魔法薬局(仮)

まるかじり

第1話 プロローグ


人類は古来より、薬に頼ってきた。

それは現代に生きる私たちにも同様である。


「……薬師寺堂……?」

見慣れない看板。

学校帰りに街中で、薬局を探していた私は、その街かどでその店に遭遇した。


へえ。

こんな場所に、薬局なんてあったんだ。

感心したように私は一息つくと、私は古ぼけた扉を開けた。


キィ。

静かな店内は湿り気を帯びた外気とはうって変わって換気が行き届いており、私には快適だった。

ふん、いい感じのお店ね。


薬局独特の匂いが私を安心感で満たす。

整然と並べられた品々を横目に、私は興味津々に目的の物を探す。

なんとなく生理用品の場所を確認した後、私はその場所へたどり着いた。


点眼薬。

まあ、目薬だ。

私はドライアイな上にゲームで目を酷使するため目薬が欠かせない。


「いらっしゃいませ」


ふいに声をかけられ、私はどきりとした。


「あ、どうも」


我ながら間の抜けた返答だとは思ったが、店員さんはそれ以上声をかけては来なかった。

てっきり、「どんなものをお探しですか?」なんて続くのかと思ってたのだが。


あまり考え中に声をかけてほしくない私には、むしろ好都合だった。私は商品棚に集中した。

目の前にはずらりと並んだ目薬たち。どれも馴染みのあるものばかり。

なんとなくにんまりとした私は、ふとその一つに目が留まる。


千里眼。

まあ、目に良さそうな商品名だこと。

ここまでぶっ飛んだ商標にはさすがにお目にかかったことがなかったので、私は興味にかられそれを手に取った。


どれどれ。効能は。

透視。未来予知。遠見。

……は?


私はしばらく固まったが、疑惑よりも内心からふつふつと湧き上がるものを感じていた。

えっと、まじ?

どきどきを抑え込みつつも、半信半疑に期待をしてしまう自分がいる。


そんなばかな、えっと、お値段は?

1000円。点眼薬としては高い部類に入る。

まして学生の身分としては、いささか高級品と言わざるを得ない。


うーん、たぶん誇張なんだろうけど、この効能は……。

一応、規格品であることは確認できたけど、いいのかなこれ。

衝動買いして後悔した記憶は数知れず。今回もそのような結果に終わるのではないか。


キイ。

「ありがとうございましたー」

私は商品袋を手に、その店を後にした。






一応、レシートはもらったが返品できるほどの度胸は私にはない。

まあ、ネタにでもなればいいさ、と自分を慰めつつ、私は家路を急いだ。





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