〖パラドスフィア物語②〗 フォスター
みゃも
第1話 グレイン技師の遺言
高々と
ある者は、その水を求めて、旅をし。
ある者は、その水を求めて、人を騙し殺し奪い合う。
そして、ある者は……その空しさを知り悟りゆく──。
これは、そんなパーラースワートロームを舞台とした物語の、一つである。
───────────────────
フォスターは悩んでいた。この国を、どの様に攻め取ればよいのかと……。
大国、共和制キルバレス軍二十万の総司令官であり大将軍として派遣され、早2年目。相手国は総人口三万、戦える兵力は精々五千人足らずである。
『負ける筈がない』誰しもがそう思い、疑う者など居なかった。しかし、現実はどうだ……。
この地は、標高八千メートル級の山々に覆われた高冷地で、地平線の向こうにまで続く平原さえも標高差二千メートルの高台に位置する小国だ。
初めは、数万の兵力もあれば十分だろう、と軽く考えていた。が、いざ会戦が始まると。とてもこれでは足りない、と直ぐに判断できた。いや、そもそもそういう次元の問題ではなかったのだ。
数の上で論じれば、たかだか五千人程度の軍勢が相手である。我々、共和制キルバレス軍二十万の相手にもならないだろう。誰しもが、そう考えていた。
にもかかわらず、我々は、二年間もの歳月を掛けても尚、こうして現に攻め落とせずにいる。
それというのも、彼らは小国でありながら、特異で不思議な《魔術》を使う者が多数居て。更には、この地の《精霊》までもが、彼らの味方についていたからだ。
いや、理由はそればかりではない。最大の理由は他にもある。
(魔術だけなら、対処方はある。だが、精霊だけは――これを敵に回しては、この地を攻略する意味がない……)
フォスターは、そのことを思う度に頭を抱えてしまう。
対峙する精霊達は、全部で四体。表情という表情もなく霧の様に突如として現れ、我々の邪魔をする。実体が無いのか、全ての物理的攻撃がすり抜けてしまう。更に、《聖獣シルヴァーフ》という名の背丈六メートルもある毛の無き人狼の様な姿形をした白き獣を精霊たちは操り、命令を下し、我々を襲わせてくる。
その白き獣は、風を自在に操り、その風を《盾》または《刃物》のような武器に変え襲ってくる化け物だ。
その[真空の刃]で、大地をも切り裂かんばかりに攻撃してくる聖獣シルヴァーフに対し、フォスター達軍勢はありとあらゆる兵器を使い対抗してきたが、まるで通用しなかった。
投石機は、その石ごと腕で撥ね除け。弓矢などでは、その白き体にキズ一つ付けることすらできない。倒す術を考え、これまで色々と試してはみたが、結果としてムダに兵を失い指揮も下がる一方だった。
しかも、その白き獣の体の周りには、薄い青白き光が覆い、聖獣を更に堅く守っている。風の盾をかいくぐり抜け、ようやく届いた攻撃は、その青白き光に触れた途端に消滅し、跳ね返される。
まさに、手に負えない相手である。
それだけに、勇猛果敢だった共和制キルバレスの兵士らでさえも、為す術を失い。今となっては、ただただ怯え。あれが現れるだけで、まるでそれが敗走の合図であるかの様に、途端に我先にと逃げ出す者が後を絶たないほどだった。
これでは、戦いにすらならない。
(……とは言え、私は帰還する気など毛頭ないが。というよりも、上の者たちが撤退など受け入れてはくれないだろうというのが正直なところか?)
この大陸で、南北八千キロにも及ぶ最大版図を誇る超大国。事実上、世界最強たる共和制キルバレス軍二十万が、たかだか兵士五千人程度の小国相手に敗走など――あってはならないことだった。この様な事実、許されることではなかった。
ましてや、フォスターはこれまで無敗で戦い抜き共和制キルバレス国内で賞賛を一身に浴び続けてきた、英雄の一人である。
つまりは、共和制キルバレスとしては『これだけの兵力と人事を尽くした』という建前がある。
あの首都キルバレスにある最高評議会が、何一つ得るものも無くこのまま撤退など、認めるとは到底思えないことだった。
事実、フォスターが幾らここでの悲惨な現状を可能な限り正確に報告しても、返ってくる本国軍令部からの指示にまるで変わりは無い。
《攻略に努めよ》
実に、片腹痛い芸の無い返事で、フォスターとしては毎回読む度に苦笑いしか出てこない程だった。時には、破り捨ててしまうことすらある。
噂によれば、『フォスター大将軍の任を解くべきではないか?』という声が最高評議会内で出ているのだと聞く。現状の困難さも理解せず、簡単に言ってくれるものだよ、とフォスターは苦笑した。
(もし私が解任されれば、恐らくこの男が次の大将軍となるのは、目に見えて明らかだ。そうなれば、実に彼らしい強引な用兵戦術で、無策に兵士達を無駄に死地へと追い立て、向かわせるだけのことだろう。
それを考えると、尚更に、私がここで引くわけにはいかないのだ。)
これまで、この地で起きていた出来事を長々と思い耽り、フォスターは改めて会議の場に列する二人の将軍や部隊長たる諸侯らに目を向けた。
この軍団には、彼以外にも二人の英雄将軍と称される両名がいる。ワイゼル将軍とカスタトール将軍だ。
だが……、
(カスタトール将軍は、いざ知らず。この男など、ただ単に数に任せて、攻め立てていただけのことだろうからな……)
フォスターは内心でそう思い、微かに呆れ顔で苦笑う。
「フォスター殿、なにかよい考えが浮かばれましたかな?」
テーブルの右斜め前に座る、締まりのない体つきをしたワイゼル将軍が、上官である筈のフォスターに対し、実にふてぶてしい態度と横柄な言い様でそう聞いてきたのだ。
如何にも、『何か不満でもあるのかね?』とでも言いた気である。
しかし、フォスターはそうした思いを胸に押し込み。溜息混じりにも、落ち着いた口調で返した。
「……いや。ただ今になって、グレイン殿の言葉が急に思い出されましたもので」
フォスターは、これまで経験の中で培ってきた機転を利かし、ワイゼル将軍のそれを交わすことにした。
別にこれを機に、言い争いをしても構わないのだが。現状が只でさえ悪いこの時期に、総指令官である自らが内紛を起こすのは、ただただ無用に自身の評判を悪くするだけのことだろう――と、そう判断したからだ。
「例の、〝この国は手に入れられても、精霊の加護は手に入れられぬ〟ですか? フォスター」
フォスターの隣で座るカスタトール将軍が、そう
実にポイントを突いた言葉を受け、フォスターは思わず微笑み頷いた。
――なんとも気になる言葉だ――
事実、そう感じていたからだ。
「……ああ、その通りだ。カスタトール。流石に君も気付いていたか?」
「あのグレイン技師の言葉を裏付ける様なことが、こうも度々重なり続いてしまえば。この私だって、流石にね」
カスタトール将軍はそう言って、いつものように明るい笑顔を見せ、次に肩を竦め見せている。それに対し、フォスターも同じく肩を竦ませ、困り顔ながらも笑顔で返した。
カスタトール将軍は、戦の采配を前線で行うことよりも、戦略・謀略に長け、実に知恵の回る男であった。今回もそうした彼カスタトール将軍の能力的特性から《参謀》という形で、フォスター大将軍の補佐を務める役割を担ってくれている。
そしてフォスター自身も、そんな彼の能力を素直に高く評価し認めていた。
カスタトール将軍が言う、グレイン技師の言葉とはこういう内容のものだった。
そして時は、会戦が始まる前夜、二年も前にまで遡る――……。
『いいかね。この国の民が扱う不思議で特異な《聖霊の力》は、精霊達の力が宿る、《精霊水》にこそ秘密がある。
だとすれば、だ。その彼らと戦うのは、実に愚かな行為である、とそうは思わんかね?
フォスター将軍。
君ら、キルバレスの者が欲しがる《精霊水》に力を与えているのが、この地の精霊達だとすれば、だ。その精霊達の機嫌を損ねて、それでも彼女たちの協力を得られると本気で思えるのかね?
それは実に、愚かな見識というモノだよ……。
つまりだ。
例え、武力でこの国は手に入れられても、もしかすると《精霊水》の力は、その後――』
『手に入らない――消えてなくなる、と言いたいのですか? グレイン技師』
『いや……それについては、実をいうとこの私も、未だ結論には至っていない所なのでね。ハッキリと言い切れるものではない。
しかし、少なくとも、これだけならば言える』
『それは?』
『我々は、彼らに……いや、彼女らには、恐らく勝てんよ。
まあ、これも単なる私の直感というモノだがね』
『……』
グレイン技師は、最後に肩を竦めながら困り顔で苦笑い、そう答えてくれた──。
その時の会談の場には、フォスターの他にカスタトール将軍参謀やワイゼル将軍も居た。他に数人の副官も同席していた。この時の話など、それから二年も経った今となっては、軍内部で知らない者など居ないほど、有名事実なエピソードとなっている。
そして現状、困ったことに、そのグレイン技師が予言した通りの展開となっていた。
グレイン技師は元々、我々と同胞であり、共和制キルバレスの《科学者会》に所属する元老員の一人であった。
しかし、その時点での彼グレイン技師は、この地の民と共に我々共和制キルバレスに対し、敵対することを決め、行動を起こしている裏切り者であり、謀反人でもある。
そうであったが為、彼の言葉をそのまま鵜呑み出来るような場の雰囲気ではなかった。少なくとも、その当時は。
しかし、今となって、あの時のグレイン技師の言葉は、全てを正直に我々に伝えていたのではないか? と、次第に軍内部で、多くの者がその様に囁き噂話を始めている。
(この件について、やはり、そろそろ再検証を行う必要がありそうだ。)
フォスターは改めてそう思い、思案顔のまま各将軍や諸侯の様子を覗った。
どうやら、今のカスタトール将軍参謀の言葉に対し、多少なりと興味を示している者が少なからず居る。
(これは、いい機会が生まれたのかもしれない。カスタトールには、感謝しなければならなそうだな。)
フォスターはそう思った。
だが、
「ふ……ふあっはっはっはっは! 何を言うか、実にくだらん。馬鹿馬鹿しい限りだわ!
気にすることなど、何もあるまい! そもそも既に精霊達との戦いは始まっておる。今更、どうにもなるまい?
そもそも精霊の加護だあ……? ハン☆ そんなもんは、単なる戯言だ。ハナから期待などしとらんよっ!
ガアーッハッハッハー!!」
(この……単細胞め!)
折角高まり始めていたこの場の雰囲気が、この男の一言によって一気に興ざめてしまった。
フォスターは、呆れ顔と軽蔑めいた表情をワイゼル将軍に対して向け、口を開きかけた。が、
「ワイゼル将軍はもしや、お忘れですか? 我々がこの国へ来た、本来の目的を」
普段から冷静なカスタトール参謀が、今フォスターがまさに言おうとしたことを、先に、やや毒づいた言葉使いでワイゼル将軍に対し言い放っていたのだ。
カスタトール参謀にしては珍しい様子に、この場に集まる諸侯や副官らが驚いた表情を見せ、一触即発になるのではないか、と心配に思う緊張の面持ちを見せている。
フォスターはそれらの様子を眺め、やはり同じ様にカスタトールを心配顔に見つめた。
これは、彼カスタトールの今後の立場を心配してのことだ。
しかし、そんなフォスターの心配など無用とばかりに、当のカスタトール参謀の方はそんなフォスターのことを見つめ返し、肩を竦め見せ、瞬間だけ『大丈夫だから安心をしろ』とでも言いたげに笑顔まで浮かべている。
どうやら彼には彼なりに、何か考えがあるらしい。そんなカスタトール参謀の様子を見て、フォスターも安心感から笑顔に変わる。
一方、それを受けたワイゼル将軍の方は、実に分かり易い不機嫌顔を見せていた。顔を真っ赤に染め、おおよそ怒り心頭といったところかな、あれは?
「──ぬッ!? 『この国の民のみが使える、魔道の《秘密》と《力》を手に入れる』ことであろう……? バカにするなあッ! わかっとるわ! カスタトール!!」
「ああ、それならば話が早い。つまりはその為にも、精霊達を敵に回してはならない──ということについても、御理解・御協力頂けるということでよろしいですね?
ワイゼル将軍」
「ン? それは一体どういう意味だ? カスタトール将軍。言いたいことがあるのなら、もっと分かり易くハッキリと伝え願いたい!」
(この男……本気か? まさかあのグレイン技師の言葉を、もうすっかり忘れているのか?)
見ると、流石のカスタトールもこれには溜息をつき、肩を竦め呆れ顔を見せ、やれやれといった表情を浮かべている。
(おいおい、言うだけ言っておいて、このまま放置するつもりかぁ?)
フォスターは仕方なく、彼カスタトールに代わり口を開くことにする。
「ならば、この私が改めて説明させて頂きます。
……この国特有が持つ《魔導の秘密》。それは、科学者であるグレイン技師の調査研究により、『この地にのみ流れる《精霊水》にこそ秘密がある』と解明されたことを……これについては、既に御存知ですね?」
「らしいな? で、なんだ? その事とコレは、どの様な繋がりがある?」
「いや、どの様も何も……これまで一度も不思議に思ったことはないのですか?」
「不思議……? 何のことだ」
ワイゼル将軍は、どうやらこれからフォスターが説明しようとしている話の意図がまるで理解出来ずに居る。それで、苛立ちを露わにし、精神的圧力をこちらへ加え、フォスターからその回答を引き出し得ようとしているようだ。
実に、呆れた男である。
(わからないならわからないで、素直に聞けば済むものを……。 )
実に子供じみた高慢・高圧的は態度だった。その都度、自分の評価を下げていることすら、彼は気付いていないのだろうか。
(やれやれ……流石のこの私も、自然と眉間に皺が寄り不快感が極限に達するよ。
ここは一戦、口論というのも一興かぁ?)
フォスターがそう思った矢先、「まぁまあ……お二人共、ここは落ち着いて!」と制す者が居た。
見ると、火種を最初に作ったカスタトールの奴がやれやれ顔に溜息をふうと吐いている。
「ワイゼル将軍。僭越ながら、フォスター大将軍の先ほどの言葉について、私の方から説明させて頂きますよ。
《精霊の加護》つまり――この国を武力などで強引に手に入れようものなら。精霊水の力……即ち、精霊の加護を受けた『魔道の源そのもの』が失われ兼ねない――……と、言う事です。
更に言えば、我々の目的である《魔道の秘密》と《力》が手に入らなくなる。
フォスター将軍、これで当たっていますか?」
「ああ、当たりだ」
経緯はともかく、カスタトールは上手いこと噛み砕き教えてやっていた。これで判らなければ、もう手の施しようもない。
幸いにも、流石にそこまでワイゼル将軍も馬鹿ではなかった。
「では、なんだ!? あの小癪な精霊共と戦えば、精霊水は、ただのつまらぬ単なる水になるとでもいいたいのか!?」
「そうなる可能性がある――ということですよ。ワイゼル将軍。
事実、奴らが扱っていた同じ《聖霊兵器》を我らが使おうとすると。ただの玩具に変わる。それの説明は、それで付きます。
お解りか?」
フォスターは、真剣な表情でワイゼルに対し、そう言った。
そんなフォスターの隣で、カスタトールは頷き。そこで一言だけポツリと零した。
「今になって、グレイン技師の命が惜しまれますね……」
「き――貴様は、なにが言いたい?」
カスタトールの残念がるその一言に対し、ワイゼル将軍の方は途端に不愉快な表情で反応したのだ。
それを受けるカスタトールの方は、実に冷めた表情だ。
が、それでワイゼルの方は尚更に苛立ち怒りを顕わにしている。
(ホラきたよ。
この男は、どうも自分が気に喰わないことがあると、いつもこの手に出る。ワイゼル将軍のこういう所も、好感の持てないところだ。何事にも強引で、身勝手で、話し合いというものをまるで知らない。相手の話しも、半分しか聞かず。自分に利無きことには、まるで耳を傾けようとしない。後は、自分の感情だけで、全て動く。しかも、問題があれば、直ぐに言い逃れる。高圧的にものを言い、そうして相手を黙らせ、誤魔化そうとさえする。
今のも、まさにそれだ。
それはそうだろう。なにせ、そのグレイン技師の命を奪ったのは、他でもない、ワイゼル将軍。アナタだからな。この後の言い訳が、自然と思い浮かびそうで、それだけでも腹がたつ。)
「あれは裏切り者だ! 当然の処置だッた!! 解明した魔道の力から、我々キルバレスに対抗し得る強力な新兵器まで開発し、ましてや使用するなど、到底許される行為ではないわあ――ッ!!」
ガン☆と机を叩きつけ、ワイゼルは吠えていた。
(ほうら……思った通りだ。予想通りの言い訳をしてきたよ)
ワイゼル将軍が言う通り……確かにグレイン技師は、キルバレスに対抗すべく《聖霊兵器》という新たなモノを開発し。更には、それを国境付近に数体配備し並べ。それまで、戦争のやり方すらも知らず生きてきたこの地の人々に、戦争のやり方を仕込んだ。
これ自体を考えれば、裏切り行為なのは確かだろう。
が、裏切り者である筈のグレイン技師は、軍団統括であり大将軍であったフォスター将軍を単身で訪れ、講和を持ちかけて来たのだ。
……戦争にならぬように、と。礼を尽くして。
フォスターとしても、利少無き戦争は望まないし。共和制キルバレス本国の科学者会が、フォスターに求めたのはあくまでも『この国の民のみが使える、魔道の《秘密》と《力》を手に入れる』それのみであった。
更に、科学者グレイン技師が解明し作り上げた新兵器やその技術を手に入れられることは。決して、損な話しではない。
故に、講和の中身次第では、実に望む所だったのだ。
が、ワイゼル将軍はそれをまるで解さず。愚かにも、一時的な感情に任せ、グレイン技師を部下に捕らえさせ、相手の話もろくに聞かず、自らの手で斬り捨てたのだ。
この事件が、相手国との戦争を決定付けたのは、紛れも無い事実だ。しかも困ったことに、精霊達を怒らせると、精霊水が『ただの水に変わる』恐れすら出ていた。
(これでは、戦い勝ち取る意味が、まるで無い。力も抜ける思いだよ……。
それにだ。兵の苦労を考えれば、無駄な『労』と『死』という二つの犠牲を与えておいて、報われる『利』が少ないでは申し訳がたたない。
が、ワイゼル将軍はそもそもそういう意味・理屈などを必要としない御仁らしい……。何かと精神論を唱え、精神論だけで兵士らに無理を強いる様子も多く、それが私には鼻につく。
それでいて自らは、問題があれば、同じ精神論を盾に言い訳をするだけの話しで。無理とムダが多過ぎる。
これでは彼に従う兵士たちも、堪ったものではないだろう。可愛そうだ。
その問題が自分自身の責任、または損な問題にならなければ、問題にならないとでも思ってるんじゃないのかぁ?
私には、そう思えてならない。
兵士たちの長たる将軍の資質に、些か欠けるのではないか? 少なくとも、私なら、こんな男の下で働きたいと思わない。)
「な~に、勝てば良いのだッ!! さすれば、精霊等も我々の言うことを聞くに決まっておるわッ!」
(愚かな……聞く訳、無いだろう――!)
もはや呆れる他なかった。
やはり、口論にすらならない相手だ。疲れるだけ損というものか。フォスターは、そんな思いで溜息をつく。
それにしても、
(不思議なのは……グレイン技師のほどの御方を、何がそのように駆り立たせたのかだ……)
共和制キルバレスに於いての、科学者である彼グレインの地位は決して低くはなかった。キルバレスの最高評議会議員に対し、意見を申し述べる位の権限を有していたからだ。
元々共和制キルバレスは、科学者カルロスを中心とした彼らが育て造り上げた国と言っても、過言ではなかった。
それ故に、科学者の地位。それも、その代表的立場の一角を担う彼には、特別な権限が与えられていた。
(その彼が何故、キルバレスを……裏切る必要があったのだ?)
フォスターには、『腑に落ちない』という、そんな思いがどうもこの時、根深く感じられていた。
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