異世界から帰還した勇者は

雨Ⅸ

第一章 

第1話 プロローグ

気付けば夜道に一人立っていた。古ぼけた街灯が周辺を微かに照らす。


これは夢だ。


何故だかすぐに理解出来た。


辺りを見渡してもただただ闇が広がるだけで何も見えない。


しばらくボーッとしていたが何かが変わる事も無く。


何もないならさっさと覚めないのかと念じてみる。だが、何も起こらない。


繰り返し念じてみるが結局何も変わらなかった。


少し周りを歩いてみるかと暗闇へ足を向ける。けれども、暗闇の中に一歩踏み込もうとするとそれを体が拒むように硬直する。何度やっても無理だった。


仕方なく夢が終わるまでボーッとすることにした。


ずっと立ってるのも疲れるので街灯の下に座り込む。


すると暗闇の中から足音が聞こえてきた。


即座に立ち上がりそちらに視線を向ける。


少しして暗闇から現れたのは


「渚?」


俺の妹だった。4、5歳位の姿をしている。彼女はどこか悲しそうな面持ちで俺の近くに寄ってくる。


だが、俺には気付いていない様だった。


「渚!!」


名前を叫びながら彼女に触れようとする。


後少しで渚に届く。


その瞬間、突然目の前が真っ暗になる。


意識が完全に途切れる直前


「お兄ちゃん………」


微かに渚の声が聞こえた気がした。

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