少年楽士

紫桜 黄花

 ほぅ……、と感嘆なため息が漏れる。少年の目にはあの時の光景が、未だ鮮明に残っている。初めて出会った感覚。あれは、そう……




 緊迫する空気。息をするのも忘れるぐらいに静まり返っている。誰も喋りはない。人々はみな、同じ方を向いている。そして今にも弾けそうな時、一つの琴の音が鳴り響く。 


──ポローン……


 その瞬間、ふわりと空気が震える。一つ、また一つと鳴る度に世界が変わっていくように感じる。気づくと横笛の綺麗な音色が重なり、それが合図のように他の楽器も交ざり合う。見事な調和が空間を響かせる。音楽は終わりに近づくほど心を揺さぶる。


 いつ終わったのだろうか。

 数拍の後、歓声があがる。それと同時に品のある姿勢で楽士がお辞儀する。一つ一つの動作にも隙を見せない優雅な礼。

 誰もがその仕草に目を奪われた。先程よりも大きな拍手で幕を閉じた。





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