第3話
このままでは、暴走して『据え膳食わぬはなんとやら』と言う思考が俺の精神を支配してしまうのだ。
それだけは阻止しなければいけない。イケルかも知れんがいけないのだ。
だが、小豆さんの現状を考えると楽にさせたいと思う。そう考えた時に一つの案が思いついた。
それは『ナニかを小豆に飲ませること』なのである。
しかし、俺の部屋には飲ませられるものが――アレしかなかった。
確かに効果はあるだろうが、倫理的に少し難があると戸惑いを覚えている俺。だが、小豆の気持ちが優先だろう。
仕方がない、背に腹は変えられん。俺も覚悟を決めよう。
「ふあぁ~。ふぅ~ん。あぅ……」
「……」
「ふわぁ~」
俺は覚悟を決めて、下を向きながら布の覆われていた黒くて太い棒を、おもむろに取り出した。
それを見た小豆は驚きながらも、潤んだ瞳で嬉しそうな表情をして声を漏らす。
「……小豆……口開けてくれるか?」
「ふぁ~い♪ ……」
黒い棒を掴んだまま口を開けてもらう。その言葉に何も
これから起こることの罪悪感にかられながらも、迷いを振り切り小豆の口に黒くて太い棒の先を差し込む。
「――ぅぅぅ!」
棒が、口の中で固定されると、小豆から小さなうめき声が漏れる。そして涙を溜めながらも必死で咥えて喉を鳴らす妹。
そんな妹を見下ろしながら、言い知れぬ罪悪感に
「――うっ!」
「――んんっ!」
俺はうめき声を上げて棒を一気に小豆の口から引き抜いた。その瞬間に口から離れ、チュポンと言う音を奏でながら小豆も小さなうめき声を上げる。
そして離した棒からは、勢い良く中のモノが噴出して小豆の顔と胸元に液が飛び散るのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
涙を溢しながら、しばらく肩で息をしている小豆も次第に落ち着きを取り戻すと――
「ふぇ~ん。まだ口の中ヒリヒリするぅ~」
ようやく言葉として理解できる声を発していた。そんな妹を眺めて――
「ごめんな、小豆……お兄ちゃんの部屋にはアレしかなかったんだ……」
そんな風に謝罪をした。そんな俺に涙を拭いながら小豆さんは――
「やっぱり、ポテチにコーラは合わないね~」
少し苦笑いを浮かべて、そう答えていたのだった。
俺は小豆にコーラを飲ませただけだ。コンビニで買って、床の布製の鞄にしまっていた黒くて太い1.8リットルのペットボトルを取り出して小豆の口に突っ込んだのだ。
とても倫理感にかられていた。
いや、だって辛いの苦手な小豆さんが口の中が激辛になっているところに、炭酸なんて流し込むとか拷問だからな。それが理解できるから躊躇っていたのだ。
あと、俺がうめき声を上げたのは、慌てて掴んでいたから手をつりそうになっていただけだ。だから慌てて小豆の口から引き離したって訳だ。
ただ、小豆の発言に異を唱えるとすれば。
ポテチにコーラが合わないんではなくて、辛いのが苦手な小豆さんが激辛ハバネロ。
それも九枚重ねて食べて、そこに炭酸を流し込んだからなのであって、普通に食べる分には最高の組み合わせなのだと言うことを付け加えておこう。
とりあえず、汗とコーラでビショビショになった小豆さんは戦略的撤退。そう、服と身体の洗濯的撤退でこの部屋を出ていった。
……あっ、なんで出ていったのに、部屋に鍵かけとかなかったんだろう。まぁ、そこまで拒んでもいねぇけど。
しばらくして、パジャマに着替えて茹で上がった小豆さんが戻ってくると、自然と俺の右腕に絡まって、また悪夢の時間が動き出すのだった。
◇3◇
さすがに辛いのを食べさせた罪悪感があった俺。戻ってきた小豆に、た●のこ●里をもう一箱開けてチョコを食べさせていたのだった。
とりあえずの危機も去って、平穏無事にモグモグ進行している小豆さん。
そんなモグモグ姿を見て「レ、レンタルくらいなら?」とか、考えちまっている俺の脳内を振り払うと、俺は妹に問い質すことにしたのだった。
「それで? お前は何がしたいん――」
「けっこん!」
それはまるで「おあがりよっ!」と言い切るアニメ『衝撃のソウマ』の主人公。ソウマくんのように、きっぱりはっきり自信を持って、俺の言葉を食い気味に目の前にサーブ……あっ、サーブって言っても球技じゃなくて料理の方だ。どっちでも同じだけどさ、今の場合だと。
満面の笑顔を添えて『けっこん』を俺の目の前にサーブしてきやがった。って、頼んでねぇよ!
なので俺は、ミステイクな注文にクレームをつけてやることにした。
「……俺はそんなバイオレンスな作品は好きじゃないな? どちらかと言えば『ていおん!』が好きだが?」
「違うよ~? 血痕じゃなくて、けっこんだよぉ~」
とりあえず、話題を逸らそうとボケてみた。
『ていおん!』と言うのは日常系ほのぼのアニメだ。女子高生達が部活動を頑張るお話。
だと思いきや、体温が低温な為に部活をしないでお茶で暖を取っているだけの、ほのぼのした内容なのである。
そんな俺のボケに鋭いツッコミが入った。口調はまったく鋭くないけどな。
「……俺は格闘ゲームもやらないぞ? どちらかと言えば純愛アドべ――」
「それは
だから第二弾のボケを投入してみた。するとこんな反論が返ってくるのだった。
『抜剣』と言うのはアーケード格闘ゲームである。蹴りがメインの格闘ゲーム。全国のゲームセンターで展開されている続編も登場している人気作品なのだ。
「エロゲじゃねぇ! 選ばれし勇者の女性指南書……かっこ、親父セレクト贈呈モノ、かっことじ……だ!」
「ただの十八禁美少女ゲームでしょ? そもそも私が言っているのは、けっこんだよぉ~」
俺のプレイする純愛アドベンチャーゲームをエロゲ呼ばわりしてきた妹。だから俺は反論したのだけど、小豆の言うことが正解なのでした。
「ミュ――」
「石鹸じゃないんだよぉ~」
再びサーブしてきたので更にボケてみようとしたんだけど、言い切る前に先手を打ちにきやがった。
とりあえず『リブレイブ!』の、このかちゃん達九人のスクールアイドルのユニット名が、某薬用『石鹸』の名前と同じなので言ってみたんだけど。
さすがに小豆だって知っているので、即座にツッコまれていたのだった。
と言うより、すでに『けっこん』とは何もかかっていないけどさ。
まぁ、わかっているんですけどね。お前の言いたい『けっこん』は。
しかし、お前の言葉は……認められないわぁ?
と、言うことでだ! 俺は目の前の、かしこ……くないけど、かわいいアズキーチカにハラショーな言葉を投げつけることにするチカ。
『認められないわぁ』は世里ちゃんの台詞。
語尾についた『チカ』と言うのはセリーチカのチカ。ファンの間の創作物などで使われることが多い彼女の語尾である。
俺は意気揚々と小豆に言い放つ。
「スピリチュアルやね☆」
「ナニソレ、イミワカンナイ!」
ですよね~。俺も意味わかんないし。
俺が意気揚々と言い切っていた台詞『スピリチュアルやね☆』とは同じく『リブレイブ!』の望ちゃんの名台詞の一つ。
スピリチュアルが趣味な彼女。この言い方で合っているかは知らないが、そう言うのが好きな彼女。
タロットのカードによる「カードのお告げ」と並んでアニメでも多く使われる台詞だ。
そんな俺の言葉に、咄嗟に切り替えしてきた小豆さん。
しかし妹よ……望ちゃんを怒らせたらどうなるか、その身体に思い知らせてやるっ!
「あずっち……あ~んまり、ふざけてると~わしわしMAXやで?」
「……お願いします♪」
三つ指ついてお願いされちゃっているんですけど? 望さん、どうしてくれるんですか!
そう、俺は望ちゃんの必殺技『わしわしMAX』を、関西弁の彼女っぽく小豆に言い放っていた。
だけど嬉しそうな表情で、三つ指ついてお願いされてしまっていたのだ。
ま、まぁ、自分で撒いたこと故、
小豆よ! 兄の威厳を
「……丁重にお断りいたします」
「……丁重にお断りをお断りいたしますぅ♪」
兄の威厳を見せるべく……同じように三つ指ついて頭を下げてお断りしたのに、お断りをお断りされちゃいましたよ。やっぱりスライディング土下座じゃないと効果が薄いのですかね。
だけど困ったぞ。
この間、中古屋で『リブレイブ!』のほとりちゃんのコラボポスターがワンコインで売っていたから「ひゃっほーい!」って喜んで買ってきたはいいけど、あまりに大きすぎて貼る場所なくて部屋帰ってきてから唖然としたくらいに困ったぞ。
まぁ、場所確保して無事に貼れたけどさ。
と、こんなことを悩んでいると目の前の妹君は沈黙を肯定と判断したのか、
ずっと考え事をしていて煮え切らないでいた俺。小豆はとっくに煮えているんだけどな。
そんな俺に向かって天使――の皮をかぶったキュートな小悪魔。どっちにしても可愛いんだけどさ。そんな微笑みを浮かべて、小豆が交渉を切り出してきたのだった。
◆
「じゃあさ~? お兄ちゃんに選択肢を与えま~す♪」
いや、なに? その上から目線……まぁ、実際には見上げている訳ですが。
「けっこんと~」
あ、あれ……俺の巧みな某バスケットマン並のミスディレクションが効いていない。やっぱり部屋の蛍光灯くらいじゃ影が薄いのかな。失敗したようだ。
「わしわしMAXと~」
当たり前だと言わんばかりの表情で追加する小豆さん。
おい、わしわしはお前がする訳じゃないよね? される側だよね?
うわー、俺よりミスディレクションが上手いじゃねぇかよ……どっちかって言うと、される方の存在なのにさ。
そもそも何だよ「と」って。俺はその二つしか知らんぞ?
「今日一晩、お兄ちゃんを抱き枕にできる権利~♪」
俺が困惑しているのも気にせずに、満面の笑みに赤みを差した表情で言い切っていた。
……は?
「――ちょっと、待てい!」
「うん。待ってるから早く選んでね~♪」
俺は声を張り上げて制止させた。だけど、こんな風に勘違いしていた小豆。
まぁ、わざとなんだろうけど。
「い、いや、そうではなくてだな? なんで、選択肢が三つに増えてんだよ! そもそも俺の回避権は?」
「――えっ? だってスクールアイドルって三人組なんじゃないの? ……そんなのある訳ないでしょ?」
俺は慌てて選択肢が増えていることを抗議する。うん、あまりに慌てていて、選択肢そのものを否定するのを忘れていた訳だ。
すると、キョトンとした表情でこんなことを聞いてきたと思うと、回避権を却下してきやがったのだ。
「ハラショー! じゃねぇやい! ……回避不可能とか無理ゲーじゃね? 断固として回避を要求する! と言うか、もう時間遅いんだから出ていけよ……」
「お兄ちゃんが、出して、イク、のは良いけど――私が出ていくのは絶対やだもん!」
うん。スクールアイドルに三人組と言う決まりはない。実際に二人とか存在するしな。
こんな世里ちゃんの妹の
と言うよりも、こんな回避不可能な選択肢を選択肢とは呼べん。
だから、俺は断固抗議をしていたのだった。
だけど、なんかテコでも動く気がなさそうな我が妹。と言うか、眠くなってきたな……変な台詞が混ざっていた気もするが、なんか何もかもが、どうでも良くなってきましたぞ。
「……じゃあ、俺は寝るから勝手に出て行けよ~」
「――えっ? お、お兄ちゃん? ……じょ、冗談だよね?」
「いや、もう眠いから、お前も適当に戻れよ……あー、ほとりちゃん達はちゃんと連れて帰ってあげるんだ――どわっ!?」
とりあえず、妹の相手すんのに疲れたから、勝手に寝かせてもらおうとベッドに潜り込んで、布団をかけながら小豆に声をかけた俺。
そうしたら驚きの声を上げたかと思うと、心細そうな声色で訊ねてきていたのだった。
なので知らないふりをして声かけて、目を閉じて寝ようと思っていた。
ところが、目を閉じた瞬間に腹に衝撃が走った訳だ。と言うよりも重い……体が動かん。
ソッと目を開けると俺の目の前に浮かぶスイカが二つ……いや、俺に馬乗りしている小豆さんが映し出される。
「……なにしてんだよ?」
「だぁ~ってぇ~。選んでいないのに寝ちゃうんだもん!」
「選べそうなものがないので協議の結果、残念ながら今回は見送りに――」
「しちゃやだよぉ~~~」
って、こら小豆、お兄ちゃんの下半身に座りながら揺らすなよ!
目の前のスイカがこぼれ落ちそうじゃないか!
い、いや、スイカは落ちないけどさ。お兄ちゃんの理性が落ちて、エクスカリバーが鞘を抜いちまうだろが!
未だに人の上でユサユサして涙目になっている妹に、俺の方が泣きたくなっていると――
「じゃあ、わかった……」
「おっ? わかってくれたか」
少し不満そうな表情でボソリと「わかった」と言ってくれた小豆さん。だから安堵して小豆を見上げていた俺。
「ゲームで決着をつけよう?」
なのに不敵な笑みに変えて、そんなことを言い出しやがったのだった。
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