もやもや

マフユフミ

第1話

もやもやもやもやとこの胸を巣喰うのは、飲み込んでも飲み込みきれなかった誰かからの無意識の悪意だ。

 

人と人との間にあるもの。

血縁、友情、憎悪、嫌悪、その他もろもろ。

そんないろいろなものを引っくるめて人間関係というのなら、これ以上厄介なモノはない。


だって、人と人との間にしか、愛も憎しみも生まれない。

感情の揺らぎという、なかなか自身でも制御不可能な事態が、人同士では生み出されしまうのだ。


ああ、めんどくさい。

あまりの怠さに、反吐が出そうだ。


ただの憎しみはまだいい。

その激しい感情を抱くのも向けるのも、またそれを向けられるのも、なんというか分かりやすい。


1番厄介なのは、愛だ。

愛してる、人は言うけれど。

愛って何?

好きでもなく、嫌いでもなく、どことなく重みがある好意。

愛してる、は深くて重い。


それでも、愛がまだあたたかで、柔らかな桃色状のときはいいのだ。

愛は時に憎しみに転じ、そうかと思えばその熱量を増し、ぐらぐらグツグツ煮えたぎる。

そんなとき、激しく感情は揺らぎ、劇的な高低差をもって心と体を揺さぶるのだ。


ああ、なんてめんどくさい。


そして、それ以上に厄介なのは、愛が言い訳になることだ。

愛してるから大丈夫。

厳しく見えてもこれは愛だから。


その自信はどこから来るのだろう。


愛は無意識に人を傷つけ人を縛る。

そこに愛があることに甘えて、知らない間に取り返しのつかないような暴言を繰り出したりする。

そんな無意識の悪意が、人の心をズタズタに切り裂いていることも知らず知らず。


受ける側も、強く抵抗することもできない。

だってそれは、愛だから。

それが、無意識下に起こる、愛を言い訳とした暴挙だから。


それでも、受けた傷は消えない。

投げかけられた言葉は、取り消しの効かない攻撃となり胸を刺す。


ねえ、その愛は正しいかい?

あなたの思うその愛は、本当に「愛」だと言えるのかい?


もやもやもやもやとこの胸を巣喰うのは、愛を言い訳とした無意識の悪意だ。

この耳に、この心に、深く刻まれた言葉の数々が、突き刺さって血を流す。


気持ち悪い、気持ち悪い、キモチワルイ。


胸に蠢くもやもやを、抱えきれず、耐えきれず。

どうしても我慢できずに、みっともなく洗面台に吐き出した。

流しに落ちたそのもやもやは、ずんと重い灰色で、哀しい瞳でこちらを見ていた。

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もやもや マフユフミ @winterday

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