本上さんは今日も可愛い

@Lady_Scarlet

小悪魔登場

 中学一年の春、入学式から一月ほど経ったある日、彼女は僕らの学校へやってきた。


「はじめまして! 本上華蓮(ほんじょうかれん)です。皆、仲良くしてね!」


 溌剌とした声が教室に響き、お辞儀をした彼女のサラサラとしたショートカットの髪がふわっと持ち上がった。


「じゃあ、本上はさんはあそこの席に座ってね」


 担任の三杉静香先生が、僕の隣の席を指差した。


 それは驚くことじゃなかった。だって、その席は昨日日直だった僕が、静香先生に言われて用意した物だったから。


「よろしくね、えーっと…」


 自分の席に腰掛けながら、彼女は僕に微笑みかけた。


 良い匂い! 可愛い! 超可愛いんですけど!


 都会から引っ越してきたという本上さんの笑顔に、思春期真っ盛りの僕は顔が赤くなってないかと心配になりながら、どぎまぎと名乗った。


「うん、よろしくね。山田太郎だよ」


「えっ、本名?」


「当たり前だよ! なんで学校で偽名使うんだよ」


 記入見本などによくありがちな名前だけど、実際に同じ名前の人には会ったことは無い。


「本上さんは教科書が揃ってないから、山田君見せてあげてね」


「そういうことで、一つよろしく、山田君」


 そう言いつつ本上さんは机を寄せながらウインクしてきた。


 やめろ! 思春期の童貞少年を弄ぶな!


「ししし、仕方ないな! 僕、あんまり教科書見ないから、じっくり見てくれて良いよ!」


「いや、君もちゃんと教科書を読みなさい。山田少年」


 小声で返事するつもりが舞い上がりすぎて大きな声を出してしまって静香先生に注意されてしまった。


 恥ずかしい。


 静香先生、山田少年ってチェリーボーイをディスってますよね?


 ガラスのハートがブロークンしますよ?


 その日の授業、というかその後一週間くらい授業の記憶がない。


 授業中の記憶は本上さんのことでいっぱいで、キャパオーバーだったんだ。


 だって、可愛いし、良い匂いするし、目があったら微笑みかけてくれるし!


 いや、分かってるんだ。


 彼女はいつも笑顔で、僕にだけ微笑みかけてくれている訳じゃないって。


 いいじゃないか、ちょっとくらい夢見たって。


 こんな可愛い子にこんなに引っ付いて過ごすなんて、もう一生ないかもしれないし。


 彼女は明るく笑顔を振りまき、釣られて周りも笑顔が溢れた。そんな彼女はあっと言う間にクラスの人気者になった。


 いや、学年中の人気者になった。


 地元じゃないから同小(おなしょう)もいないのに、違うクラスの子ともいつの間にか友達になっていた。


 都会っ子はコミュ力の化け物か!


 彼女は帰国子女で、お医者さんのお父さんがアメリカの大学に留学していたので、小学生の頃はアメリカで育っている。


 そのため英語は先生よりペラペラだ。アメリカンな彼女は、はじめましての挨拶に笑顔で握手してくるんだけど、思春期男子はそれだけでメロメロだ。


 なんなら女子も結構メロメロだ。女子は事ある毎にハグまでされているから仕方ない。


 僕の時だけ握手がなかったことを、根に持ってなどいない。いないったらいない。


 下手したらこの学年で彼女の肌に触れていないのは僕だけかもしれないけど、学年のアイドルとの皮膚接触が羨ましいなんて断じてないのだ。


 そうこうしている間にプールの季節がやってきた。


 うちの学校は田舎なので学校にプールがある。都会は土地が高いからあまりないらしい。


 他の学校はどうか知らないけど、うちの中学は水泳の授業も男女合同。でもプールの真ん中で男女が分けられる。他のクラスと合同で女子は女の先生が、男は男の先生が指導する。


 当然視線をやれば水着姿の女子がいっぱいいる。


 いや、僕は見ないよ? 紳士だから。


 決してガン見した男子が女子から吊し上げられたり、静香先生に叱られたりしていたからとか、まして思春期で恥ずかしくて見れなかった訳じゃないよ? ほんとだよ?


 そんなリスクがあっても男子は皆、本上さんの水着姿に期待していた。女子もなんだか楽しみにしていたみたい。


 でも残念ながらほとんど彼女は参加せずに見学していた。一回だけ参加したらしいんだけど、その日僕は風邪を引いて休んでいた。もちろん、悔しくなんて無い。


 翌日学校に行くと男友達たちが彼女の水着姿について熱く語ってくれた。


 膨らみ始めた胸がエロいとか、ウエストが凄く細いとか、お尻がキュッと上がっていて外人みたいだとか、太ももの付け根の黒子がたまらんとか、やたら詳細に語ってくれたが、当然女子達にサイテー、痴漢、セクハラと散々罵倒される友人たちを尻目に、僕は歯軋りを隠しながら興味ないフリをした。


 そんな僕に本上さんは悪戯っぽい笑顔で、話し掛けてきた。


「タロー君も私の水着姿見たかった?」


 はい、見たかったです。


 はっ! 心の声が漏れるところだった。危ない危ない。


「いやいや、子供の水着姿なんて見ても仕方ないよ。静香先生くらいじゃないとね」


 思春期は背伸びしたくなるものなんです。


「そうなんだ。私、中一にしては胸大きいと思うんだけどなぁ。この前もね、ブラがキツくなってきて大きいサイズに…」


「ストップ! 本上君周りを見なさい」


 自分の胸を掴んでその形を強調する本上さんを慌てて止めた。そういうのは二人きりの時にやってくれ。そんな時ないけど。


 本上さんがキョトンとした顔で周りを見ると、男女関わらず赤い顔をしたクラスメイト達が目を背けた。


「もうっ、えっち!」


 ほんのり頬を染め上目遣いで軽く睨む本上さんの可愛さに、クラスメイト達の顔がさらに赤くなった。ダメだ、こいつらハートを撃ち抜かれてやがる。


 僕が本上さんなら真っ赤になって顔を隠すレベルなのに頬を染める程度なんて、本上さんは凄いなぁと変なところで感心してしまった。


「皆、タロー君を見習ってよ」


 いや、ごめん。恥ずかしがり屋なだけで僕も興味津々です。一部でムッツリーニ山田と呼ばれています。


 本上さんは友達が増えて山田友達が複数になったため、いつしか僕のことをタロー君と呼ぶようになった。


 よくある名字グッジョブ!


 いつか僕もカレンちゃんとか言ってみたい。


「タロー君がどうしても見たかったっていうなら、可哀想だから夏休みに一緒にプールに行ってあげようと思ってたのに。残念だったね、私のビキニが見れなくて」


「どうしても見たいです」


 はっ、ついにパトスと共に本音が迸ってしまった。ムッツリーニ改めオープンスケベ山田です。


「今更だーめ!」


 軽く睨まれてしまった。ありがとうございます。ご褒美ですね。


「じゃあさ、私達と行こうよ!」


 女子達がプールへと誘い出した。


 今、クラスの心が一つになった! 頑張れ!とクラス中の声なきエールが聞こえた。


 この辺りには泳げるところは市民プールしかないのだ。恐らく男子は全員夏休み毎日市民プールに集うだろう。そして偶然を装って声をかけたり、一緒に写真を撮ったりするのだ! なんと破廉恥な! 僕も行くぞ!


「うーん、良いんだけど、男子がいっぱい来そうじゃない?」


 な、何! 僕らの心を読むとは超能力者なのか!?


 女子達がキッと男子を睨む。思春期男子一同は揃って目をそらした。それを見て本上さんは苦笑して言った。


「じゃあ、後日相談ということで」


 相談って、どっちなんだ! 行くのか!? 行くよね!? 行ってくれるよね!?


 ぐぬぬっ!


 そんな悶々とした日々を送っている間に期末試験が終わっていた。


 あれ? いつ試験したの? 記憶にないんだけど。


 記憶になかった答案用紙が返却され始めた。


 僕の手には見覚えのない数学の答案用紙が握られていた。


 42点だって! ぷっ! 誰のだよ? 山田太郎? ムッツリーニ42点だってよ!

って僕じゃん!


 幸い平均点が45点だったので赤点ではない。平均点が45点なんて試験か教え方に問題があると思うの。


「タロー君、何笑ってるの? あっ、いい点だったんだね!? 見せっこしちゃう?」


 いや、良くないし。平均点以外だし。山田君、女の子のことばっかり考えて勉強してないんだよ。本上さんのビキニの想像ばっかしてんだよ。馬鹿だよね、あいつ。


 見せたくはなかったが、引っ付いてきた本上さんが良いに匂いで、そして当たった二の腕が柔らか気持ち良すぎて、軽く前傾姿勢で固まっていると、了解したと思われたのか覗かれてしまった。


 点数を見られたのは恥ずかしいが、本上さんのサラサラの髪が僕の頬を撫で、僕はいつものように真っ赤になって固まってしまった。


 初接触なんですけど! 最高なんですけど!


 我が人生に一片の悔い無し!


 クラスの男子どもが凄い顔で睨んでくる。ふふふっ、童貞共はハンカチでも噛んで涙してな! 僕も童貞だけどね。


 僕が彼女の髪をクンクンするのに必死になっていると、彼女の気まずそうな声が聞こえた。


「タロー君は、42点!、えっ、42点? あれ? 私勘違いしちゃった?」


 恐る恐るといった感じで気まずそうに僕を見上げてきた。


 気まずそうな上目遣い頂きました。ありがとうございます。割と大きめの声で僕の点数が公表されてしまったけど、全然プラスです。


「タロー君、怒っちゃった? ごめんね? 私のも見る?」


 別に見なくても良かったんだけど、押し付けるようにして見せられた答案には、彼女らしい綺麗な字が並び、本上華蓮の名前の横に94という赤い数字が書かれていた。


 ダブルスコア以上でした。平均点からもダブルスコア。


 どんな偏差値してんだよ。


 天才かよ。


 才色兼備かよ。


 完璧超人かよ。


 なんでその点数で恥ずかしそうなんだよ。可愛いだろ。写真でください!


「ごめんね? お詫びに勉強教えてあげよっか? 英語なら自信あるよ。あっ、一緒に夏休みの宿題するっていうのは?」


 ちょっと僕の灰色の脳細胞がオーバーフローしている間に、僕が怒っていると思った本上さんから素敵な提案が聞こえた気がした。


 妄想かな?


 あっ、違うわ。野郎どもがコンパスを投げようと構えているから。さすがに危ないからやめろよ。


 そうか、妄想でも幻聴でもないとすると、夏休みデートのお誘いかな。


 いやぁ、参ったなぁ。ぐふふっ


 あれ? 英語なら自信がある?


 平均のダブルスコアの数学は自信ないんですか、そうですか。


「あっ、信じてないんでしょ! ほら、英語はバッチリなんだよ!」


 百点でした。


 バッチリでした。


 ムッツリーニ山田君は37点らしいよ。馬鹿だねあいつ。英語の授業中、あいつ隣の席の本上さんの胸ばっかチラ見してんだよ。大きくなったって聞いてから毎日だぜ?


「僕、英語苦手なんだ。助かるよ」


「良かった! じゃあ、夏休みに英語の宿題一緒にやろう」


 ビィィン!


 あれ? 僕の机に見知らぬコンパスが刺さってるよ?


 田中君のコンパスだね。はははっ、田中君気を付けたまえよ?


「じゃあ日にちは今度メッセ送るね!」


 本上さんはとっても嬉しそうな笑顔を見せた。嬉しいのはこっちなんですけど。


「あっ、良いこと思い付いたよ! 毎日英語でチャットしたらすぐに英語できるようになるよ、きっと!」


 ビビビビィィン!!!


 おいおい、朝倉、坂下、野中、君達コンパスはちゃんと仕舞っておかないと危ないよ?


「そ、そこまでしなくていいんじゃない? 本上さん山田を甘やかし過ぎよ」


 学級委員長の黒崎さんが割り込んできた。余計なこと言わなくて良いんだよ!


「えっ、そうかな? あっ、もしかして、黒崎さんって、タロー君のこと…」


 本上さんは僕と黒崎さんを見比べ、はっとして慌てて出した。


「いや、違うから!」


 黒崎さんはもっと慌てている。


 いや、ほんとに違うと思うよ、本上さん。


 何か見つけちゃったみたいな顔でニヤニヤしちゃってるけど。そんな顔も可愛いけど。


「そんな訳ないでしょ、本上さん。黒崎さんは田中のことが好きなんだから」


 嘘だけど。邪魔者同士くっついてしまえ。


「えっ、そうなの?」


「なっ、なんで知ってるのよ! 誰にも言ったこと無いのに!」


 あれ? 瓢箪から駒ってやつ?


 キョトンとした本上さんの横で、僕までキョトンとしてしまった。


 クラス中に自ら暴露してしまった黒崎さんは涙目で真っ赤だ。


 ちなみに黒崎さんはメガネが似合う美人タイプだ。本上さんが現れる前は僕もちょっと気になっていた。田中もげろ。


 あっ、田中がなんかカッコ付けて髪を掻き上げている。どうせ、モテる男は辛いとか思ってるんだろう。


 田中は調子に乗って黒崎さんに歩み寄り、その肩を抱いた。お前さっきまで本上さんに夢中だっただろ。


 黒崎さんの肩がビクッと震えた。


「黒崎、そうだったのか。ごめんな、気付いてやれなくて」


 うわぁ、途端に上から来たよ。衛星軌道くらい上からだよ。モテない童貞男子が調子に乗っている。


 本上さんは目を輝かせながら成り行きを見守っている。素直か!


「触らないで! あ、あんたのことなんか、何とも思ってないんだから!」


 なんとテンパった黒崎さんはセクハラ田中にビンタを浴びせ、半泣きで駆け出して行った。


 天国から地獄のデリカシーレス田中に憐れみと侮蔑の視線が集中している。


 調子に乗り過ぎなんだよ。ムッツリーニ君を見習えよ。


 田中は真っ白になって固まっているが、誰もフォローする気配はない。黒崎さんには女子が数名追いかけて行った。人望の差が如実だ。


「だ、大丈夫、田中君?」


 本上さんは何か責任を感じるらしく田中に声をかけているが、そんな奴に優しくする必要はない。


「本上さん、そっとしておいてやりなよ。もう帰ろうよ」


 そっと肩を抱きたいところだが、田中の醜態を見た後にそんなことはできない。決して僕がヘタレな訳ではない。


「う、うん」


 僕はチャリ通で本上さんはバス通なので、一緒に帰る訳ではないけど、田中をそっとしておいてやるという名目で本上さんを連れ出すことに成功した。


 いつもは女子に囲まれて帰る本上さんだが、女子が黒崎さんの方に行ってしまったので上手くいった。


 二人きり初めてなんですけど!


 青春なんですけど!


「僕、自転車なんだ。本上さん、乗せていこうか?」


 二人乗りの自転車で登下校って、青春っぽくて憧れるよね! 違法だから良い子はやっちゃだめだぞ!


「ダメだよ。道路交通法違反だよ?」


 はい、ここに良い子いました。そうですよね、分かってましたよ。


「じゃあ、バス停まで送っていくよ。一緒に行こう」


 結構勇気を振り絞りました。だってバス停って僕んちと反対方向だし。下心丸見えだし。


「わぁ、タロー君って紳士だね! 今日は帰り一人になっちゃったから心配してくれたんだ?」


 本上さんは嬉しそうに僕の顔を覗き込んだ。


 ま、眩しいっ!


 純真な本上さんの笑顔が欲望にまみれた僕には眩しくて直視できない!


「あっ、赤くなってる。照れちゃって、タロー君たら可愛いんだ!」


 やめて! 僕の精神力は残りゼロよ!


 はい、惚れた!


 山田の奴、隣の席になっただけで気になりだして、ちょっと二人っきりになっただけで惚れやがったよ。


 これだから童貞中学生は。


 テンパりすぎておかしくなってきた。


 テンパりすぎて告白しそうになった。危ない危ない。


 今告白したら『ごめんなさい』って言われるに、今年の小遣い全額賭けるね!


 だって42点のムッツリーニ山田君は全然良いところアピールできてないもん。


 良いところってどこかって?


 知らないよ、そんなの。顔ではないことは確かだけど。


 本上さんが言ってくれた紳士なところかもしれないね。変態紳士かもしれないけど。


 あー、もうバス停着いちゃったよ。


 近いんだよバス停。何だよ中学校前って。そりゃ近いよ。坂下っただけだよ。


「もう着いちゃったね」


 あっ、心の声が漏れたかな? 違った、本上さんだった。


「うん、もっと遠くても良かったのに」


 今度こそ心の声が漏れた。


「ふふふっ、せっかく私と二人っきりだもんね? もっと一緒に居たい?」


 はい! 居たいです!


「もう、からかわないでよ」


 まあ、思春期ですから? 思ってること言えませんけど?


「私はもっと一緒に居たいなぁ」


 この小悪魔め! どれだけ惚れさせたら気が済むんだ! 


 すいません! 延長料金はいくらですか!


「タロー君だけじゃなくて、皆ともっと一緒に居たい。一緒に遊んだり笑ったりしたい。

 せっかく仲良くなれたのに、もう夏休みで当分会えないもんね」


 良かった。また調子に乗って告白するところだった。


「会えるよ、いつでも。呼んでくれたら毎日でも会いに行くよ。

 夏休みに神社でお祭りがあるの知ってる? 屋台が出て盆踊りがあったり、ちょっとだけ花火が上がったりするんだ。一緒に行かない?」


 頑張った! 僕頑張ったよ! ドキドキしながら誘っちゃいました!


「うん、知ってるよ。黒崎さんとかと一緒に行く約束してるんだ。ごめんね?」


 はい、振られましたー!


 そうだと思ってました!


「い、いや全然良いよ! 僕は田中と一緒に行くことにするよ!」


 そして本上さん達と鉢合わせて、田中と黒崎さんをくっつけて、あわよくば本上さんと二人っきりになるのだ!


「狭い会場だから、一緒に行かなくてもどこかで遭遇するんじゃないかな」


 決して本上さん達を待ち伏せする、訳じゃなくて、偶然?


 いや、会場のせいで会うのは必然なんだよ。


「そっかぁ、そんなに私の浴衣姿見たいのかぁ。じゃあ、一緒に廻れたら良いね?」


 まじっすか! 浴衣っすか、本上先輩!


 マジやべーッス


 自分、親父の一眼レフ持って行くッス


 いや、盗撮じゃないッス


 えっ、お巡りさん、違うって。友達なんだって!


 

 はっ、妄想の中で職質されてしまった。ああ、怖かった。


「じゃあ、会えなかったら浴衣姿の写真送ってよ」


「えー? どうしようかなー?」


 悪戯っ子みたいな笑顔たまりません。その顔も写メ送ってください。


「リンゴ飴奢るからさ」


「えー? そしたら会場で会ってるじゃない。タロー君ったら」


 本上さんの笑顔に夢中で適当なことを言ってしまって笑われてしまった。その笑顔プライスレス。グッジョブ、僕!


「じゃあ、当日会場で偶然会えて、リンゴ飴を奢ってくれたら、仕方がないから浴衣姿で一緒に写真撮ってあげる」


 会場前から待機することに決まりましたよ田中君。

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