2012.10.31風見【最終章】04
「ひと安心したように見えるんだけど、気のせい?」
「いや、安心してるよ。昔と同じで、成長してないんなら、ヒナのときの後悔を最小限に抑えられるからさ。強くなったら、変わったら、あのときどうして、その力がなかったんだって後悔するに決まってるから」
「後悔があったから、カレンって子を助けたんでしょ。片岡なんかの力を借りてまで必死になって」
「助けてないだろ。ガキにいいようにされてる」
「あれは、そばにいてあげられなかったから仕方がないでしょ」
「カレンがガキに、その日のうちに抱かれるかよ。助けようと思えれば、どうにでもできた」
「なに言って?」
「ボクの情報網を持ってすれば、わかるんだよ」
「嘘をつかないで。じゃあ、なんであんなに片岡からの電話で取り乱したのよ?」
これから、この世で一番ムカつく男がはきだすのは、最も醜いものだ。自分のことだから、風見は誰よりも知っている。
「知らないフリができなくなったから、絶望しただけだ」
無能でいられれば、お節介な誰かが優しくしてくれる。優しい世界で甘やかしてくれる。内面がゆがんでいることを知らない人たちが気にかけてくれる。
「これから、虚構の風見を演じないから。最低なボクを見届けてくれよ」
視線を背中に感じながら、風見はてきぱきと動く。
隠しカメラを一台回収すると、背後で息を呑む音が聞こえた。
「ひいただろ? 入院生活中に、看護師のセックス動画を撮影してたんだよ。売りさばくあてがあるから、色んな角度から撮影してたんだ」
トイレに隠していたカメラを五台回収する。素早く動いたつもりだが、同級生がうろたえている状態から回復するだけの時間はかかったようだ。
「私は無事に、ここまで生きてこられた。いまの風見がどうであろうと、私は」
「そうだな。ヒナが本当に許してくれるのなら、ボクは変われるかもな」
「許すよ」
「お前に許されても意味がない」
「は? なに言ってんの?」
「ヒナは、海に帰っていったんだよ」
再会したときから、予感はあった。甘い夢を受け入れられるほど、人生は楽しくないと知っている。
「お前がヒナの偽物だってのも、わかってる。そうだろ、須東特派員?」
「なに言ってるの。私は、ヒナよ」
否定がはやすぎる。
須東もまた、バレていると予感があったのだろう。さすが、同じ新聞部の人間だ。
「本当にヒナなのか?」
「そうだって言ってるでしょ」
「わかった。じゃあ、昔みたいに頼む」
便座の蓋の上に風見は腰かける。
自分がヒナだと主張し続けて、風見を苦しめる女に手招きをする。
「ほら。中学時代に、いつもしゃぶってくれてただろ?」
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