第14話 信じてもらうには命を懸ける覚悟が必要だ

 アルネシアに案内され引きずられ俺は犬耳族の族長の家へと向かった

 引きずられている理由だが足を不運な事故で骨折してしまっており自分で歩けないからだ

 族長の家にたどり着くとドアの前には筋肉を自慢してそうな犬耳族がいた

 黒い毛の下には屈強な筋肉が隠れておりおりまさに番犬って感じがする


「連れてきたわ」


 俺を引き連れたアルネシアがそう言うと筋肉は頷き族長の家のドアを開けた

 中に入るとそこには三匹いや三人の犬耳族がいた

 一人は椅子に座っている老人、白くなった髪には少し垂れた耳が生えていた

 彼が族長で間違いないだろう、偉そうだし

 他二人は老人の後ろに控えておりそれぞれ茶色と灰色の犬耳を持っていた

 二人とも族長の護衛だろうな耳をぴくぴくさせてこちらを警戒している

 老人はアルネシアを確認した後、俺を見る、その目には何が映っているのかわからない


「あらためまして、私はエルフ族が族長の娘アルネシア・アルフレッドです」


 アルネシアが頭を下げたのでとりあえず俺も下げておく

 礼儀ってやつだ


「うむ、此度の件、此方のおかげで解決したと聞く、犬耳族族長として礼を言う、それでだ此方達は人間族から奪われた土地を取り返すために我々に協力してほしいとのことだがこれに間違いはないか?」


 老人はアルネシアから目線を離さない

 こいつさっきから絶壁神にむかって失礼だな

 一人だけ偉そうに椅子に座りやがって、俺なんて地面にキスしながらここに来たもんね


「間違いありません、私たちの目的は奪われた土地を取り戻すこと、ですがエルフ族だけではどうにもならないと結論に至り、他の部族の協力を得ようと考え、ここに来ました」


 うんうん、いい調子だね

 カンペ通りですぜ、姉御ォ


「そうか......残念だが犬耳族はその提案に協力できない、此度の例は別のもので頼みたい」


 老人族長が頭を下げ断りをいれた

 まあそうなるよな、もしかしてと思ったがやっぱりか

 そもそも今回の件、作戦通りに事が運ばなかった

 仕方ないか

 今回はあきらめて違う部族の交渉に向かうかぁぁぁぁぁ

 急に首筋を持ち引き上げられた

 首しまってますけどアルネシア様

 急にえりを持ち上げられて目の前までやってくる

 彼女の薄緑色の綺麗な目でみられちょっと照れてしまう

 少し困ったような目だ、これはどうにかしろってことだよな......


「理由を聞いても?」


 とりあえず理由だ、聞いておいて損はない

 そこから状況を変える一手を見つけ出す


「理由......わからぬのか人間」


 その声は低く、呪い殺すような声だった

 理由か、一つか二つか三つか四つは思い当たるけどどれだろう

 1.人間だから

 2.人間だから

 3.人間だから 

 4.人間だから

 人間は敵、この認識は簡単に取り除けるわけがない

 今回は失敗、アルネシアだけではやはりインパクトが弱かった

 信じてもらうというところまでは至らなかった、それだけなのかもしれない

 俺がいなければと、なるだろうな


「まず勘違いを解いておきましょうか、僕は現在アルネシア様の奴隷魔法により彼女の奴隷です」


 右腕を掲げ、アルネシアを見る

 彼女は俺が何をしてほしいのか理解したようだ

 魔力が通り、右腕の甲に紋様が現れた


「知っての通り、奴隷魔法とはこのように主人が魔力を通し命令をすることで身体に紋様が浮かぶのです、奴隷になったものは主人に逆らうこともできず絶対服従、殴り掛かろうとしても、寝首を書こうとしても無駄、できることは主人に許可された内容だけ、自分が許可されたのは、会話、運動、食事、それともう一つ、黒龍を呼び出すこと」


 ちらりと老人族長を見るとじっと睨んでいた

 後ろの二人は黒龍という単語に驚いているようだった

 わかりやすくてこちらとしてはいい


「嘘をつくな、何を言うかと思えば、黒龍を呼び出す? ふざけたことを」


「信じろとは言いませんが、なぜ僕が殺されずここまでの自由を許されているのかを少しばかり考えてもらえると嬉しいです」


 笑顔で答える


「自由、はっ、何を言うかと思えば、今の自分の姿が見えないのか」


 それを言われると痛い

 この見た目は悪かったな

 服はボロボロ、怪我までしてる

 両足骨折でまともに歩けないのに加え少し顔も腫れているからな

 そう思うと奴隷してるなぁ俺、主人にいたぶられ、何もできない俺、売れるか?

 ボロボロのままで来た理由だけど魔力不足で彼女が回復魔法を使えなかっただけなんだけどね


「アルネシア様、一つ頼みたいことが」


「なに」


「よかったら回復魔法を使ってもらえませんか、この見た目ではさすがに僕もいたぶるために連れてきた奴隷にしか見えませんから」


 そろそろ一回ぐらいは使えるだろうと見越して発言する

 何回彼女に殺されかけ回復してもらったか

 俺は彼女の魔力総量、回復速度まで把握しているのだ


「そうね、でも誰が原因でそうなったか忘れたら今度は手も動かせないでしょうね」


 そういい彼女は回復魔法を唱える

 俺は動くようになった両足との再会に感動し、立ち上がる


「では話し合いを再開しますか、一つ、僕はただの奴隷ではないことが分かったと思います、僕は黒龍を使役し命令を下すことができます、例えば、この村を焼き尽くせとかね」


 極悪人モードだ、ここは演技、重要なことだ

 下卑た笑みを浮かべている俺を横から引いた目で見ているアルネシアの事はこの際無視だ


「貴様!!! 族長の前で何たる発言、許されると思っているのか!!」


 後ろに控えていた護衛Aが怒りをあらわにする

 護衛Bは何も言わない、真顔のままだ


「よせ、ならばその発言の真偽を確かめ、それから決めようではないか、これからの関係を」


「と言いますと」


 老人族長はにやりと笑みを浮かべる


「黒龍をここに呼んでもらう他に何かあるか、貴様がそこまで言うのだ証明してもらおうか、まさか嘘ということはないだろう、そうなればどうなるかぐらいわからないわけがなかろう」


 まずいな

 あのじじぃは俺が黒龍の使役者だと思ってはいない

 だからこの発言ができる、本当だったとしても危害を加えることは俺たちにマイナスしかないどのみち向こうのほうが有利というわけだ

 俺がファフニールを呼べなかったらおそらく......


「っ......」


 言葉を途中で飲み込んだ

 ここで何を発言しても意味は何のではないか

 今は呼べないといったところで信じてもらえるわけがない

 どうあがいてもいいわけ臭くなる、それならいっそ賭けた方がいい

 低い確率だがきっと成功させる


「分かりました......」


 覚悟を決める

 何回死にかけてるんだろう俺

 黒龍を呼び出すために俺は踵を返し外に出ようをする

 その間に俺はアルネシアにしか聞こえない声で


「俺が死んでも黒龍は暴れない、安心していい」


 あの時ついた嘘を白状し俺は戦場へと出て行った

 

 

 


 

 


 

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