2012.10.31銀河【最終章】02

 若菜は銀河のいとこの遥と同じクラスメートで仲がいい。

 遥と遊んでいる時の若菜を見かけたとき、若菜が隼人・遥カップルに嫉妬しているのが、傍目から見てもわかった。


 もともと銀河の狙いは若菜ではなく、ヤンキーっぽいコトリという女の子だった。コトリに一蹴されたので、狙いを若菜に変えたいきさつがある。

 真面目そうな子のほうがちょろいのだから、女というのはUMAのように未知なるものだ。


 さて、いとこの遥に尽くす隼人みたいには、そうそうなれるものではない。あれは、川島疾風に通じるものを年下のくせに身につけている。

 自分の女にとって絶対的な男。他人が憧れを抱くのさえも許さない。圧倒的なヤバさを川島疾風は持っている。

 名は体を表すとはよくいったものだ。

 速く吹く風が邪魔をするようなもので、銀河は憧れていた朱美に、近づくことすらままならなかった。疾風と朱美のお似合いカップルっぷりを直視することができず、魂が飛んでいった錯覚に陥ったこともある。


 あんなものを見せつけたくせして、破局しやがって。


 二人にどんな事情があったのかは知らない。でも、別れるなんてあんまりだ。川島疾風と久我朱美の二人が力を合わせれば、どんな問題にも打ち勝てると勝手に信じていた。

 別々の道を歩くのが最善だというならば、恋愛には絶望しかないのだろう。

 最初から期待してはいけない。

 性欲を満たすだけにとどめておくのが一番だ。

 だから銀河は、誰ともお似合いのカップルなんかになりたくはない。なってはいけないと刷り込まれているからこそ、聖里菜の言葉を否定したくなる。


「ところで、聖里菜さん。傍目から見て、本当にアッツアツのお似合いカップルに見えましたか?」


 聖里菜は銀河の真剣さを汲み取ってくれたようだ。銀河と若菜を交互に見ていた瞳の色に、申し訳なさが混じる。


「正直に思ったことを言うで。銀河にお似合いなんは、その子とはちゃうと思う。騙されたと思って、223号室に行ってみ。そこに、自殺が趣味のやばい女がおるんやけど、案外、ああいう子とお似合いなんちゃうかな」


 この日、三度目だ。

 月美、カレン、と続いて聖里菜までにも楓をオススメされた。芸能事務所のゴリ押し女優のように、みんなが口を揃えて高評価をしているような状態だ。


「意味がわかんないんですね。なにを根拠にそんなことを」


「それはやな――」


 聖里菜の言葉を遮るようなタイミングで、銀河のポケットから振動音が響く。リモコンバイブのスイッチがオンになったのかと一瞬焦ったが、振動の正体は携帯電話だ。隣にいる若菜が邪魔したのかと疑う。

 が、とうの若菜は大人びた表情で、どこか遠くを眺めている。


 電話を確認すると、木曜日の女性からのメールが受信されている。返信が遅くなると、心配して何度も連絡をよこす女性だ。旦那がメールの返信をせずに先立ったせいで、銀河にとっては迷惑極まりない状態に陥っている。

 面倒と思いながらも、銀河は未亡人のために返事の文章を打っていく。


「質問しといて、その態度はなんやねん。人の話をちゃんときけや。ボケ」


 聖里菜に電話を奪われて、短い返信もできなくなった。にらまれるので、銀河もにらみかえす。もっとも、メンチのきりあいをするつもりはない。銀河が凝視するのは、あくまでもおっぱいだ。

 聖里菜は巨乳を見られていても、隠す気配がない。隙だらけの彼女は、携帯電話を若菜に奪われる。

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