ハロウィン妖怪大戦争!
にゃべ♪
第1話 古寺の妖怪達
ある街外れの裏山に、誰も訪れる事もない古寺が放置されていました。そう言う古寺には昔から妖怪が住み着くのが定番となっています。妖怪が住み着いたから人がいなくなったのか、人がいなくなったから妖怪が住み着いたのか、卵が先か鶏が先か、寺が無人になってずいぶん経つために真相は忘れ去られてしまいました。
とにかくその古寺には妖怪が住み着いているのです。お堂では妖怪達が最近の自分達の状況について愚痴を言い合っていました。
「最近どうも俺等影が薄くないか?」
「だねぇ」
唐傘小僧とひとつ目小僧が話をしていると、そこにろくろ首が口を挟みます。
「近頃は西洋の妖怪ばかりを見る気がするわ」
「実際そうじゃからのう」
子泣きじじいがろくろ首の話に相槌を打ちました。西洋の妖怪は日本の妖怪に比べてカッコよくてオシャレで、何だかイケています。だからこそ現代日本人の知名度も高いのです。子供達の遊ぶゲームでもよく登場しますしね。
メディアの露出度と言うと、最近は日本の妖怪達にも少しばかり風が吹いてきていました。子泣きじじいは続けます。
「とは言え、アニメのおかげで多少話題にも上がるようになっとらんか?」
「アニメで活躍していない仲間は淋しそうにしとるがの」
アニメで有名な子泣きじじいは同じ爺妖怪仲間の山爺にたしなめられます。アニメにも取り上げられないようなマイナー妖怪はその恩恵に預かれません。
こうして話がどんどん暗くなる中、のっぺらぼうが拳を握りしめて強く訴えます。
「そもそも俺らはその土地々々の歴史そのものであったはずだ」
「歴史が失われておる。嘆かわしいのう」
山爺は哀愁を帯びた表情を浮かべ、大きくため息を吐き出しました。このネガティブな空気はお堂全体に広がっていきます。集まっていた大勢の妖怪は次々に今の自分達の境遇を嘆き始めました。
「語られなくなったおばけは消え去るのみ……」
「私、消えるのいやーっ!」
「何とかならんものかのう」
こうしてズーンと暗く静まり返ったお通夜状態のお堂に新たな客がやってきました。その客は場に流れる空気を察して挑発的な言葉を投げかけます。
「お前ら、そんなんで悩んでんのか?」
そこに現れたのはイタズラ好きの子供の化け狐でした。この狐、普段は街の稲荷神社に住んでいるのですが、何かある度に古寺の妖怪達をからかうので、あまりみんなからは好かれていません。
今回もまたイタズラをしに現れたのかと、ひとつ目小僧が警戒します。
「狐が何の用じゃ?」
「オイラがいい事教えてやるぜ。ハロウィンだよ」
子狐はいつも神社で街の様子を観察してるために人間の流行に詳しいのです。なので最近の日本でも浸透してきているハロウィンの事も当然知っていました。
逆に、古寺に集まった妖怪達は最近滅多に人里には現れていません。それもあってハロウィンと言う言葉すら誰も知りませんでした。
「ハロウィン? 何じゃそれは?」
「やっぱハロウィン知らなかったか。お前ら世間を知らなすぎだろ。そりゃ衰退する訳だわ」
「んだとてめぇ!」
ここで短気な赤鬼が子狐の挑発に乗って大声を出します。一瞬で場が騒然としたところ、年の功で子泣きじじいが調停役を買って出ました。
「まぁ待て、ここは狐の話も聞こうじゃないか」
「ハロウィンてのは、まぁ、簡単に言うと西洋の妖怪祭りだよ。10月31日の夜、この世には妖怪が溢れ出るんだ」
子狐の話は流石に妖怪視点なので少し真実とはずれていますが、お堂の妖怪達は素直にそれを信じ込みます。信じた上で赤鬼は更に逆上しました。
「日本の話じゃねーじゃーねーか!」
「だから頭の硬いのはダメなんだ。いいかい、このハロウィン、日本にも浸透してきてるんだぜ。その日の夜は人間がみんな仮装して街に溢れ返るんだ」
初めて聞く話だと言うのもあって、妖怪が溢れ出ると言う話と人間が仮装すると言う話がうまく繋がらず、お堂の妖怪達は混乱します。のっぺらぼうは話の繋がらなさに困って子狐に質問しました。
「何で人間がそんな事を?」
「街に妖怪が溢れるだろ? だから同じ格好をして襲われないようにって言うんだってさ」
最後まで話を聞いた赤鬼は面白くなかったのか、不機嫌そうに憎まれ口を叩きます。
「ケッ、バカバカしい。それが俺達と何の関係があるって言うんだ」
「あれ? 分からない? ハロウィンの日にお前らが大暴れしたらどうなると思う? 一気に名が知れ渡るじゃないか」
赤鬼をからかうように、子狐はハロウィンを利用すべきだと訴えます。その話にお堂の妖怪達は騒然とし始めました。
今までの慣習で妖怪は闇に紛れてこっそりと人を騙すものだという性分が染みついています。古い習わしにとらわれてしまった彼らはこの子狐の案に当然のように反発しました。
「何だと?! 俺達に堂々と街中に出ろって言うのか!」
「ハロウィンならそれが出来るだろ。だって皆妖怪とかの格好をしてるんだぜ? そのまま出ていったってバレやしないよ」
妖怪達の反発もこの子狐の一言で静まり返ります。それからみんなはまだ知らないハロウィンと言う催し物をそれぞれの頭の中で勝手に想像し始めました。
街の人々が妖怪の格好をして溢れ返る光景はとても愉快なものです。段々妖怪達は興奮し始めました。その中でろくろ首が子狐の前にその首を伸ばします。
「ちなみに、そのおばけの格好って言うのはどんな?」
「ああ、ゾンビとかドラキュラとか流行りのアニメのキャラとか……」
子狐の口から出てきた仮装の流行りを聞いた赤鬼は憤慨します。
「日本の妖怪はおらぬのか!」
「流行りじゃないし、見かけないね」
「な、何と……」
日本の妖怪に仮装する人間がいない――その一言に山爺はショックで泡を吹きました。この有様に子狐は落胆します。そうしてすぐに妖怪達に発破をかけました。
「ショック受けてる場合じゃないって! ここで日本妖怪の威厳を示さないと本当に百年後は誰もいなくなってるかもよ」
「くそっ! 冗談じゃない! 分かった、俺はハロウィンで暴れてやる!」
「おっ! いいね!」
子狐の煽りを受けた赤鬼がここで一大決心をします。この話の流れに狐はほくそ笑みました。一度ついたは火は燃え広がるのも早いもの。お堂の妖怪達は次々にハロウィンに参戦する事を宣言し始めます。
「お前がやるなら俺らも行くぜ!」
「おお~!」
気が付くとこの場にいた妖怪全員がハロウィン当日に街に降りる事となっていました。大勢の人間達の前で大暴れする事で、もう一度日本妖怪の知名度を上げるのだと、どんどん現場の士気は高まっていきます。
「日本の妖怪なめんな!」
「討ち入りじゃ! 百鬼夜行じゃぁ~!」
こうして盛り上がった妖怪達は来るべき10月31日に向け、どうやったら一番人間達の印象に残るのかと、綿密に計画を立てていくのでした。
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