ぎたいしている。


 ソージ君の思惑通り? リナさんとは相性が良いらしい。


 現に、リナさんが指導している?


『良いですか? むぎゅーには作法があります。単に抱きつけば成立すると思ったら大間違いです!』

『……』


 えっ!? 音声まで聞こえちゃうの!?


 ス、スライムさん、まずいですよ!?


『基本的には、旦那様からの要求があった時。こちらから積極的にむぎゅーをしては、いけません。この場合は、受け止める様に――』


 リナさんによる、むぎゅー講座こうざ!?


 寂しさをまぎらわせる為に。人形に抱きついている様にも見えます!?


『あくまでも、基本ですから! こちらとしても、むぎゅーをしたくなる場合もありますからね! ふふふふ💓 その時は、旦那様と二人きりで――』


 こ、これ以上、盗み聞きするのは、危険です。


 黒リナさんの内情を知る訳には!?


「スライムさん、もう魔法は結構ですよ。な、何やら取り込み中ですから」

「ぷ、ぷ、ぶるっ!?」


 どうしたの? スライムさん? 私の頭上で、振動している?


「あらあら? スラ? わたくしと遊びたいのですか?」

「きゃああ!? て、天井てんじょうにリナさん!?」


 先程までソージ君の部屋に居たはずなのに!? 転移!? クモリーの魔法!?


 まさに、蜘蛛くもですよ!?


 クモリーの背中に乗って、逆さに張り付いています!


 じゅ、重力魔法でも使っているのでしょうか!?


 リナさんのスカートは、逆さまになっていませんし。



「サーヤ? どうしたですか? えへへへ!」

「リ、リナ!? よ、様子を確認しに来ただけで!?」


 こんな時にも、魔法効果の考察をしている場合じゃなかった!?


 無邪気に笑う所は、カナちゃんみたいだけれど!?


 威圧感と闇を感じます!?


「クモリーも、こんにちは!? ぬいぐるみの姿じゃないですね!?」

「……」


 魔法を行使するには、本来の蜘蛛くも形態に戻るのでしょうか?


 大きさも、天井のスペースとリナさんが乗れる事を考慮しています。


 室内ですからね。


 だ、だから!? あれこれ考えてる場合じゃあ!?


「で? 何か見ましたか? 聞きましたか? 感じましたか?」

「ス、スライムさん? あれ? スライムさん!?」


 こつぜんと姿を消したスライムさん。


 に、逃げた!? 私をおとりに!?


「わたくしが、あんな事、こんな事をしていたのを。見た? 見たですか? えへへへ!」

「ぶるぶる!?」


 首を左右に振って、否定する。


 スライムさんみたいな反応をしてしまった。


「サーヤ? 何を悲鳴をあげている――ア、アラクネが屋敷に侵入しましたの!?」

「モ、モッチリーナさん! うわああん!」


 異変を感じたクリスティーナさんを確認すると。


 反射的に、もっちりした体にすがってしまった。


「サーヤ!? 貴方、ソージに似てきたのではなくて!?」

「……あ、サーヤちゃん? わたしも、もっちりする」

「ぷるぷる!」


 うつろな表情のカナちゃん。


 どうやら、スライムさんが皆を呼んだらしい。


「ええい!? 何ですの!? ゾンビみたいに体にむらがるなんて!?」

「……クリス、もっちもっち」

「クリスティーナさん、リナさんが!」

「ぷるぷる!」

「ふふふふ! わたくしを無視するんですか? するんですね!」


 この後、十分にもっちりした。


 けれども。リナさんと死闘を繰り広げるのは、なぜかクリスティーナさん。


 それは、また別の話です。


 


 


 


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