第32話 融合
ヴォルドとルル、アレンとソフィのカップルはすっかり仲良し。昼飯を食った後、ヴォルドたちは子供たちを集めて雪合戦をして遊ぶと出て行った。意外と面倒見のいいヴォルドは子供たちからも大人気、そしてアレンとソフィのカップルは大人たちを訪ね、そこで色々と話をしていた。
そして俺は相変わらずアレアとイチャイチャ。膝の上に抱きかかえて頬ずりしたり、むちゅむちゅとキスをする。その度にアレアはビクッと反応し、最大限の喜びを露にする。
夕方までそんな風にしてすごし、夕食はみんなで。
「あたしたちはねえ、ほら、マーベルが持ってきてくれたキノコ、あれを探しに山に行ってきたんだ。いっぱい取ってきたんだよ?」
「ああ、飼いならした魔獣も連れて。あいつらも可愛いな」
「…私たちはここにあるものと足りないもの、そう言うのを大人たちに確認してきました」
「ええ、やはり道具類は消耗がありますから不足気味です。鍛冶場をしつらえれば作れるとの事ですが、ばい煙がすごくて穴の中では難しいと」
ヴォルドもアレンもあーんとそれぞれの女に食べさせてもらいながらその手はおっぱいをいじっていた。
「そうだなぁ、向こうに移ってもヴォルドたちには探索を進めてもらった方が良いかもね」
「そうだな、俺も全てを把握しているわけではない」
「うんうん、みんなも連れて行けば楽しいし、あたしは賛成!」
「それと鍛冶場はどうしようか?」
「ええ、城には鍛冶場がありますが。以前はそこで。政治的にも道具類を仕切るというのは大事な事です」
「…そうですね、みんなが作れないものを供給する、それは王子の権威に繋がります。人間に対しても」
「どう思う、アレア?」
「…どっちにしても人が足りないかな。今の大人は外せないし、子供はまだ、若い子ばかりだから、大人にしてっていうのも難しいよ。ルルとソフィ―でギリギリだもん」
確かに二人はアレアに比べ少し子供っぽい感じ。アレアが成人なり立てくらいなら二人はまだ学生って感じだし。
「…あ、ちょっと待って、うん、そうなの? じゃあここに、座標はわかるね?」
「どうしたの?」
「西のダンジョン近くの巣穴が冒険者に襲われたって。だからこっちに」
その時空間に穴が開き、そこからシャーマンと大人のゴブリンたちが走って出てきた。大人たちが全員出てきたところでゲートが閉じられる。
「ゲートって」
「うん、シャーマンはね、時空移動、つまり魔界に行ったりは出来ないけど同じ時空、地上同士ならゲートを開けるんだよ」
『やばかった、あいつらシルバータグだったし、』
『ほんとよね、いきなりだもん』
出てきたのは大人が20人、男女は丁度半々だった。とりあえずみんな風呂に入らせその間に対策を話し合う。
「なあ、それよりさ、」
「なあに? バーニィ」
「うん、ちょっと疑問っていうか質問? お前とかルルとかソフィーは人の言葉を話せるじゃん、それってやっぱり特別な事なの?」
「えっ? やだなあ、人の言葉は知識としてみんな知ってるよ? 必要ないから使わないだけ。バーニィたちはみんな意思疎通できるから。けど私たちは人間とも話す機会があるかなって」
「ああ、そうなんだ。ならさ、表に出た奴はみんな人の言葉を使おうか、ここでは人と争うつもりはないんだし」
「それは大事かもね、うん、みんな、そうしようか」
ゴブリンの意思の結晶体、そのアレアの決定は全てのゴブリンの総意となる。風呂から戻って来た難民ゴブリンたちも人の言葉で話すようになっていた。
難民のゴブリンのシャーマンも交え、今後どうするか話し合う。
「食料に関してはまだまだ余剰があるし、ここには巣穴に適したところがいっぱいあるから大丈夫だよ」
「…たすかります、それと王子、我らもあなたと交われてうれしく思ってます」
こっちのシャーマンはオババに比べて若い感じ。声も澄んだきれいな声だった。
「…その、王子、どうでしょうか、どうせなら巣穴ではなく、彼らに鍛冶を」
「城に?」
「ええ、あそこには我らが暮らしていた屋敷もありますし、鉄鉱石や木材をここから運べば。炉は大きなものがあります、炭を焼く小屋も」
「シャーマン、お前の意見は?」
「私たちは王子がそうしろと言うなら文句など」
「そうじゃなくて、お前たちの暮らしだろ? 自分で考えろよ、バカ」
「もう、ひどいです、でも、地上で暮らすのも悪くはないかと。人間たちの干渉がなければ」
「じゃあ、そうしようか、うちの子たちに食料や必要な物資は運ばせるから。あとは連絡を取り合って必要なものを作ってもらう、そう言う形で」
「はい、アレアさま」
「ならさ、お前、フードを取って顔見せろ」
「えっ? 構いませぬが」
そう言ってフードを外したシャーマンの顔はゴブリンにしてはまあまあ、まだ若さも残していた。
「…そうだな、お前はガラリア」
「えっと、」
「お前の名前だよ、これからはガラリア、いいね?」
「名前、私の? 嬉しいです、王子!」
そう言って俺に抱き着くガラリアのおっぱいを無遠慮に揉む。アレアはこういう事には文句がないようでにこにこしていたし、ルルもソフィもうんうんとにこやかに頷いていた。
「ね、王子は私たちを愛してくれてる。よくわかるでしょ?」
「はい、私はアレアさまたちのような形ではないのに」
「子供の頃はよくオババのおっぱいを吸ってたからな。お前も吸わせろ」
「はい、王子。あんっ♡」
そんなこんなで形は決まり、翌朝みんなで巣穴を出た。ここの巣穴にもシャーマンを置き、そのシャーマンにはシェリルと名付けてやはりおっぱいを吸ってやった。
途中でアレンとソフィ、それにガラリアの群れは城へと向かう。俺たちはピルナの丘に向かって歩いた。そこには立派な造りの商館が建てられていた。
「…お帰り、見てくれ、想像以上に立派なところだぞ?」
「バーニィ、私、寂しかった」
マーベルとメーヴに迎えられ俺たちは商館の中に。外には鉄鉱石と木材が山積みにされていた。
商館の内部は一階部分がオフィスと倉庫。食料を保管するための倉庫も別に建てられていた。あとは水場や風呂、トイレなどが置かれ、水は井戸から、排水は近くの川に流れるようになっている。
そして二階部分は広いリビングとそれぞれの部屋。メーヴ、マーベル、アレアの三人は個室、あとはヴォルドとルル、アレンとソフィの部屋、少し広い奥の部屋はジョバンニとキャシーが使うという。俺は三人の妻の誰かと過ごす感じ、だから私室はなかった。
役割が明確になれば家を建て、それぞれの住まいを、そう言う計画でもあるようだ。
内装は既に整えられ、リビングには絨毯が、家具もゴブリンたちが新しく作ってくれたもの。そのリビングのソファーに腰かけ、みんなに向こうであった事を話した。
「…なるほどね、それじゃいくら討伐してもゴブリンが減らないわけだよ。俺も大人のゴブリンやシャーマンと戦うなんてめったになかったし」
「そうだね、私たちが倒したのはみんな子供ってことか」
ジョバンニとキャシーはそんな感想。
「ふむ、鍛冶場か、確かに必要ではあるし、道具をこちらで仕切ることは政治的意味もあるか」
「…そうね、人は気持ちだけでは縛れないから」
「うん、これからも巣穴を無くした群れはこっちで引き取るつもり。人が増えればできる事も多くなるから」
メーヴ、マーベル、アレアの三人はそんな意見を言った。
「ともかくお膳立ては整った、と言う訳だな。あとは交易、バーニィ、帰ってきたばかりであれだが、明日、メーヴとリヴィア伯の所に。向こうで食料と難民たちを」
「ああ、わかった。お前は来ないのか?」
「私はこちらで難民たちの受け入れの準備を進めて置く。…離れるのは嫌だがこれもやらねばならぬ事。メーヴはポンコツだがリヴィア伯のあるじでもあるからな。普段使えぬ分、働かせねば」
「もう、そんな言い方!」
「アレア、お前もこちらに残ってくれ」
「えーっ、アレアも行きたかったのにぃ」
「いずれ機会はある。事態が落ち着き、人とゴブリンが共に、そうなればどこにだって行けるさ。…それだけに最初のボタンを掛け違う訳には行かぬからな」
「…じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言ってアレアは自分の荷物から凝った形のピアスを取り出した。
「これは意思の伝達ができる通信機みたいなものだよ。ほら、その安物はもういらない。これと付け替えて」
今までしていた通信機のピアスを外し、新しいものに付け替える。今までのものはアレアが手のひらに乗せ、魔力を込めるとパンっとはじけて粉々に。
「こっちのはね、アレアたちと通話ができる。各地のシャーマンたちからも王子に連絡できるんだよ? それとガラリアやシェリル、王子が名前を付けてくれたシャーマンには王子からも連絡できる。誰と話したいか名前を思い浮かべれば通じる仕組み。もちろんアレアとも通じるよ?」
「そうか、助かる」
「うん、バーニィはアレアたちの王様なんだから。ちゃんと気にかけてくれなきゃダメだよ?」
「ああ、判ってるさ」
その日はみんなで飯を、器用なアレアたちゴブリンはマーベルやキャシーたちにも認められ、仲良く話をしていた。涙目なのはいつも通りメーヴだけ。ジョバンニもヴォルドとは仲良くやっている。なんだかんだでみんな仲間、いいものだなと思いながら隣で愚痴を言うメーヴのおっぱいをいじっていた。
その夜はマーベルの部屋で過ごすことに。マーベルは俺を部屋に招き入れると着ていたワンピースをはらりと床に落とし、下着姿に。そして俺に抱き着きキスをしながら俺の服を脱がしていく。そういう扇情的な事がすごく上手くなっていた。
マーベルはカリスマ性があり、メーヴ以外のみんなから慕われている。年齢は25歳、人間としては大人の部類。それだけに人の話を聞けるし、経験に基づいた意見も言える。そう言う懐の深さがあった。
そして俺もこのマーベルが大好きだった。少しお姉さんぽくもあり、女軍人の凛とした口調、顔は大人の美人、そんなかんじで切りそろえた赤い髪もセクシーだ。少し日に焼けた健康的な肌、細身ではあるが引き締まった体つき、おっぱいはそこそこの大きさで尻はきゅっと上がってカッコいい。
そんなマーベルをベッドに押し倒し、わがままに欲望を注ぎ込んでいく。彼女はそんな俺を抱きとめ、すべてを受け入れてくれる。エッチな事も積極的であらゆることをしてくれる。そして次の時はそうした事をさらに洗練させて楽しませてくれた。
もちろん俺はそんなマーベルが大好きですごく愛しい。彼女の前では心を隠すことなく甘え切り、素直に何でも話してしまう。アレアたちの事、シャーマンに名前を付け、おっぱいを吸った事、そう言うことまでも伝えたくなるのだ。
そんな俺の話を「そうか、そうか」と微笑みながら聞き、適切な回答をしてくれる。
「…そうだな、私は良い事だと思うぞ? ゴブリンたちは皆が知識を共有しているとはいえ、やはり知識と実体験は違うからな」
「そうなの? まあ、アレアは良い事だって言ってくれたけど」
「例えるならばゴブリンたちは一つの生き物。アレアは頭脳で外に出た子供たちは手足、彼らが触れた物、知りえた事をアレアは知識として自らに記憶する。そしてその中から必要な事を共通の知識として知らせているのだ」
「そんな感じかも」
「けれどゴブリンたちは一人一人に意思がある。気持ちもあるんだ。そうなると知識だけ、それがどこか空虚にも感じる。あなたはみんなの王、だから従って当たり前、それは知識、そして義務だろう?」
「そうなのかな?」
「あのオババは自ら考え行動できる意思を持っていた。今のアレアにもそれはある。それは自分の知識と体験が一致して実感になっているからだ」
「そういえばガラリアは最初、俺が言うならその通りにするって。だから自分で考えろって言ってやった」
「そう、自分で考える、その必要性が判らない。あなたに愛されたのはあくまでアレア個人、その知識が共有されても実感はない。だが、そうして触れてもらえばそのガラリアも実感を得る。今までは言われた事を、それしか考えない。でも今はあなたのためにどうすればより良い結果をと考えているはずだ。アレアはそれが判っているから嫉妬しない。私もゴブリンたちには嫉妬しない」
「そうなの?」
「そうだ、いわばゴブリンたちはあなた自身だからな。あなたがいかに自分の手足を愛でようがその事に嫉妬はしないだろう? 言い換えれば今回の事は自分の体を手入れする、身だしなみを整えるようなもの。…そうだな、出来れば抱いてやってもいいくらいだ」
「そっか、確かにあいつらは俺の身内と言うよりはもう、切っても切り離せない縁だからね」
「そうだぞ、ゴブリンたちはあなたにとって親兄弟よりも近い存在、手足があなたの意思に逆らう事がないように、あいつらもあなたに逆らう事はない。だからもっと愛してやればいい。…そしてあなたはそれだけでは満たされない」
「そうなのかな?」
「それはそうだ、自分の体をいかに愛でようとも人は他人が欲しくなる。私たちは他人、思い通りに行かない事もある。だからこそ互いをもっと知りたくなる」
「ああ、確かにね、あいつらは小さなころから知っていて、だからこそ心地いいけど」
「そう、だから私は嫉妬しない。…メーヴはムカつくが」
「あはは、そうだね、お前に対する気持ちとあいつらに対する気持ちは違うものだ」
「そうだぞ、だからあなたは私をもっと知らなければならない。そしてそれは決して満足しない」
「どうして?」
「今日の私と明日の私は違うから。昨日の私より今日の私はあなたの事を知っている。明日はもっと、だから知り尽くす事などできないのだ」
「あはは、確かに」
嬉しくなってマーベルの胸にぎゅうっと顔を埋める。マーベルはそんな俺を愛おしそうな顔で抱きしめてくれた。俺はこの女を愛していて、この女に愛されている。そう言う事に一切の疑念も疑問も抱かない。
再び昂りが訪れてマーベルの中で欲望をはじけさせる。終わった後でマーベルは俺を強く抱きしめ笑いながら涙を流した。
「なんで泣くの?」
「…嬉しいからだ。あなたは私を愛している。その事が強く伝わった」
「そうなの?」
「…うん、私は物語のヴァレンスにあこがれた。あなたと出会い自分の理想は果たされた、そう思った。けれどそれは終わりではなく始まり。私たち二人の物語、こうして抱かれるたびにページを一枚埋めていく。それがどんどん積み重なり、分厚い本になっていく。どのページにもあなたとの愛が記される。
…私がこれまで思い描いていた理想はプロローグにすらなりえない。そう言う事に気が付いた時、私は幸せと言うものを実感する。生まれてきて良かった、死ななくてよかったと」
「そうだね、お前は俺の幸せそのものさ。だから常に側に居てくれなきゃ困るさ」
「うん、私はそうする。…でも明日からは」
「そうだね、でもすぐに帰るさ」
「…ねえ、私の事、ずっと想っていて。食事した時、私が隣に、そう言う事を想像して。違う女を抱いて気持ちよければそれを私にさせてみたい、そう思ってほしい。何をするときも私が側に、そして」
「そして?」
「そうでない、私が居ない時間を不満に思って欲しい。帰ってきたら激しく求めて欲しい。こうして抱いて離さないで!」
「ああ、そうする。お前も俺が居ない時間、不満に思え」
「いつも思っている。地獄のような苦しみなのだぞ?」
「…大好きだ、愛している、マーベル!」
「うん、私も大好きっ! 愛してる、バーニィっ!」
マーベルに不満はなかった。大好きだし愛しても居た。だが、こうして今日と言う時間を共に過ごせば昨日までの気持ちが薄っぺらく感じる。より深く、より濃く、俺はこの女に惚れていく。
翌朝、支度を整えた俺は見送りに出たマーベルとアレアを強く抱き寄せ交互にキスをする。そしてメーヴに手を引かれ、馬車へと乗り込んだ。御者を務めるのはヴォルド、その妻のルルも一緒に連れて行く。ルルは露出の少ない服を着て、帽子を目深にかぶっていた。こうすれば人間との違いは判らない。万が一バレてもエルフの亜種、そう言えばいい。人間世界で俺はエルフのバーツで通っている。今はシルバータグの冒険者でもある。その俺が言えば説得力もあるだろう。
その二人は御者台に並んで座りあれこれ楽しそうに話している。そして俺は馬車の中でメーヴを強く抱きしめた。
◇◇◇
…私、怒ってます! 彼の妻は私なのに、マーベルとかアレアとか本当に図々しいです! なのにバーニィったらあんな連中にデレデレしちゃって。
私、頭に来たから馬車に乗り込むとき、べーって舌を出してやりました。バーニィにもたくさん文句言ってやるんだから。おっぱいが欲しくなったら私のをすいなさいってずっと前から言って来たのに!
…なのに、馬車の扉が閉まると同時に彼は私を強く抱きしめたんです。ぎゅうって。ああそっか、そうなんだ。夕べはマーベル、その前はアレアの巣穴、そう、彼はあんな連中じゃ満足できない、私じゃないと。怒ってる暇なんかなかったんです。あんな連中に彼を任せた私が悪いから。…ダメだなぁ、私。
彼はいつものように無遠慮に私の髪を掴み、貪るようなキス。私の体はまるでスイッチが入ったかのように淫らな期待で満ちていく。瞳が潤み、体が熱を帯びていく。
そして彼は乱暴に私の胸をさらけ出し、そこに吸い付いていく。私は乱された髪をかき上げ、彼を愛しく抱きかかえる。
…そっか、バーニィはこういう事、私にしか出来ないんだ。そうだよね、強く、乱暴に、何をされても寄り添い感応できるのは私だけだもん。マーベルは田舎者だけどあそこでは姫、気を遣うし、こうやって思いのままには振る舞えないから。アレアだってゴブリンクイーン。彼にとっては眷属、不満があっても顔には出せないもん。
そう、だから私をこうやって強く求めてくれる。私だけが彼に感応できるから。男勝りのマーベルは上になって我儘に腰を振ってるに決まってる。アレアだってゴブリンだし、繁殖の為の交尾しかできないもの。でも二人は必要な存在、だから我慢して溜めた不満をこうして私に。
私は自分で下着を脱ぎ、彼に跨り体を繋ぐ。期待は現実に代わり、私ははしたなく声をあげていく。何度かの絶頂が訪れたとき、彼がおもむろに私の首筋に歯を当てた。その瞬間、ズンっと頭から雷が落ちたような衝撃を感じました。予測ができた、このまま噛まれれば強い快感が、それは恐らく今まで感じた事がないほどの。それは怖くて、でも期待もありました。多分私、どうにかなっちゃう、と。
「…んっ♡ だめ、そんなの」
そんな拒絶の言葉、それを無視して彼はぎゅうっと歯を私の首筋に押し当てていく。全身が震えた。あまりの快感に。目の前でバチバチと火花が散った。
「んあっ、らめ、私、飛んじゃうからぁ!」
ろれつが回らない。体に力が入らない。何度も快楽の波が打ち寄せ、私はそこに漂うだけ。彼はさらに力を籠め、私の首筋を食い破る。私はもう、悲鳴すら上げられない。口が開いてそこからよだれが流れ落ち、目からはとめどなく涙があふれた。彼の歯が、私の中に、彼が私に流れ込む。私の血を吸っていく。判ったのはそれだけでした。
「おい、起きろ」
ぱちぱちと頬を叩かれ意識を取り戻す。気が付けば体を繋いだまま、私は気絶していました。
「ンっ…、ごめんね、気を失ってたみたい」
「もう、びっくりするだろ?」
そんな彼に私はにっこり微笑み、優しく抱きかかえた。まだ腕には力が入らない。何が起きたか正確には判らなかった。
「こないだお前が俺の血を吸ったから吸い返してやっただけだろ?」
「なんかね、すごくよくって、あ、私、おしっこ漏らしちゃってるね、ごめん」
「そんな事はどうでもいいけど、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。今綺麗にするから」
そう言って手ぬぐいで彼の下半身を拭い、私も自分の後始末、床は水たまりが出来ていたけどまあいいかな。そんな事をしながら私は今起こったことについて考えていた。
「ねえ、バーニィ、どんな感じだった?」
「どんな感じって?」
「私はすごく感じちゃったけど、バーニィはどうなのかなって」
「うーん、なんていうか支配欲っていうの? お前に牙を突き刺して、みたいな。まあ、俺に牙はないけど」
「血は?」
「うん、味は血の味? 別に特別変わってた訳じゃないよ?」
「そうじゃなくて、その、噛んだ時、私に、私の中に力を」
「あ、それそれ、お前が眷属作る時みたいに俺も力を流し込んでみた。あくまでイメージだけどね」
やっぱりそうなんだ。私、彼の眷属にされたんだ。そう考えると嬉しくなって何故か笑みがこぼれた。…私は魔界を捨て、家を捨て、公女と言う立場を捨てた。それでも捨てきれないものがあったんです。それは私自身。メーヴと言う女の矜持。それが今、砕けて散った。
私はメーヴと言う個人ではなく、バーニィの眷属。彼が居なければ私は成り立たない。そういう今までよりも近いところに。最初は彼の左側、そこが私の立ち位置でした。そして彼の隣、そう言う位置に。眷属となった今、私は彼の一部、そう言う存在なんです。切っても切り離せない彼の一部、もしかしたらずっと前からそうだったのかもしれません。
でも私が自分の矜持を捨てきれなくて、その事を認められなくて、彼に並んで立っていたい、そういうエゴを押し付けて。…でも今はそんなのどうでもいいんです。私は彼で、彼は私、血が混じり合って融合し、二人は一つの存在、そうなれたから。
※ この世界のヴァンパイアは血を吸われても眷属にはなりません。
※ この世界のヴァンパイアは血を吸い合っても融合できません。
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