第32話 メイドさん達が魔法騎士団副団長を……して精神力を消費する

「ハーフエルフがなぜこんな場所に? 不愉快だ、存在自体が忌まわしいゴミめ! 死ね!【魂すら氷結せよ! 砕け散れ! フリージングソウルスマッシュ!】


「氷結の上位魔法を、ちんちくりんに!? 逃げろ、死ぬぞ!」

「そ、そんな!? む、無害なメイドさんに!?」


 おっさんと、プレイヤさんが嘆き声を上げてる。


 えーと、ベッドのシーツをかぶって、姿を隠して。


 ハロウィンの幽霊みたいな、いで立ちだが。


 正体を知られると、うぜえからな!


 【スキル発動 ボイスチェンジャー 声色を自在に変化させる】


 【スキル発動 透視 視界がふさがっていても視認できる】


 【スキル発動 魔法吸収 魔法を吸収し、自身の力とする】


「ふん、愚かなハーフエルフだったな。なにやらさえずっていたが」


 まさに、室内が氷山の一角に。急激に気温も低下。


 その中で、冷血騎士様が勝利宣言をしている。


「ご、ごしゅじんさま、わ、わだじ、言いつけをばぼればぜんでじだ! 弱ってる人に、ひ、非道です、えんふぁんすのやろうが! がまんできませんでした! うええええん!」

「見過ごせぬ行為を指摘したまで。……寒いな。部屋が氷漬けだ。我がしもべのスライム! 部屋の氷を吸収し、熱を放出せよ!」


 よくも、カナさんを悲しませたなあ! 


 本気で殺そうとしやがって! 


 はらわたが、煮えたぎってるんじゃい! 


 ぶっ殺す!


『ま、まあまあ、殺意を抑えるのじゃ!? エンファンスごとき、相手にしたらこちらが、むなしいだけじゃぞ?』

「私の魔法が、全く効果なしだと!?……貴様、何者だ」

「あの魔法を無傷でやり過ごしたのかよ……い、いかれてやがるぜ、やっぱり」

「『お掃除旅団』の団長さん。……ここまでの実力でしたか」

「通称『お掃除旅団』の関係者と言っておこう。団長かもしれないし、雑用係かもしれないぞ?……エンファンス殿、プレイヤさんと私が一生懸命治療をほどこした行為を、台無しにしないでもらいたいのだが」


 エンファンスの野郎が逆上していやがるぜえー。


 愉快、愉快。怒ってる顔、意外とそそる!


 だが、タイプじゃないんで。ごめんなさい!


「『お掃除旅団』だと!?……ギルドの小さな依頼を遂行するためだけに。若手の盗賊達を打ち破った、奇行ギルドの関係者か!」

「……いや、メインの依頼を受けていたら。賊どもに襲撃されただけだが?」

「馬鹿言ってんのか? それだけの力を有していながら、初級クエストを引き受ける奴がいるかよ! 上級クエストの方が稼ぎもいいだろうに。ふん!」


 だって、サーヤとクリスティーと初期設定で冒険したかったんだもん! 


 異世界生活をゆっくり味わうのが目的なの!


 そんな、魔王討伐みたいな依頼は、やりたくねーし! 


 スローライフばんざい! アカギのおっさんとは違います!


「わ、私の話題はいいのだ!……で、エンファンス殿? 大人しく引きさがってくれまいか? お礼に、お見舞いのくだものセットを贈呈しよう。味はアカギ騎士も認めているぞ? プレイヤさんもお持ち帰りにどうぞ! フフフフ!」

「い、いいのですか? いただきます。ど、どうも」


 プレイヤさんの神対応。……エンファンスは悪魔対応ですよ!


「ふざけるな。貴様に指図される言われは無い! 魔法騎士団内部の問題だ!」


 聞く耳もたずか。一度決めたら、引き下がらない奴だしな。


 理性的に会話ができない副団長って。組織として終わってるぞ? 


 サーヤの方が適任だな。


「おや? 魔法騎士団は活動自粛ではなかったかな? 都合が悪くなると組織を持ち出すのかね? ならば、被害にあわれたあの娘も同じ魔法騎士団に所属しているのだろう? そうなると、彼女の活動も自粛すべきだろう? 意識が戻っていないのだから、個人的行動は不可能。よって自然と――」

「黙れ! ごたくを並べるのもいい加減にしろ! 私を止めたいのならば、命をとして闘うまで!」


 もう、嫌なんですけど。


 付き合いきれないよ。


 イノセント呼んじゃうかな?


「旦那様、名ばかり副団長などに構わなくても。いえ、ごみくず副団長でしたわね。……こんな方が参謀だと、イノセントという団長様が可愛そうですわ。ふふふふ!」


 リナさん……言っちゃったよ。確実に、殺しに来るよ。


 イノセント信者なんですよ! 神様みたいな存在なの! 


 それを、コケにしたらね。


「ハーフエルフが、イノセント様を侮辱したのか! 殺してやるぞ! 絶対に!【氷の矢よ! 射貫け! アイス――】」


 【スキル発動 魔法使用禁止 対象の魔法使用を禁止する】


「……メイド長、無礼であろう?……ダークオーラも抑えてくれいないか!? エンファンス殿、気を悪くしたなら謝ろう。この通りだ。すまない」

「魔法が、発動しない!? バカな!? ならば直接――」


 【スキル発動 刀狩り 相手の所持している武器を奪う】


「剣を預からせてもらおう。必要無いからな。……さて、どこまで話をしたかな?」

「剣が自動的に!? 返せ、私の所有物に手を触れるな!」


 と、突撃してくるの!? お相撲を取るの!? ごっつぁんです!?


「ご、ご主人さまのお話を聞けえ! スラちゃん、いくよ!」

「邪魔するなあ! ハーフエルフのゴミがあ!」


 ちょ!? ちょ!? カナさん!? スライム君!?


 なにその、カナさんの体にまとってって、戦闘できそうな姿は? 


 スライム格闘家なの!?


 【スキル発動 体の動きを停止させる 指定した者の動きを停止させる】


姉御あねご、見よう見まね格闘術! お腹に、パンチですう! この、クソ野郎があ!」

「な!? 体が動かない!? わ、私が!? ごはあ!?」


 メジスト姉さん……あなたの影響まで受けてしまいました。


 殴られていない、俺でもお腹をガードしそうな迫力。


「あ、あれ? や、やり過ぎましたか? ご主人さま?」

「あ、悪夢を見ているのか!? ちんちくりんがエンファンスを倒しただと!? あ、あり得ねえ。無茶苦茶な人材ばかりなのかよ、ソージ!」

「カナさんはメイドですよ!……いつの間に、あんな技を。……エンファンスの状態は? プレイヤさん?」

「……あばら骨が骨折して、意識を失っています。命に別状はありませんね。ど、どうしましょうね!?」


 俺は、ただ、なだめようとしてたんだ! 説得していましたよ!


「あらあら? ごみくず副団長さん? 床に寝転んで、掃除作業をしていますの? よいっしょ、座り心地最低の椅子ですこと! ふふふふ!……座ってしまいましたわ、うっかり」

「死体蹴りめてよお!? リナさん!?」


 あ、あんた、なにしちゃってるのよ!? 


 こ、殺す気満々じゃねーか!? ダウン攻撃しないで!?


「……粉砕骨折になっちゃいましたね。このままだと命の危険があります。だ、団長さん? も、申し訳ありませんが、治療してくれませんか?」

「……はい、します。しますよおー!」

 

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