第15話 きっといつか終わる関係だけど終わるまでは精一杯頑張ろうと思う

 外には以外にも多くの犬耳族の住人がいた

 避難していた人たちだろうな、戦いは終わったから戻ってきたのだろう

 しかしまあ皆俺に興味津々だな

 人気者はつらいぜ、痛っ! おい今石投げた奴誰だ!

 あいつか

 白い体毛の犬耳族が睨んでいた

 小さい体、子供だな

 幼女はこちらに走り込み


「人間!!」


 そう言い放ち俺の前に立ち腹部を殴られた

 あぁ本当に嫌になる、亜人たちの認識はこんな小さい奴にまで及んでいるのかよ

 強くはない、決して痛くはない、だから痛みはきっと別の所から来たものだろう


「やめるんだ、コロン! すみません怪我しませんでしたか」


 そういい幼女を持ち上げ頭を下げたのは白い体毛の犬耳族の男性だった

 幼女の父親か


「いやいい、お前はいいのか、俺を殴らなくて」


「殴る? なぜですか」


 いやなぜと言われてもな

 お前らの態度を見ればこれが普通と思うんだが


「俺は人間だ、お前たちの生きていた場所を奪い取った種族だぞ、憎んでいるんだろう」


「ん~そうですけど、あなたは僕たちを助けてくれたじゃないですか、感謝しているんですよ」


 助けた? 俺がお前を? いつだ


「覚えてないんですか? 2か月前ですよ、人間族に捕まった僕たちを助けてくれたじゃないですか、かっこよかったなぁずばばっと人間族を殺して、ずっとお礼を言いたかったんですよ」


 ありがとうございますと頭を下げ感謝を伝えた

 感謝されているところ悪いんだが全く身に覚えがなかった

 2か月前か......俺ずっと引きこもってたはずなんだけどなぁ

 遠出したのも今回が初めてだ、それに俺自体に戦う力はない

 だとしたら勘違いだろうな、まあ一応誤解は解いておくべきか


「それ、かんちが――」


「そろそろ準備はできたか」


 声がかぶってそれ以上を伝えることができなかった

 老人族長だ、杖を突きながらこちらに歩いてくる

 後ろには当然護衛の二人がいる

 アルネシアも遅れて家から出てきた

 その顔はどこか浮かないように見える 

 心配しているのか? いやないな


「族長! こんにちはです」


 俺の隣にいた白い体毛の犬耳族が老人族長に挨拶をする


「シアンか無事で何よりだ」


「いやいや族長こそ、無事で何よりですよ」


「儂が死んでも何も損はせん」


「何言ってんですか、族長がいたからみんな無事なんですよ」


「ははは、そうか」


 二人は完全に周りを取り残し会話に花を咲かせていた

 そのまま俺の事も忘れてくれないかなぁ


「族長、そろそろいいのでは?」


 灰色の犬耳族護衛Bが族長に耳打ちをしていた


「ん、そうだな、シアン話はまた今度、今はやることがあるのでな」


「そうなのですか、それは残念です、では後程」


「ああ」


 頭を下げ俺の後ろに下がってきた白い体毛の犬耳族は笑顔でこちらを見ていた

 なんだこいつとは思ったが今は別の事で頭がいっぱいだ

 老人族長は俺を見て告げた


「ではやってもらおうか、黒龍の召喚を」


 ついに来てしまったか......

 胃が痛い、緊張で手が震えてきた

 逃げ出したい、という気持ちが頭の中を埋め尽くした

 固めたはずの覚悟は柔らかくすぐにでも崩れ去るようだった

 周りにはたくさんの犬耳族逃げても無駄だ


(挑発しなければ死ぬ可能性もなかったかもな)


「どうした? 顔色が悪いようだが?」

 

 煽るようにこちらを見る老人族長


「ふん、考えるまでもないか」


「ふぅ」


「ひゃあ!」


 突然耳に息を吹きかけられ驚いてしまう


「いつもの調子はどうしたのよ、今のあんたかなり情けないわよ」


 アルネシアだ、いつの間にか後ろに来ていたのだろう

 彼女はにやりと笑っていた


「今はそんな気分じゃない」


 冗談を言えるほどの余裕は今はない

 ここに来て俺は怖くなったんだ

 周りの圧そしてエルフ族とは違い人間族を見るその視線の鋭さ

 体中を刺すように語り掛けてくる


(殺してやる、必ず)

 

 聞こえてくるんだ、誰からとかじゃなくこの場全体から

 身体は言葉を失いまともに動かすこともできない


「でしょうね、見ていたからわかるわよそのぐらい、また勝手に悩んで、勝手に考えて、勝手に行動していたものね、私に内緒でね、それで今こうしてピンチになっている。あんたがここで黒龍を呼べなかったらエルフ族と犬耳族の関係は最悪になるでしょうね、本当に厄介ね」


 何を言っているんだ、訳が分からない

 俺はこの数か月お前たちの事を考えて考えてきたんだぞ

 なのに勝手だと、ふざけるな


「勝手にこの4か月であんたは考えつく限りの試案を村に取り入れた。人間たちが攻めてきてもすぐに壊されないように、そのおかげで村は前よりもずっと良くなった、安心感っていうの? みんな生きる活力も多くなったと思う、今までは人間族に見つからないように生きていたのにね、皆あんたの勝手な行動に感謝してるのよ。」


 嘘つけ、みんな俺を避けていた

 それぐらいの言葉で俺が立ち直れると思うな

 何もわかってない俺の事はなにも知らない


「私はあんたを一人の敵としてみていた、けどすぐにその考えは消えた、あんたは命を懸けてまで私を助けたのよ、最初は疑った、人間族の考えなんて理解できないし理解したくもなかったからね、けどあんたは違った私のほうを見て本当に安心した顔で倒れたのよ、馬鹿じゃないの普通は悔しそうにするものでしょうが、それからあんたの事を知りたくなった」


 何を言うかと思えばそのことか

 あの時はどうかしてただけだいつもの俺なら絶対にしない、冷静じゃなかった

 危険を犯してまですることじゃなかった

 俺はそんなできた人間じゃない


「あんたの事、最初はすごいと思ったわ、あの頭の固い年長者たちを説得して村の在り方を変え始めた、あっという間にみんなあんたを仲間として迎え入れたわ、私も含めてね」


 仲間としてではない使える駒としてでだ

 俺は生きるために情報を与えただけ、それをお前たちが利用しただけだ

 使えなくなったら簡単にお前たちは俺を切り捨てる、わかってるんだそんなこと

 仲間なんてきれいごとぬかしてんじゃねーよ


「私はね、あんたの事、賢い人間だと思っていた、変態でいつもバカばっか言っていたけど何か自分の中に柱を一本持っていてとても強い人間だと思ったわ、まるで言い伝えに残る十の剣ガーディアンみたいにね、でもそうじゃなかった、あんたもできないことはあった、どうにもならないことがあった。でもあんたはあきらめなかった。私はそんなあんたの力になりたい、向き合いたい」


 はは、やめろ、力になりたい助けたい?

 なら今すぐ俺の前から消えてくれ

 これ以上俺の心をかき乱さないでくれ


「あんたは悩みぬいた末に出した作戦を聞かされた時耳を疑ったわ、一人で他種族の交渉に行くってバカじゃないのって思ったわ、人間が一人交渉に言ったって殺されるに決まってるのに、でもあんたは真剣だった、だからこのままにしておけなかったのよ、あの日からちゃんと向き合うって決めたもの放っておけないわ」


 俺が死んだところでお前たちが後悔することは何もないからな

 一人の憎むべき敵が死んだだけだ

 それだったら誰も損しないむしろ得したぐらいだ


「あんたはどうなの、連、一度でも私たちとちゃんと向き合ったの、本当の言葉で本当の気持ちで嘘偽りなくちゃんと向き合ったの」


 なんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ

 この世界に来ても俺の考えは変わらないし変えないつもりだ

 本心で語り合うことなんて絶対にない今も昔も


「私の目を見て連、あなたは一体何をそんなに悩んでいるの、何を苦しんでいるの、何を隠しているの」


 やめろ、それ以上近づくな

 踏み込まないでくれ、勝手に荒らさないでくれ

 もう嫌なんだ、また失うのが、離れていくのが

 俺の手にはもう何も残っていない

 何もないんだ


「安心して、大丈夫、私はここにいるから、だからあんたは自分の勝手を貫き通しなさい! 連、私はあんたの味方だからね!」


「あ......」


 目から雫がつたっていく

 彼女は小さい体で精一杯背伸びをして俺の頭をなでていた

 その瞬間俺の中の何かが崩れ去った

 緊張していたせいで足の力が抜けてしまい両足から崩れ去った

 今俺の目の前にはアルネシアの顔がある

 いつもの顔じゃない子供を見るような優しく穏やかなすべてを包み込むような感じの顔だ

 俺は彼女の顔を見た瞬間抱き着いた


「ちょっと連! 痛いわよ」


 彼女は痛がっていたが頭の中にその言葉は入ってこない

 彼女の温もり触れて俺は涙があふれだした


「仕方ないわね、今日だけよ」


 彼女はため息をつきながらも優しく頭をなで続けた


 

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