リキ ―もう一度、君の声を聴かせて―/ユニモン
魔法のiらんど文庫/カクヨム運営公式
プロローグ
気がつけば、いつの間にか私はこの場所に来ていた。
多分電車やバスを乗り継いでやっとここまで辿り着いたんだろうけど、放心状態だったからどうやって移動したのか細かくは覚えていない。
ログハウス独特の木の香り、天窓から漏れる温かな光。
カラカラと微かな音を響かせながら、黒い円形のディスクが回る。
デジタルオーディオが当たり前の現代には馴染みのない、アナログレコード。そこから流れているのは、彼が以前この場所で聴かせてくれた曲だった。
レコードプレーヤーの前に座り込み、雑音の入り交じる音楽に耳を傾ける。
そしてかつての彼の姿を思い出し、目に涙を浮かべていた。
針が飛んだのか、少しだけ音が途切れた。
滲んだ視界にふと飛び込んで来たのは、壁に掛けられた青いギター。
手を伸ばし何げなくギターを取ると、バサバサと何かの崩れる音がした。
何だろうと、視線をそこに移せば ─
それは大量の、B5サイズのノートだった。
ざっと見た感じ、100冊くらいある。
私はギターを床に置くと、そのうちの冊を開いてみた。
ページを、頁ずつパラパラと捲る。
次第に胸が高鳴り、手が震えた。
そして裏表紙まで辿り着いた時には、大粒の涙を流して泣いていた。
私は一人、いつまでも声を上げて泣いた。
涙と鼻水で、もうぐちゃぐちゃだった。
声すら出なくなっても、溢れ出る涙は止まることがなかった。
お願い、リキ。
もう一度、あなたの声を聴かせて。
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