第8話 この世界、俺の思っていた以上に優しくない

 俺は腰を抜かしたエルフの女に手を差し出す


「大丈夫か?」


「なによあんた、なんで私を助けたの?」


「斬られそうになってたからな、勝手に体が動いたそれだけだ」


「......なによそれ」


「あそこで死なせるのは惜しいとおもったそれだけだ」


「......まあいいわ、一応感謝だけしておくわ、助かったわ」


 悪態をつきながらも礼を言われ少しむずがゆさを感じる


(変に敵対心さえなければ可愛いんだがなぁ)


「何?」


 エルフの女は俺の手を取らず起き上がる


「何でもないです」


「とりあえずあんたをどうするかは後回しよ、今はそれよりやらなくちゃいけないことがある」


 と言い近くに倒れたエルフ達を起こし負傷の状態を確かめ始める

 聞きたいことはあったが今聞くべきではないと判断し俺はぶらぶらとエルフの村を見て回る

 戦闘の中心であった場所では何十人ものエルフが倒れており戦闘の壮絶さが見える


「敵......人間だったよな」


 まさか同種族が敵になるだなんて思わなかった

 正直に言おう、本当は後悔している

 これでも日本人、仲間意識は高いのだ

 合掌しとりあえず弔っておく


「誰だお前?」


 声を掛けられ振り向くと一人こちらに弓を向ける若いエルフの男がいた

 服には血が付着しており戦闘に参加していたのは間違いないだろう

 警戒しているのかその顔には汗が流れていた

 とっさに作り笑いをうかべる


「僕は敵ではありません」


 両手を上げ敵意はないと伝える


「なら答えろ、お前はここで何をしていた」


「生き残りがいないか確かめに来たのです、もしかしたらまだ助かるものもいるかもしれないと思いここに来ました」


「それはどっちのだ」


「もちろんエルフ族のですよ、僕はあなたたちとは協力関係にありますから」


「なるほどお前が......」


 どうやら彼は俺の事を知っているようだ

 なら話は早いですね


「そうですね、なのでその弓を下ろしてくれると助かります」


「それはできない、俺はお前の事を信用していないからな」


 あららこれはまた

 仕方のないことではあるな、ならいいか


「......まあいいでしょう、であなたに聞きたいことがあるのですが」


「なんだ」


「あなたたちにとっての敵について教えてもらえますか?」


 若いエルフの男は? なんでしらないんだみたいな顔をされた

 しってるわけないじゃん、俺まだこの世界に来て二日目だよ? なめてんの? と言えるわけなく教えてくださいとお願いする

 彼は嫌々だったが話してくれた

 どうやら人間から攻撃されているのはエルフ族だけではないらしい

 亜人と呼ばれる人間族とは違う種族が存在しておりエルフ族は亜人に分類されているみたいだ

 亜人族は三百年ほど前に人間族と戦争を始めたらしい

 理由はただ単に増えすぎた人間族が住む土地がないから他の国から領土を奪い取ろうと考えたらしい

 まじかよ人間最低だな

 人間族は最初数の暴力で亜人たちの国を次々と落としていったが、それも長くは続かなかった

 亜人達もそこまで弱くはないということだ

 亜人の国々、十か国が参加し同盟国家 レジスタンスが作られた

 各国々から一人ずつの亜人の実力者を選出し国の代表とした

 彼らは十の剣ガーディアンと呼ばれており一人一人が軍隊を相手できるほどの実力者だったらしい

 彼らのおかげで形勢は逆転、一気に亜人たちのペースになった

 押され始めた人間族は次の手を打ってきた

 魔法と呼ばれた昔の古代技術を研究し復活させたのだ

 これが悪夢の始まりだった

 人間族が復活させた魔法の威力はすさまじく十の剣も無事ではすまなかった。

また状況は反転、亜人たちは押され始めた

 このままではまずいと考えた亜人たちも人間たちを捕まえ魔法の技術を聞き出し、己のものとした

 ここから百年はお互い一歩も引かず魔法合戦が続いた

 そこから百年、人間族は魔法に改良を加え続けてある大魔法を完成させた。

 この魔法のおかげで人間族は亜人族に勝利したという

 その魔法の名前は勇者召喚というらしい

 ゲームかよ! と突っ込みを入れたくなるが我慢する

 勇者召喚は違う世界から勇者と呼ばれる人間族をこの世界に召喚する魔法らしい

 召喚者はこの世界に来た時特別な力をもってやってくる

 一番目の勇者召喚された人間の能力はインフィニティ

 魔力が無限に存在しており魔法が打ち放題というチートな能力だったらしい 

 彼はその能力をふんだんに使い大魔法を連発、ガーディアン達を次々と撃破、まさにチート万歳だな、ちっ

 勇者の活躍により人間族は戦争に勝利、領土を勝ち取り亜人の住むところは獣などが住んでいる森や無人島、荒れ地、沼、火山など過酷な場所に追いやられた

 人間の国々はその後亜人たちを見つけ殺せば金を出すとまで言っているらしい

 このせいで亜人たちは狙われているわけか

 大体の事情は分かったので満足する

 とりあえず気になったのは


(勇者召喚か......)


 実はこれ最近にも行われたらしい

 一瞬俺じゃね? と思ったが勇者召喚で召喚された勇者には体のどこかに紋様が刻まれているらしい

 俺は体のあちこちを見たがそんなものはなかった

 裸にはなってないよ? 当たり前じゃん


(なら俺はなぜこの世界に呼ばれたんだよ......)


 いろいろと言いたいことはある

 なんで俺は何の能力もないのかとか、最初から積みそうな場所から始まったとか

 でも一番言いたいことは一つだけ


(日本に帰りたい......平和でぬくぬくとしたあの場所が結局一番だったってわけだな)



 

 

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