第7話 人間、プライドを捨てたら何とかなるもの
それから数十分経った頃ぐらいか
ドゴォーン
なにやら外から何か大きな音が聞こえてきた
なんだ何かあったのか?
窓がないので外の状況がわからない
「爆発音だったよな......襲撃? いやそう考えるのははやいな」
まあ電子レンジに卵入れてチンしてしまったとかそんなところだろ
気にする必要もない、今はただ返事を待つそれだけだ
「にしても遅いな、暇だな」
特にすることもないのでゴロゴロと床に寝転がる
そんな時だ、部屋に明かりがさしたのは
起き上がり前を見ると先ほど出て行ったエルフの男が汗を流しながらこちらを見ていた
その表情は硬く、嫌な予感がした
「助けてくれ、頼む」
いきなりだった、エルフの男は頭を下げ言った
予感したことは最悪の事態となって俺の前に出てきた
「......? どういうことですか?」
いきなり助けてくれと言われても困るな
俺に戦う力なんてないんだよな
「君は先ほど言っただろう力を貸してくれると、頼む力を貸してくれ」
「つまりは提案を飲むとそういうことなんですね?」
はてさてどうしたものか
とりあえず時間を稼ぐために焦らずゆっくり話す
「ああそうだ、約束は守る、だからここを助けてくれ」
時間がないのかせかすように言ってきた
ということは先ほどの爆発音はやはり襲撃だったのか
「......詳しく聞かせてください」
とりあえず聞いてみるか
状況がわからなければ何もできない
「ああ......、敵の奇襲だ、いきなり魔法を中心部に打ち込まれたようだ、いきなりだったから対応が遅れ押されている」
「魔法ですか、敵の戦力は?」
「見た限りでは30人程度、装備を見るに相当の手練れだ、周りに伏兵もいる子も知れない」
「それは......厄介ですね」
「だから君の力がいる、これ以上仲間を失うわけにはいかない」
真剣な瞳だった、その目には覚悟があった
だが俺にその提案を受けることはできないのは確かな事実だった
なにせ俺は黒龍の使役者ではないからだ
戦力になるどころかここに黒龍を呼ぶことすらできないのだ
正直なところこんなにも早く力を貸してくれと言われるとは思わなかった
情報だけ抜き取りすぐにここを離れるつもりでいたのだが運悪くこんなことになってしまった自分の運の悪さを恨むほかない
それだけに今首を振ることができない状況にまずいと思ってしまう
エルフの男は変わらずこちらを見続ける
このまま黙っておくわけにはいかないよな
(協力できないとでもいったら殺されるか? 可能性はあるか、だが協力するといっても......)
「あ......」
何か言わないといけないのに言葉がでない
早く何か言わないとばれてしまう
「そうか......」
やばい......
何か言わないと気づかれてしまう
だが俺の口から言葉が出ることはなかった
「やはり君もそうなんだね」
とても悲しい顔だった
何を思うのか感じたのかエルフの男はそれ以上何も言わず扉を開けたまま出て行った
「......はは」
下を向く
最悪な気分だった
助けるといったくせに嘘をついた俺自身に対する嫌悪感だ
なんで俺はあそこであんな発言をしたんだ
生きる残るためだったとはいえ後々の事を考えればこの発言は危険性があると気づいていたはずだ
「結局、性格は変わらないってことか」
俺はできないことを発言し相手を期待させ地に落とした
ここは日本じゃない、分かっていたはずなのにな
ここでの発言はすべて自己責任だ
『連はなんで――するの?』
「......責任取るしかないか」
立ち上がり牢屋の扉に思いっきり蹴りつける
「あ、開かないんだが」
想像以上に頑丈だ
「開け! 開け! 開けよ!」
何度も蹴り上げるがびくともしない
「無理か、なら何か開けるものはないか?」
周りを見ると自分の鞄が牢屋の外に開いてあるのに気づく
「こちらに手繰り寄せられるか?」
格子の間から手を伸ばすが拳一つ分足りない
何か引っかけれるものさえあればいいんだが
「ん?」
近くに落ちていたあるものに気付く
「あいつ意外と抜けてるんだな」
床に落ちていたのはエルフの男が持っていたナイフだった
それを拾い鞄を手繰り寄せ中身をあさる
「あった」
鞄から取り出したものをもって再び扉の前に立つ
そして手を伸ばし鍵に手をかけなにやらごそごそし始める
「あ、開いた......ふぅなんとかなったな、こんな物でも持っておくもんだな」
手に持った針金をポケットのしまい込み扉を開け部屋の外にへと足を前に出した
外は酷いありさまだった
俺がいた建物は地面より一メートルぐらい高い場所に作られていた
いわゆる高床式住居というやつだ
その建物が一定間隔で建てられていた、今はその建物には火が放たれており燃えているが
地面に降りると焼ける臭いとともに鉄のようないや、血の匂いが充満していた
それもそのはずだ、地面には数十人のエルフ、それに鎧をまとった者が倒れているのが確認できた
周りは血だらけ地面に倒れているものを確認するとすでに死んでいた
俺は戦っている相手が気になってしまい鎧の兜を外してみた
「うっ......まさかとは思ったが......くっ」
人間だった、頭に耳が生えているわけでもなく耳が長いわけでもない
金髪で顔立ちは欧風だ、開いていた目が妙にリアルで俺は目をそらす
エルフ達が戦っているのは間違いなく人間だ
そんなエルフやら人間があちこち倒れていた
あの男が焦って俺を頼るのも仕方がないと思った
「これは......きついな」
なれない血の匂いで吐きそうになる
だが決めた以上行くしかない
倒れたエルフ達を避け歩き始める
「あれは......」
しばらく歩いていると交戦している音が聞こえたので近づく
そこにいたのは俺をこんな目に合わせたあのエルフの女だ
エルフの女と交戦していたのは銀色の輝きを放つフルプレートに身を包んだ人間、その兜は槍のようなとんがりがついており他のやつとは違うようだ
見た限りあのフルプレートかなり強い、周りには10人ばかりのエルフが倒れ、エルフの女だけが残っているという感じだ
エルフの女も押されているのか体中傷だらけだ
両者の動きを見れば決着は目に見えていた
フルプレートは剣を構え走りこむ
エルフの女は何やら口ずさむ、すると女も周りから炎でできた球が現れフルプレートに向けて飛んで行った
だがフルプレートは動揺することもなくそれを剣で切り裂いた
そして追撃をかけるために踏み込み距離を縮め剣をふるった
エルフの女はそれをぎりぎりでかわすが体のバランスを崩しその場に倒れた
このままいけば殺される
だから俺の体は勝手に動いた
別にエルフの女を守るためじゃない
目の前で助けれるはずの命を助けなかったら後々後悔するからだ
剣を上に構えたフルプレートの後ろに回り込み首を絞める
「!? なんだお前!」
フルプレートは声に出し拘束をはがそうとする
その力は想像以上で時間がない
「おい! 早くやれ! もう無理、早く」
エルフの女は動揺している、だがすぐにいつもの顔に戻り何やらつぶやく
熱い、だが耐える
するとフルプレートの力が徐々に弱まりはがそうとした手がだらんとする
最後に後ろを見、俺の姿を確認し驚いたように声に出した
「......何者だぁなぜ亜人の味方をする......貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
フルプレートはそう言い残し倒れた
「はぁはぁはぁ」
フルプレートの死を確認し地に足をつく
何とかなった、という安心感からか力が入らない
「なんで......あんたがここにいるの人間」
エルフの女はこちらをにらみ聞いてくる
「俺はエルフの味方だ」
「それを信じろと? 大概にしてほしいわね」
「なら俺が命を張ってまでお前を助けたことに何の意味があるんだ?」
「こいつがあんたにとって敵だったってことでしょ、ならここで私を助け取り入ろうとする意味も分かる」
地面に倒れたフルプレートを踏みながら言った
「それもそうだな、ならここで俺を殺すか?」
「......ふん、あんたを殺すと厄介なことになるでしょ、だからもう一度牢屋に入れる」
「そうか、でも先に周りに倒れてるエルフの看病が先じゃないか? まだ生きている奴もいるみたいだったぞ」
「言われなくてもわかっているわよ」
エルフの女は悪態をつきながら倒れているエルフに向かってつぶやいた
すると淡い光に包まれ身体の傷が癒えていった、じきに目覚めることだろう
「すごいな、魔法って言うのは」
「なによ今更、使役者なんだからそれぐらい知っているでしょ」
「あ、ああそうだな」
次から次へとエルフを癒す姿をずっと見ていた
「何? さっきからずっと私を見て」
「いや......何でもない」
「おいここにまだいるぞ!」
声が聞こえた、そちらを見ると先ほどのフルプレートと同じものを身に着けたものが五人ほどいた
「一人やられて一人は鎧をはがされているおい戦塵がやられているぞ、あのエルフの女おそらく人質をとったのだろう卑怯な奴め、皆気を引き締めろ、人質にかまっていてはやれるものもやれん、散っていった仲間のためにも各々剣を構えろ! 行くぞ!!」
おいおいそれって俺に人質の価値がないってことかよ
やばいな、周りには治療が終えたばかりのエルフ達を疲労困憊と言った感じのエルフの女が一人どう考えても勝てるわけがない
あれこれ考えてもここから無事にエルフ達を無事のまま生き残る方法は思いつかなかった
フルプレートの人間達は剣を抜き構えこちらに走り出す
エルフの女は魔法を使い目の前に火の壁を作る
「ちっ魔法か、おい消せ」
「はい」
そういうと詠唱を唱え土が炎の壁を覆い消化する
「行くぞ」
一人が踏み込みエルフの女を切りつけるために剣をふるう
何とか回避を続けるが鈍い動きだ
5人相手だすぐに後ろを取られ切りかかられる
エルフの女はそれを避けることができずに血しぶきが上がった
「何で......」
俺は体から流れる自分の血を見ながら思う
「これは助からないな......悪い――」
「ここにいたか、連」
薄れ行く意識の中そんな声が聞こえた
「ん? 怪我をしているのか、どれ治してやろう」
体中の痛みが引いていく不思議な感覚に陥り薄れていった意識は戻される
「......あ、れ生きてる?」
「でなんでここにいるのだ? 連」
「ファフか、ってなんでここにいるの!?」
驚きのあまり声が裏返ってしまう
「なんでって起きたらいなかったから探しに来たまでだ、なにかおかしいことでもあったか?」
「はは、そうか、すまなかったファフニール」
「なぜ謝る?」
「いやいろいろとな......」
「まあいい、でお前をやったのはどっちだ?」
ファフニールが周りを見渡す
エルフの女は腰を抜かしおびえていた
フルプレートの男達は一人は剣を落としまた一人は逃げ出しまた一人は倒れていた理性を保っているのは二人だけだ
「あの鎧の男たちだな」
「そうか、分かった」
その一言の直後、銀色の鎧は溶け肉が焼ける音が聞こえた
見ると前にいた鎧の人間たちは誰一人とて生きてはおらず体が解けすでに人間と判断することはできなくなっていた
「ふむまだいるようだな、少し待ってくれすぐに殺してくる」
そう言い残し飛び立つファフニールをただ見続けていた
その光景を見てしまった俺は恐怖で身を震わせた
やはり俺の時は本気ではなかった、あの炎をくらったら髪が少し燃える程度ですまなかったのだ
最初から本気でなかったのだろう、何の気まぐれかわからないが今はその気まぐれに感謝するほかない
これからは献身的にファフニールに尽くそうと考えるしかないのだった
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