2012.10.31風見【最終章】05
彼女は唇を噛みながら棒立ち状態だ。そんなきつく閉じていたら、いざ風見の前で膝まづいても口でご奉仕できない。
「ああ、畜生。久しぶりにやれるんだったら、カメラを外すんじゃなかったかもな」
「もうやめなって。ばっかみたいだよ」
「お前の裸なら高く売れそうだったのに」
「私がヒナでも、スーちゃんでも同じね。あんたはもう初恋のせいで狂ったままよ」
彼女の悲しそうな表情が、風見を中学二年の風見らしくしてくれる。
戻れないと思っていた自分が、まだ心の片隅に残っているなんて。
「じゃあね。外に出てるから」
本当に、どうしてカメラを先に回収してしまったのだろう。
撮影していれば、いまの彼女の悲しそうな顔を何度も見えていたのだ。
映像として手元に残っていれば、風見がつまづくたびに、真っ当に戻る手段となっていただろう。
いますぐにでも、もう一度あの顔をみたくなっている。
トイレから出ていく前に鏡を見ると、いつもの風見がうつっているだけだった。
飛び出した廊下には、風見の中学時代を知っている女性の姿は見当たらない。
今度こそ本当に、もう二度と会えないかもしれない。
内なる声が聞こえる。心に空いた穴から、こちらを覗きながら奴は笑っている。
「どないしたん、きょろきょろして?」
声をかけてきたのは、聖里菜だ。有の居場所を教えてもらえると思って、廊下で待っていてくれたのだろう。
お前は、ちがうんだ。仮にしゃぶってくれたら、最高な気分になれるとしても、求めている相手ではない。
いまの風見が会って話したい相手には共通点がある。最後に会った時に、正しい力になれなかった相手ばかりだ。
ヒナや須藤やカレンのことを思うだけで、心にぽっかりと空いた穴から、暴言が風に乗って聞こえてくる。
正しいってなに?
優しいってなに?
生きるとは。
「大丈夫なん? 自分も入院患者なんやし、やばいんちゃうん? 看護師か先生か呼んでこようか?」
AV女優風情が、もっともらしいことを口にして。
うるせぇんだよ。
お前が共演者の若手アイドルのチンコをしゃぶったせいで『青春狂走曲』は打切作品になったんだろうが。父親が死んだ時に年上の彼氏と中出し温泉旅行に興じてた調教済みの分際で。
子役時代の親友のAVデビューが決まってたのに、金がほしくて奪い取ったんだろ。
無視して、さっさと行けよ。
自分のことだけを優先させる醜い人間の姿を最後に見させろ。
「ボクの体調は心配いりませんから。それよりも、ちょうど良かったよ、お姉さん。有くんの居場所を片岡の使いに教えてもらったところなんだ」
「マジでか!」
食いついてきた。輝くような笑顔だ。
須東はなにも教えてくれていなくいが、有の居場所を教えることはできる。
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